クレージー・ホースが死守しようとしたブラックヒルズは
スー族やシャイアン族の聖なる山であり先住民族にとっては
魂の根拠地であった。現在、ここは風光明媚な観光地および
『民主主義の神殿』として多くの白人避暑客たちをあつめている。
山間にはゴールドラッシュを記念する西部劇さながらの街が保存され、
十九世紀の蒸気機関車がいまも観光客を乗せて山を越え谷を抜けて走る。
そして、ブラックヒルズの中心部にはラッシュモアという四人のアメリカ
合衆国大統領の顔を山肌に刻んだ巨大な彫刻がそそり立つ。四人の大統領は
どれもインディアン掃討史に関係深い男たちばかりであった。
・ジョージ・ワシントン…南東部および東部森林インディアンの『イロコイ連合国家』の解体、抹殺。
・トーマス・ジェファーソン…先住民族に対する絶滅策を白人すべてに命令。彼の起草した独立宣言には
次の字句がある。「年齢・性別・貴賎の区別なく全面的破滅を戦争の法則とする苛酷なインディアン蛮族…」
・エイブラハム・リンカーン…ミネソタのマンカトーの裁判所で三十八人のスー族の酋長に絞首刑判決を裁断。
・セオドア・ルーズベルト…歴代大統領のうちインディアンの土地をいちばん多く掠奪。
このラッシュモアから見下ろされるようにひとりの男の記念碑が立てられている。セメントづくりの
クレージー・ホースの立像だ。これは白人たちによってつくられた。まるで白い世界の引き立て役のように。
デニス・バンク(AIM活動家)はこれについてこう語る。「冗談じゃない! われわれの戦争が全面化する
前にはかならずあの像をぶっ壊す! 民族の英雄を白人たちによってあんな醜悪な姿にされたままでたまるか!
白人たちはクレージー・ホースを矮小化するためにあんなものをつくりやがったんだ。われわれがクレージー・
ホースの世界に戻れる時期…その時期が来そうになったら、かならずあの立像をぶっ壊す。それがわが民族が
アメリカ合衆国と名実ともに戦争状態にはいる時の合図だ! ウーンデッド・ニーの次はブラック・ヒルズになろう…」