「中国発 経済観察報」

中国発 経済観察報

2009年2月9日

追跡ルポ「北京鳥インフルエンザ死亡事件」

度重なる誤診で、対策発動まで10日余りを空費

1/4ページ

印刷ページ

北京禽流感死亡事件調査

経済観察報記者 / 汪言安

2009年1月5日午前7時20分、黄燕清は北京胸科医院の集中治療室で息を引き取った。窓の外ではちょうど紅色の朝日が昇りつつあった。福建省から北京に出てきて2年足らず。まだ19歳にもならない彼女は、再び新春(旧暦の正月、今年は1月26日)を迎えることができなかった。

 彼女の命を奪ったのはありふれた病気ではない。亡くなった当日、北京市疾病予防抑制センターと軍事医学科学院が患者から採取した検体をそれぞれ検査し、さらに中国疾病予防抑制センター(CDC)が再検査を行った。その結果、H5N1型鳥インフルエンザウイルスの核酸陽性反応が出たのである。中国衛生省の専門家チームは、黄燕清が高病原性の鳥インフルエンザに感染していたと断定。2009年の初めての死亡例が確認された。

福建省からの出稼ぎ家族を襲った悲劇

 「娘はどこにいるのか分からない」――。黄燕清の父親の黄金象は、悲しみの表情で頭を振りながら、マスコミの質問攻勢に同じ言葉を繰り返した。母親は、娘が生前使っていたベッドの枕元に伏して泣いていた。

 1月4日の夜、娘を最後に診察した北京胸科医院の医師は、両親に「鳥インフルエンザに感染している可能性がある」と知らせた。この時、既に入院から5日が過ぎていた。不吉な予感に襲われた両親は、慌てて集中治療室に駆けつけて娘に会おうとしたが、当直の医師に止められてしまった。

 昨年12月30日、両親は自宅から10キロメートルほど離れた北京胸科医院に娘を連れてきた。北京市通州区で唯一の「三級甲等(規模や専門性で格付けされる最高ランク)」の専門病院で、結核の治療に定評がある。黄燕清は真菌感染と診断され、集中治療室に運ばれて酸素マスクを装着された。

 隣人たちによると、両親は娘の最期を看取ってやることができず、彼女がどこに安置されているのかも分からず、やり場のない無念と後悔に苛まれているという。集中治療室に入ってから亡くなるまでの間、娘に話しかけることも、好物を作って食べさせてやることもできなかった。そして最後の別れの機会も与えられないまま、娘の遺体は衛生防疫当局に引き渡された。

 「恐ろしい病気だけに仕方がない」。当局の対応に、父親は公の場では一定の理解を示した。

 一家と同じ福建省の出身者2人が、22キロメートル離れた河北省三河市の行宮市場で食肉用に処理されたアヒル9羽を買ってきたのは、昨年12月19日のことだった。父親はその1羽を手に入れた。福建省では冬至にアヒルを食べる習慣があり、この日は冬至の2日前だった。

 黄燕清は、手でアヒルの首をつかんで家に持ち帰った。帰宅した後、まだきれいに抜けていない羽毛があることに気づき、水場へ持って行って自分で処理した。その後、父親が内臓を取り除き、娘にきれいに洗うよう言いつけた。冬至の夜、親子3人は父親が腕を振るったアヒル料理を幸せそうに食べた。


This week's information



「仕事術」分野の関連情報


Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
0件受付中
トラックバック


このコラムについて

中国発 経済観察報

中国の「経済観察報」は2001年創刊の週刊経済情報紙。発行部数は約68万部。政府系の機関紙ではなく、民間資本によって創刊・運営されている新興経済メディアの草分けの1つ。経済政策から金融、産業まで幅広くカバーするとともに、「理性、建設性」という編集方針を掲げ、センセーショナリズムを排した客観的な報道や冷静な分析に定評がある。北京を中心に、若手インテリ層の支持を集めている。

⇒ 記事一覧

ページトップへNBOトップページへ

記事を探す

  • 全文検索
  • コラム名で探す
  • 記事タイトルで探す

全体

  • 投資・金融
  • アジア・国際
  • 経営
  • 政治・社会
  • 中堅中小
  • ライフ・健康
  • IT・技術

Business Trend

  • 企業戦略
  • 経営とIT
  • ライフ・投資
  • 仕事術

編集部よりお知らせ

日経ビジネスからのご案内

Business Trend 一覧