朝日新聞が過去の歴史認識や対アジア外交において、戦前を彷彿する右翼的な論調を強めていることについて何度も批判してきた。その中心になっているのが朝日コラムニスト若宮啓文だ。
今朝の朝日新聞(2008,9,14) で、『耕論 日韓の悩ましさ 若宮啓文が迫る』と題して『和解のために』の著者朴裕河、俳優の黒田福美と対談している。
「竹島問題」と「特攻隊慰霊碑」、「これから」と3つのテーマについて語り合っているが、その傲慢で自己中心的な展開に呆れる。若宮を中心にこの三者には、問題の原点が日本側にあるという視点がまったく欠落している。というよりあえて目を背けている。
これは韓国について語っているが、韓国だけに対する考え方ではない。中国の日本の歴史修正主義に対する大規模デモが起こったときにも朝日新聞社説は、原因は中国側ナショナリズムにあると決めつけた。日本の歴史認識と過去の侵略と暴虐行為に対する謝罪と清算を否定したい日本帝国ナショナリズムを擁護する立場からの視点である。
「竹島問題」で若宮は
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若宮: ただ、日本にも江戸時代には自国領と認識していた事実があるのですが。
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と言っているが、若宮が「竹島一件」について知らぬはずはない。半月城氏からの反論が出されているはず。(注1) 若宮の言う事実を主張しているのは日本の外務省しかいない。
幕府の調査によって竹島、松島は朝鮮の領土という結論に達している。(注2) それを知って言い張るのなら、日韓の歴史問題をこじらせているのは若宮自身でしかない。
朴裕河の言説が日本だけで認められていることは彼女の発言から分かる。
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若宮: 「朴さんは「和解のために」で、竹島について日韓の両論を紹介し、共同領域にできないかと書きましたね。私は朝日のコラムで、いっそ竹島を韓国に譲って友情のシンボルの島にできないかという「夢想」を書きましたが、日本では暴論だとたたく人もいれば賛成する人もいる。独島では一丸になって燃えがちな韓国の世論を考えたら、朴さんの方がずっとすごいことを書いたと思いますが、大丈夫でしたか。
朴: それほど攻撃されませんでした。本は韓国でそんなに売れなかったし(笑)、読んでもらえれば前後の文脈で意図が分かってもらえますから。ただ、テレビなどでその部分だけを言ったりすれば、大変なことになったでしょう。
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極端な親日家を韓国人のオピニオンであるかのように創り上げることは、日本が常習的にやってきたことだ。朴氏はそのような極端な親日家では無いのだろうが、彼女の雑で甘い考えは日本のナショナリストに都合の良いように利用され、彼女の思いとはまったく反対の方向に向かってしまうだろう。
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若宮: 竹島問題が出てくるだけで、首脳会談もできなくなるのは不毛ですね。これを解決するには、広い視野で国益を考える政治リーダーが双方に必要でしょう。
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首脳会談もできないほど激しい反発する側に、それを単に不毛と切り捨てる”側”の国益を考える政治リーダーがいるわけがない。自己中視点の国益論が相手に通用するだろうか。
「特攻隊慰霊碑」について、黒田福美と若宮啓文は彼女の安っぽい同情心からの善意の行動が被害者の複雑な背景と深い傷への理解が足りないことに気がつこうともしない。日本人である自分が同情してあげるのをありがたく受け取るのがあたりまえだという態度が見える。独りよがりの善意の押しつけが相手をどれほど傷つけているのか想像力が働かないのだろうか。
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黒田: 不思議な話ですが、日本軍の特攻隊員として24歳で戦死した卓庚鉉さん、日本名・光山文博さんらしき人が夢に現れ、「日本名で死んだのが残念だ」と私に語ったのがきっかけです。異国の地に日本人として散った方を本来の名前で故郷の泗川に返してあげたいと思っていたところ・・・・
・・・ ところが除幕式の直前になり、左派の韓国進歩連帯と右派の光復会が靖国にまつられているような人物の碑は許せないと呼応技師、泗川市長も「拙速だった」と言い出した。
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なぜ韓国人特攻隊員なのかと思うが、夢に出てきたのならしょうがない。しかし、黒田のこの行動には異国の地で日本人として「散った」者への同情だけは見えるが、日本政府によって若者を殺された特攻隊という組織、なぜ日本名で異国の地にいるかということに思いをはせることはまったくしていない。むしろ、「散った」などと本質を誤魔化した言い回しを使うところに彼女の帝国日本への理解の仕方が伺える。
黒田福美は日本が韓国人に対して行なった加害行為をどの程度認識しているのだろうか?その国家犯罪が民族の人間関係にどれほど深い傷を与えたのかも分かっていない。朴の発言からこの石碑のトラブルの核心を突く天皇への言及があるが、まったく無視したままだ。
帝国日本に支配された時代背景を理解していない自分が悪いとは思わず、韓国人のなかに反日という偏見があるからだと決めつけている。
