「SPEED(覚せい剤)−危うい少女たち」第1部
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「入手先」
アキコもサキも、覚せい剤で逮捕もしくは補導されたことはない。
覚せい剤はサキがまとめ買いしてくる。彼女には暴力団に関係している三十代の男友達がおり、その男から月に一度くらいの割合で仕入れてくる。
仕入れ先は一つではない。昨年の冬休み直前、この男が逮捕され、覚せい剤が入手できなくなった時も、サキはすぐに別の高校に通う男子生徒から購入してきた。ほかにもいくつか「ルート」があるらしい。
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アキコは「覚せい剤を使用している女子高生を十人近く知っている」と言う。その女子高生たちは、いずれも覚せい剤をサキの男友達から買ったり、サキから買った。アキコが実際に会ったことがあるのは、そのうち一人だけだ。
「警察に捕まったら、買ってる子とか、やってる子の名前言わなきゃなんないでしょ。同じ学校の親友の名前は絶対言いたくないから他の学校の子の名前を言うことにしている。友達を裏切る子はサイテー」
アキコはいたずらっぽく笑った。
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女子高校生にとっては、直接イラン人など外国人密売人から覚せい剤を手に入れるより、学校で友達から買う方がずっと「確実で安全。それに混ざり物も少ないみたい…」(アキコ)。
別な方法もある。
アキコから「覚せい剤を始めた」と聞かされた幼なじみのマリは今年七月末、時々利用するテレホンクラブの「伝言板」にメッセージを吹き込んだ。
『Sに興味あります。詳しい人教えてください』
反応は翌日にあった。若い男の声で「興味ある子はベル番(ポケットベルの番号)を吹き込んでください」とのメッセージが吹き込まれていた。
マリによると、自分のベル番を打ち込むと、売人の連絡先となる携帯電話の番号がポケットベルに打ち返されてくるという。家人に知られることはない。
少女たちの周囲に張り巡らされているネットワークは秘密性が高く、それでいて容易に参加・拡大するシステムになっている。
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茨城県八郷町の加波山中で、同県真壁町の無職、猪瀬典子さん(16)が死体で発見された事件の同県石岡署捜査本部によると、解剖の結果、猪瀬さんの遺体には殴られたような皮下出血が数カ所あったほか、注射針の跡もあり、体内からは覚せい剤が検出された。
同本部に死体遺棄容疑で逮捕された岩田宗則(22)、比企俊勝(20)の両容疑者は「(猪瀬さんに)覚せい剤を注射していたところ、死んでしまった」などと供述している、という。
【メモ】NTT移動通信網株式会社(NTTDoCoMo)埼玉支店によると、今年五月末現在のポケットベル県内普及数は約百五十六万六千台(うち同社が一四%を占める)。同社が昨年三月から六月にかけて関東甲信越エリアを対象に新規契約者を調査した「ユーザーの動向調査」(サンプル数五千四百八十三人)によれば、女性比率は五七%。年齢別では十代女性が四四%を占めている。
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