殺人件数は増えている?
2008 / 05 / 30 ( Fri ) 2009年5月から、重大な刑事裁判に国民が参加する裁判員制度が始まる。1年間で約
330人から660人に1人が裁判員候補者として選ばれることになるとの試算がある。そ うであれば、宝くじに当たるより、裁判員候補者になる確率の方が高そうだ。 ところで、質問。今、殺人事件の件数は増えているか、減っているか。答えは殺人 事件の件数は減っている。 では、次の質問。戦後、最も殺人事件の件数が多かったのはいつか。答えは1954 (昭和29)年で3081件。2番目に多いのが1955年で3066件で、これに対し、2007年は 1199件にとどまっている。つまり、今は多い時の3分の1となっている。「ALWAY S三丁目の夕日」の映画は、ほのぼのとした感じが漂っていたけれど、何と、あの時 が殺人事件は1番多かったのである。 去年、殺人件数は戦後最低を記録し、最も多い時の約3分の1であることがどれだけ 知られているだろうか。殺人件数には、未遂や予備を含む一方、乳児殺しや自殺への 関与は含まれないが、05年の死亡者数は599人である。 もちろん、599という数字は重い。しかし、報道されている実感からすると、死者 は1万人くらいで、しかもどんどん殺人罪は増えていて、昔は良かったのに今はとん でもないことになってしまったという感じではないだろうか。 なぜ、日本は殺人事件の件数が減ったのか。 諸外国との明確な違いは、若い人たちによる殺人が減ったということである。これ も意外な点である。ニュースを見ると、「本当に今の若い人たちはいったいどうなっ ちゃったの?短絡的で、信じられない」と思っている人も、けっこう多いのではない か。 総合研究大学院大学の長谷川真理子教授(行動生態学)の論文によれば、一般的に 男性の殺人には年齢による顕著な違いが見られ、殺人率は20代前半に急激にピークに 達し、以後、再び急速に減少していく。諸外国はそうなっている。しかし、日本では 1955年以降、20代前半の男子の殺人率がどんどん減少し、1990年以降では年齢による ピークが何となくなってしまったのである。 では、日本の若者はどうなったのか。 私の周りでも若者のうつ病や自殺の話を聞く。外へ向かうのではなく、自分の内へ 内へと、こもっていき、自分を痛めつけているのではないか。若者も含めた日本の自 殺者数は3万人を下らない。 日本では受刑者の数がどんどん増えている。また、死刑判決も増えている。殺人事 件数は戦後最低なのに、2007年に全国の裁判所で死刑判決を下された被告人は46人に 達し、死刑確定囚は去年末の段階で107人となった。戦後最多である。鳩山邦夫法相 は、就任から今までの8カ月の任期中に10人の死刑執行を行っている。 今の日本は、米国とそっくりだ。犯罪の数は減っていても、格差拡大や貧困の問題 が存在し、社会の「不安」は止まらない。多くの人が「恐怖心」を持ち、受刑者が増 えていく。現実を見て、考えることが必要ではないか。 【共同通信社会員制情報誌「Kyodo Weekly It's小タイム」05月12日号より】 |
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