松下政経塾 医療研究会(熊谷 大、北川 晋一、高橋 宏和、津曲 俊明)
(前回記事はこちら)
昨今声高に叫ばれるようになった「医療崩壊」を医師不足という観点から3回に分けて探る。最終回は、医療現場の現状から考えた「日本の医療への提言」をお届けする。
2008年7月に私たちが取材先を検討した際に医師不足、院長辞任などによって混乱する、銚子市立総合病院が一つの候補として挙がった。銚子市にアポイントを試みたが、9月に病院閉鎖をすること、8月は市民集会の対応に追われるため、取材を受け入れられないとのことであった。新聞記事などによれば、最高責任者たる市長は国、県の支援を受けられなかったことを理由とし、議会は赤字経営を追求することにまい進し、市民は集会を開くが、閉鎖させるなというシュプレヒコールに終始する。銚子市の例のように、医療崩壊について責任を持って行動する者が誰もいない状況こそ最大の課題である。
現状分析(前回記事)でも述べてきたが、日本の医療を取り巻く状況をどれだけの人が知っているのだろうか。日本の人口1000人当たりの医師数は2.0人とOECD諸国中27位であるが、日本の医療の質は高いレベルといわれている。つまり、日本はいわゆる先進国の中で、少数の医師によって安くて質の良い医療を提供してきたという現実がある。日本の医療、特に外科手術や救急医療に代表される本格的医療は、勤務医の献身と自己犠牲、志によって支えられてきた。しかし近年の医療需要の増大による労働環境の悪化と医療訴訟のリスク増加、社会やマスコミからの過度の攻撃的批判などにより勤務医の士気が下がり、「立ち去り型サボタージュ」(*1)が進行している。
*1:小松秀樹著『医療崩壊 「立ち去り型サボタージュ」とは何か』(朝日新聞社)参照。