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自死遺族のケア後手に/県内自治体、まずは予防優先
- 社会
- 2008/11/17
家族や友人を自殺で失った自死遺族の交流と支え合い場となる「集い」を開催している県内の自治体が、県を含めて四団体にとどまっていることが十六日、神奈川新聞社の調べで分かった。自死遺族への対応は、国の自殺総合対策大綱にその必要性が盛り込まれた社会的な課題だが、現実には遺族のケアまで手が回らない自治体の実態が浮き彫りになった。
神奈川新聞社が十月末の時点で、県内の十九市に電話などで自死遺族支援の有無を聞き取り調査したところ、「わかちあいの会」などと呼ばれる自死遺族の自助グループを立ち上げて定期的に開催するなど、具体的な遺族支援に乗り出しているのは横浜、川崎、横須賀の三市。これに川崎市との共催で「集い」を開いている県を含めても四団体だった。
集いの開始時期は横浜市の二〇〇七年八月が最も早く、川崎市と県が同年十月、横須賀市は同年十二月となっている。
自死遺族へのケアが後手に回っているのは、大半の自治体で自殺対策が本格化したのが〇七年六月以降と、緒に就いたばかりのため。
国が自殺対策基本法に基づき自殺総合対策大綱を策定したのも同年六月で、国自体も「手探り状態」(内閣府自殺対策推進室)で施策を進めているのが現状だ。こうしたなか、自殺対策元年への対応に追われた自治体の多くは人員の問題もあり、〇七年度の当面の施策の重点を相談窓口の整備など、自殺者を出さない体制の整備に置かざるを得なかった。その結果、自死遺族に対する対策の優先順位が相対的に低下したものとみられる。
今回の聞き取りに対しても、相模原市や平塚市など複数の自治体が自死遺族を対象にした「集い」の開催を「今後の重要な課題」と認識しながらも、「現状ではそこまにで手が回っていない」と答えている。
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川崎市と県が大和市内で開催する自死遺族の集い。そこでファシリテーターと呼ばれる進行役を務める南部節子さん(63)=茨城県龍ケ崎市在住=は自身も四年前、夫を自殺で失った。当初は「自殺」と周囲に言えなかった最愛の人の最期。その経験から「自殺は語ることのできない死という偏見を乗り越えて」と語り、集いへの参加を呼び掛けている。
南部さんの夫の攻一さんが奈良県内のJRの駅近くで電車に飛び込み、自ら命を絶ったのは二〇〇四年二月十一日午後九時半すぎ。五十八歳だった。その一週間前、単身赴任先の横浜市内のマンションから電話で「今帰った」という連絡を受けたのが家族との最後の会話となった。
「分かち合いの会」とも呼ばれる自死遺族の集いでは、家族や親しい人の自殺というつらい経験を共有する人たちが集まり、自らの意思で体験を語り合う。
南部さんがその運営に積極的に携わる理由は、語り合いが遺族自身の「自己回復」「自己再生」につながると信じているからだ。夫の自殺から数カ月間は泣き暮らす毎日だった南部さんは、ミニコミ誌で集いの開催を知って参加した。「つらいが、前を向いて歩いていこう」との気持ちになったという。
親しい人を自殺で亡くした人の多くがそうであるように、南部さんも当初、近所には夫が「心筋梗塞(こうそく)で亡くなった」とだけ告げていた。しかし、自殺対策に取り組む特定非営利活動法人(NPO法人)・自殺対策支援センターライフリンクのメンバーとして、県内など各地で自死遺族の支援に奔走するいまは違う。
「自殺は身勝手な死という世の中の偏見を、まずなくさなあかん」。その思いは、最愛の人の最期を語ることをためらいがちな自死遺族の「内なる偏見」にも向けられる。
「たとえ自殺でも、その瞬間まで一生懸命生きたはず。なぜ亡くなった人の話をすることがはばかれるのか。『いいお父さんだったね』と言ってあげられないのか。遺族が語らなければ、亡くなった人が浮かばれない」
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