新社長を直撃! 日本マクドナルド その1〜強いところをより強くしていくのが経営
原田 永幸(はらだ・えいこう)氏/日本マクドナルド 社長
(聞き手:大河原 克行=フリーライター)
2月10日に日本マクドナルドが発表した2004年度(2004年1月〜12月)連結決算は、8年ぶりの前年度比売り上げ増、3年ぶりの黒字回復、そして、5四半期連続の既存店売り上げ増という好調ぶり。経常利益も前年度比283.7%増という大幅な成長となった。
外食産業全体は、マイナス成長からいまだ抜け出せていない。こうした状況での好調な決算は、社長就任わずか1年という原田永幸氏の手腕によるところが大きい。「強い部分を強くした結果」と原田社長は語る。だが、社内の意識は大きく改善している。いま、日本マクドナルドで、何が起こっているのだろうか。
■決算の内容を自己評価するとどうなりますか。
原田 「トータルで何点だ」というのは言いにくい。あるテーマは100点以上、しかし、100点に到達しなかったテーマもあります。
大きな成果として挙げられるのは、日本マクドナルドにとってのビジネスチャンスがどこにどれだけあるかを特定し、定量化、トップから社員まで全員がそこに向けてどんなステップを踏んで取り組んでいけばいいのかの共通認識を作れた点です。社員が目標に向かって自信を持って取り組める体制ができたと言えます。
もう一つの成果は、マクドナルドの強みを再認識し、そこを強くする施策に取り組めたこと。経営は、弱いところを克服するよりも、強いところを強くしていくことの方が重要です。
私は、1997年にアップルコンピュータの社長に就任しました。このときにアップルは、アップルらしさを忘れ、余計なところにばかりリソースを配分していた。だが、スティーブ・ジョブズがCEOとして復帰してからは、個人用携帯情報端末の「ニュートン」をやめ、ゲーム機の「ピピン」をやめ、という具合に不要な事業を切り捨て、アップルが強い分野だけに投資を集中した。そうして登場したのがiMacであり、その後の成長につながっているのです。
この成功体験からも分かるように 「強みは何か」をトップから社員までが共通の認識としてとらえることは、大変重要なことなのです。
■日本マクドナルドにおける強みとは何ですか?
原田 「サービス」、「バリュー」、そして「キッズとファミリー」です。キッズやファミリーに対して、価値のある商品を提供する。しかも、スピードという無形のサービスを添えて。ここに日本マクドナルドの強みがある。
単に値段を下げたり、むやみに高級指向に踏み出したり、といった戦略ではマクドナルドの強みを発揮できない。かつて、極端な低価格戦略をとり「デフレのリーダー」とまで言われました。しかも、次の戦略がないまま、むやみに低価格化していた。あれはマクドナルドがとるべき戦略ではなかった。
マクドナルドは、全世界で通用する数少ないブランドの一つです。そのマクドナルドが「デフレのリーダー」である必要はない。ゴールデンアーチのブランド(編集者注:看板などに利用されている、M字型の黄色いアーチのこと)が泣きますよ。どこにマクドナルドの価値や強みがあるのかをしっかり把握すれば、何をやればいいのかは自ずと分かる。今回の決算内容は、何をやるべきかが、トップから社員にまで徹底したことのあかしではないでしょうか。
2004年度の好決算は、既存店の回復が大きい。新規店舗の開店が41店舗だったのに対して、閉店したのが40店舗。純増はわずか1店舗だった。既存店売上高は前年比3.3%増。既存店客数も3.0%増となっている。
投資の多くを既存店舗における「メイド・フォー・ユー」の導入に振り向けた。注文を受けた後に商品を作るオーダーメイドシステム「メイド・フォー・ユー」は、2004年末で3721店舗に導入が完了。導入率は98.6%に達した。
■2004年の取り組みを振り返ると、原田社長としては、「守りの経営」の認識が強いですか。
原田 既存店舗への投資など内部固めによる業績回復は、外から見れば、「守り」のイメージに受け取れるかもしれない。しかし、「守り」だなんて思ったことは一度もないですよ(笑)。むしろ、この1年は、攻めに攻め抜いたという認識です。私は社内に向かってこう言っているんです。「コスト削減はばかでもできる。役に立たない社員を切ればいいだけだから」と。
しかし、そんなことをしても会社は伸びない。優れた社員をいかに伸ばすか、そして、お金を使って、どれだけ成長させるかがカギなのです。日本人は、お金を使って事業を伸ばすことに対して消極的すぎる。お金を使わずに伸ばそうとするから、伸びるものも伸びないことが多い。継続的な成長を目指すのであれば、投資に対して積極的であるべきだ。
メイド・フォー・ユーを全店規模で一気に導入したのも、それがマクドナルドの強みにつながると判断したからです。それだけの投資をする必要があった。
