社説
救急搬送/「防ぎ得た死」をなくそう
課題は出尽くした。どこを、どう改めればいいかもわかっている。しかし、実践が伴わず、正解を示せないことがある。それが、いまの救急医療の姿ではないか。
急病人や負傷者が、医療機関が見つからないために、取り残され、手遅れとなる例が各地で後を絶たない。今年一月、伊丹市で起きたケースもそうだった。
深夜に自転車と単車が衝突し、単車の男性は西宮市内の兵庫医大病院に運ばれた。もう一人の比較的症状が軽いとみられた男性は、救急隊が病院を探している間に容体が悪化し、搬送先で亡くなった。
「医師不在」「満床」などを理由に、十四の病院から受け入れを断られていた。早く運ばれていたら結果は違ったと思われるだけに、やり切れない思いが募る。
このケースから、大きく二つの問題が浮かぶ。一つは阪神間の夜間の救急医療体制が、思いのほか脆弱(ぜいじゃく)だったことだ。
六市一町を合わせた人口は神戸市に匹敵するほどだが、命にかかわる患者を受け入れる三次救急病院は兵庫医大しかない。これまでは入院可能な二次救急指定の病院が補完してきたが、救急医の退職などで十分に役割が果たせなくなっている。
このことは、救急搬送の際に五回以上受け入れを断られる事例がここ数年、急増していることにも示されている。
阪神間に限ったことではないが、こうした状態が改善されないと、同じ悲劇がいつまた繰り返されるかわからない。
救急患者の中でも、交通事故などに多い多発外傷への対応は難しいとされる。命にかかわる傷はどれか、瞬時に判断し、的確に処置する必要があり、経験と高度な専門性が求められる。こうした人材が都市部でも不足しているのではないか。だとすれば、交通事故の多い地域だけに、政策的に人材の確保に努める必要があるだろう。
もう一つの問題は連携プレーだ。救急医療ではすべてにわたってそれが重要だが、阻んでいるものも多い。
今回、搬送が遅れた理由に、病院との交渉が救急隊任せになった連携のまずさがあった。同じ時間帯に消防への救急出動要請が重なったためだが、そんなとき消防指令は何を優先すべきか。普段から判断基準を明確にし、確認しておくことが大事だ。
防ぎ得た死(プリベンタブル・デス)をなくすことは救急医療の使命である。搬送遅れによる死をなくすことも、その一つに含まれるという意識を持ちたい。
(2/8 09:18)
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