コラム
矢島彩
スポーツナビ

たくましさ増した慶応、ライバルとともに甲子園へ
1月23日・センバツ出場校発表リポート

2009年1月23日(金)

■涙で始まったライバルストーリー

2年連続8回目のセンバツ出場が決まり、喜ぶ慶応ナイン
2年連続8回目のセンバツ出場が決まり、喜ぶ慶応ナイン【写真は共同】

 第81回選抜高校野球大会の出場32校が決まった。目玉となるのは史上初の同時出場となった、慶応高(神奈川)と早稲田実高(東京)。甲子園での早慶戦実現を期待するファンも多いだろう。両校は互いのレベルアップを目指して、毎年6月に交流試合を行い、刺激し合ってきた仲でもある。そのきっかけになったのは、14年前の涙の銀メダルだった。

 1995年夏、神奈川県大会で慶応高は準優勝に泣いた。同じく早稲田実高も東東京大会で準優勝。慶応高・上田誠監督と早稲田実高・和泉実監督の「惜しかったですね。お互いに切磋琢磨(せっさたくま)していきたい」という電話で、翌年から交流試合を行うことになった。以来、両校は推薦入試を取り入れるなど野球部を強化。慶応高が2005年のセンバツでベスト8に入ると、翌年の夏には早稲田実高が斎藤佑樹を擁して全国制覇を成し遂げた。
「うちは早実を目標にやってきました。一緒の舞台に立ててうれしいです」(上田監督)

 146キロ右腕・白村明弘投手(2年)は1年のときに交流試合に登板。「4番の森厚太君(現・2年)にボコボコに打たれた。強力打線の印象がある」と振り返った。
 ただし、白村も植田忠尚主将(2年)も「自分たちは1勝を目指している。早実など相手のことは関係ない」ときっぱり言い切った。

■スタートは不安ながらも、快進撃で秋の日本一へ

「地に足をつけて戦いたい」と甲子園の抱負を語る上田監督。中央は植田主将、右端は白村投手
「地に足をつけて戦いたい」と甲子園の抱負を語る上田監督。中央は植田主将、右端は白村投手【矢島彩】

 大野義夫校長がことしのチームに対し、「夏に活躍したメンバーが抜け、秋の大会は期待3、不安7の気持ちでした」と、胸中を明かした。昨夏の甲子園ベスト8のレギュラーは全員が3年生。8月の練習試合も悪天候で中止が続き、新チームは実戦不足のまま秋の県大会に臨んでいた。当時、上田監督は「誰がどの打順に最適なのかよく分からないんだよ」と、試行錯誤しながら戦っていた。

 それでも秋は明治神宮大会を制して日本一。旧チームより個々のレベルは劣っているように見えるが……。快進撃の特徴のひとつは機動力だ。スタメンのうち50メートルを6秒台前半で走れる選手が8人並んでいる。足のエース・荒川健生中堅手(2年)は「四球やエラーで点が取れるように泥臭い野球をやっている」と話す。もうひとつの理由は、ビッグイニングの多さ。9試合中(秋の県大会、関東大会)5試合で1イニング5得点を記録するなど、打線のつながりの良さが光る。「昨年のセンバツでの13残塁(華陵高1対0慶応高)を見て、もっと点が取れるところで取れるような攻撃をしないといけないと思った」(植田主将)。反省をしっかり生かしている。
 また、エース・白村は昨秋から体重が4、5キロ増え、新球・チェンジアップも習得中。逆に女房役の植田は「迷惑をかけられないですから……」と、ダイエット中。少しでも足を速くしようと前向きだ。上田監督は「今度は地に足をつけて戦いたい。初々しい気持ちで挑む」と、気を引き締めた。

■チームを支える学生コーチの存在

 そして、昨秋の躍進に貢献したのが学生コーチの存在だ。学生コーチとは、野球部OBの現役大学生たちのこと。講義の合間を縫って練習を手伝い、対戦校の偵察にも足を運んでいる。甲子園期間中、大学2年生の4人がチームに帯同していた。しかし、彼らは「新チームが心配なので学校へ帰ります」と言い残し、帰京。この自発的な行動、次世代を見据えた指導が新チームの土台をつくったと言っても過言ではない。宮下創太左翼手(2年)は「悩んでいるとき、朝7時に呼んで一緒に練習してくれました」と恩返しを誓う。

 慶応高は来週から甲子園出場メンバーを決めるトライアウトを行う。昨年は1回だったが、今年は5回実施する予定だ。
「夏の後、時間がなくて多くの選手にチャンスを与えられず悔いが残っている。レギュラーも白紙に戻すから甲子園は違った顔ぶれになっている」(上田監督)
 球春を告げる甲子園が、たくましくなったナインを待っている。

<了>

矢島彩

 1984年、神奈川県出身。『アマチュア野球』、『輝け甲子園の星』『カレッジベースヒーローズ』(以上、日刊スポーツ出版社)や『ホームラン』(廣済堂出版)などで雑誌編集や取材に携わる。また、日刊スポーツコム内でアマチュア野球のブログを配信中
矢島彩 『アマ〜い野球ノート』

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