日本企業の業績が急速に悪化している。上場企業の2009年3月期の連結経常利益は前期比6割減り、製造業に限れば連結中心の決算になった00年3月期以降、初めて最終損益が赤字となる見通しになった。上場企業は前期まで6期連続で増益を続けてきた。追い風から逆風への急変ぶりが鮮明になっている。
収益の悲観的な見通しは、企業の08年4―12月期決算の発表が峠を越えたことで明らかになった。資源価格の下落で原材料費を圧縮できるような一部の企業を除き、業績の悪化は幅広い業種に及ぶ。
揺らいだ収益の前提
人口の頭打ちに直面する内需型企業の不振に加え、電機や自動車をはじめとする輸出産業にも業績悪化が及んだのが特徴だ。世界的な景気後退の余波が、想像を上回る早さで日本企業を襲ったことを物語る。
企業は、これまで収益拡大を支えてきた2つの前提が大きく揺らいだことを認識すべきだ。米国市場の成長と円安である。
企業が製品の販売先として頼りにしていた米国市場は、個人消費の不調で萎縮のさなかにある。日本企業を直撃する構図が表れたのは自動車業界だ。米国全体の新車販売は昨年、07年より18%も落ち込んだ。日本メーカーは米国勢の不振を尻目に4割までシェアを伸ばしており、市場縮小の影響は大きくなった。
米個人消費の不振は長期化すると見るべきだ。家計には出費を控える要素があふれている。保有する住宅の価格下落には歯止めがかからず、住宅を担保に膨らませてきた借入金は返済を迫られている。企業収益の低迷は雇用の減少に飛び火し、1月の米失業率は7.6%と16年4カ月ぶりの高水準になった。
輸出企業の収益を底上げしてきた円安も、過去のものとなりつつある。円相場は対ドルで07年度平均の1ドル=114円から同90円前後まで上昇した。日本と米欧の金利差が縮小したことなどで、マネーが円に向かった。米欧は危機対策として金融緩和を続ける見通しで、金利差が再び拡大する展開は考えにくい。
日本企業が打つべき手はまず、逆風を乗り切る防御策である。
経営の合理化は待ったなしだ。09年3月期、最終損益が7000億円の赤字となる見通しになった日立製作所は、拠点の統廃合や不採算製品からの撤退を進め、10年3月期に固定費を2000億円削減する。
業績の拡大期に、日本企業はバブル崩壊時の危機感が薄れ、無駄なコストが膨らんだという不満も株式市場では出ていた。高いコストは景気の悪化に弱い収益体質に直結する。改革に終わりはないことを再確認して実行に移してもらいたい。
米国に収益源を依存する企業は販売先を成長力のある地域に移す戦略も検討に値する。景気の悪化は世界に広がっているが、成長率が相対的に高い地域はある。景気対策を打ち出した中国では、1月に入って銀行融資が急増するなどの兆しも出始めた。三菱マテリアルは米国向けのセメント輸出を凍結し、中国向けに振り替えた。
信用収縮は長引いており、財務戦略にも工夫が求められる。例えば、社債や株式の市場では一度に大量の資金調達するのではなく、市場環境に応じてきめ細かく発行する。そのためにも投資家への情報提供を普段から徹底するといった施策だ。
守り以上に重要なのは、危機後を見据えた攻めだ。
強みを見極める好機
逆風は自らの強みを見極め、経営資源を投じる選択と集中の機会でもある。グローバル競争を戦うためにも、海外企業を買収する好機は逃すべきではない。日本企業は買い手として有利な立場にいる。円建ての買収価格が円高で下がったからだ。
世界的な株安で買収価格も安くなっている。旺盛な投資意欲で価格をつり上げていた買収ファンドの力も衰えた。昨年10月、サントリーはニュージーランドの栄養飲料大手の買収を決めたが、買い手候補に残った3社はすべて日本企業だった。
研究開発への意欲も課題だ。歴史的に景気後退期には、企業が研究開発投資を絞る傾向がある。業績が悪化するなかでの投資は簡単なことではないが、イノベーション(変革)は勝ち残りのカギを握る。繊維に革命を起こしたナイロンは、米デュポンが大恐慌のさなかに巨額の開発費を投じて商品化にこぎ着け、その後同社の長期的な成長を支えた。
政策面の支援も欠かせない。潜在力のある企業が目先の資金繰りに窮して破綻しないよう、当局は目配りしてほしい。雇用対策の実施も急務だ。生き残りを迫られる企業にとって、人員削減はやむを得ない面もある。収益が伸びれば雇用吸収力は増す。人員削減が景気全体に与える影響を抑え、業績の回復を早めることを目指して政策を進めるべきだ。