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朴: 結果としては残念でしたが、予想されることでもありました。背景には「親日派」に対する左派の攻撃と言った植民地時代の遺産があり、冷戦時代の名残も絡んだ現代の政治対立もあります。
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今回、こうした人々が石碑に反対した理由は、まず天皇に忠誠を誓った人を受け入れるわけにはいかないと言うことでしたが、日本は謝罪していないという認識もありました。
若宮: 日本と戦争した中国と違い、韓国では自分の民族が日本軍として一緒に戦わされたという屈辱感が、複雑に表れますね。しかし、日本が謝罪していないというのは誤解です。1995年の村山首相談話で植民地支配を明確に謝罪しているのだから。
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いや若宮はまちがっている。日本は国家として謝罪はしていない。国家として謝罪しているのなら、なぜ問題が起こる度に村山談話の評価を首相が表明しなければならないのか?首相個人の談話で誤魔化すのではなく、国会決議で植民地支配の謝罪をするべきだろう。植民地支配を肯定する議員は処分するぐらいのことができなければ。
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若宮: いろいろ問題はありますが、戦後60年たって朴さんや黒田さんのような人が出てきただけでも、大変な進歩じゃないか。これからの日韓を考える上で、お二人のような方の役割は大きい。
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朴や黒田のような人物が好ましいと思うのは若宮=日本側であるのに、それをまるで韓国側も評価されるものだとの思いこみは独善的という言葉がピッタリだ。
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黒田: 韓国人の反日感情はまださめやらないのかと警戒していましたが、実際は日本の女の人が来たと言うんで、食堂のおばちゃんなんか抱きしめてくれて、またおいでと言ってくれた。
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日本への批判が暴虐の限りを尽くした大日本帝国に対するもので、個人を嫌っていると思いこむのは右翼がすり込んだ偏見というものだろう。
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若宮: 2年後に日韓併合100年を迎えます。韓国ではその記憶が呼び覚まされる心配もある。でも、北朝鮮という共通の不安要因があるし、アジアの中でこれから厳しい状況を迎える日韓両国ほど、利害が一致している国はない。価値観も近い隣国だし、手を取り合わない限り、 10年、20年先の展望は開けないと思います。
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韓国で日韓併合の記憶が呼び覚まされるのは、当然だ。それをなぜ心配しなければいけないのだ。きちんと日本が過去の清算をし、近隣被害国と和解できていれば恐れることではないはず。和解をするのは日本こそが歩み寄るべきなのに、相手の足下を見たり、甘言やごまかしで謝罪や清算から逃げ被害者を罵ることしかしないから、過去を恐れるのだろう。
若宮は、和解の為には韓国が歩み寄るべきで過去については忘れろと言いたいようだ。
卑怯にも、北朝鮮を共通の敵として目を反らし、日本に付き合わなければ韓国の先はないとまで脅している。100年前の伊藤博文の言いぐさと変わらない。
過去の歴史問題においては、日本は一方的な加害者である。「和解」というのは、加害者が被害者に十分な償いが行われたと被害者側が認めた上でなされるものだ。このような加害側の責任を棚に上げるための「けんか両成敗的な和解」や加害責任の清算という義務をまったく無視して相手側に「和解」を求めるというのは、人間性が破綻している恥知らずな暴力的言動としか思えない。いやまさしく「暴力」だ。
このような欺瞞言説がリベラル派から堂々と主張されている。日本のリベラルが国家主義者と同様な国家・国益という視座でしか考えることができないからだろう。仮面リベラルと呼びたい腹黒い奴らだ。
注1)半月城通信 「竹島=独島問題、朝日新聞社への質問書 朝日新聞 論説主幹、若宮啓文様」( http://www.han.org/a/half-moon/hm109.html )
注2) 内藤正中 金柄烈 『史的検証 竹島・独島』(岩波書店)p42
「 見られるように、幕府の「御尋」では「因州伯州へ付けている竹島」といって、幕府としては竹島が因伯両国の鳥取藩に属する島とばかりに思っていたことがわかる。しかし鳥取藩はこれに対して「竹島は因幡伯耆両国に付属する島ではない」と回答した。そして第七項目の質問として、竹島の外に両国に附属している島はないかというのに対しては、竹島松島そのほかに両国に附属の島はないと明言した。鳥取藩が竹島だけでなく幕府の質問になかった松島についても、因伯附属の島ではないといったのである。松島というのは現竹島のことである。両島ともに因伯に附属する島ではないと言うことは、日本の領土ではないと言うことになる。」
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