社員には「お金が必要だと思ったら、どんどん提案してほしい」と言っています。それが、社員に経営者感覚を植え付けることにつながる。かつての日本マクドナルドにはカリスマ経営者がいましたから、次の経営者が育ちにくいという風土があった。これを払拭しなくてはならない。私は、「新たな組織づくり」や「グローバライズ」の分野ではカリスマ性を発揮するつもりです。しかし、実務面はそれぞれの執行役員に任せています。
例えば、私自身、店舗によく出向きます。しかし、店舗のオペレーションには一切口を出さない。「少し店の雰囲気が煩雑だなぁ」と思っても、それを注意するのは別の人の仕事ですから私は注意をしない。店長はオペレーションのプロです。私よりもその点では熟知しているはずです。そのプロに対して、私がとやかく言うことはできない。
しかし、「店舗で何が課題となっていて、それを改善するためにはどうすべきか」、「お客様に喜んでもらうためにはどうするか」を発見することは私の仕事です。だから、店には教わりに行っているんですよ。これからもこのスタイルは変えないでしょうね。
■最初の1年で100点に到達しなかったことはなんですか。
原田 新たな文化の定着です。これまでの年功序列から成果主義へシフトしたわけですから、並大抵の変化ではない。これには思ったよりも時間がかかっている。
社内には三つのことを言っています。一つは、上司に対して正しい異論を唱えて、どんどん議論してほしいという点。二つめは、リスクがあっても新しいことをやる意識の徹底。そして三つめは、先にも触れましたが、「お金が必要だと思ったら、金をくれと言える社員であってほしい」ということです。
多くの企業では、これと反対のことをしたときに「モデル社員」と言われる。日本マクドナルドにも同じ風土があった。しかしこのような態度は、年功序列の世界ならば通用するかもしれないが、成果主義の世界では通用しない。これを改革しなくてはいけない。
例えば、末端にまで指示を徹底させるのに、「会社の決定ですから」とか、「社長の指示ですから」という言葉を切り札のように使う管理職がいる。「右を向け」と言われても簡単に右を向いちゃいけないのです。右を向くには、右を向く理由がある。その理由を知っていれば、「社長の指示ですから」という言葉は出てこない。こうした文化のままだと、仕事にも責任を持たない風潮が出てくる。仕事に自分の価値を見出だすためには、この意識から変えていかなくてはならない。
社員が変わると、会社が変わるんです。いま1週間に一度、社員と話をする場を設けています。約3時間話すんですよ。そこで、会社の方針とか、考え方だけでなく、人生論なども話す。
日本マクドナルドという会社の中で自らが働く価値をどう捉えるのか、といったことにも触れる。全世界に店舗を展開していて、日本にも3000店舗を超えるネットワークがあり、これだけのブランド力を持つ。しかも、直接顧客に接することができるビジネスです。「このメリットを君の人生にどう生かすのか」、そんな話をしているのです。
社内の意識を、こうして一歩一歩変えていかなくてはならない。文化を変えるには、もう少し時間をかける必要がありますね。
日本マクドルドの業績回復の背景には、「強みを生かす経営への転換」がある。そして強みとは、原田社長が指摘する「サービス」、「バリュー」、「キッズとファミリー」である。これらの強みをさらに強化するために、具体的にどんな手を打ってきたのか。そして、今後、何に取り組んでいくのか。次回は、日本マクドナルドの具体的な施策に触れる。
原田社長のインタビューは、3回連載の第1回です。第2回は2月23日(水)に掲載する予定です。
■原田 永幸 氏のプロフィール
学歴など】
1948年12月3日生。長崎県出身
1972年 東海大学工学部卒業
職歴】
1972年 日本NCR入社
1980年 横河ヒューレット・パッカード入社
1983年 シュルンベルジェグループ入社 取締役マーケティング部長、取締役ATE事業部長
1990年 アップルコンピュータジャパン(当時)入社 マーケティング部長
1993年 同社 ビジネスマーケット事業部長 兼 マーケティング本部長就任
1994年 同社 取締役マーケティング本部長就任
1996年 米国アップルコンピュータ社 ワールドワイドコンシューマーマーケティング/SOHO担当バイス・プレジデント就任(米国本社勤務)
1997年 アップルコンピュータ株式会社 代表取締役社長 兼 米国アップルコンピュータ社 副社長就任
2004年2月 日本マクドナルド 代表取締役副会長兼CEO就任
2004年3月 日本マクドナルドホールディングス株式会社 代表取締役副会長兼CEO就任
2004年5月 日本マクドナルドホールディングス 日本マクドナルド株式会社 代表取締役副会長兼社長兼最高経営責任者CEO
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