麻生太郎内閣の支持率は、最近のマスコミ各社の調査では、軒並み2割を割り込んでいる。過去の毎日新聞調査によれば、2割を割り込みながらも、その後回復したのは小渕恵三内閣(98~00年)だけ。他はいずれもおおむね半年後には退陣した。にもかかわらず、今回は自民党内からの倒閣運動が起きていない。
麻生首相が景気回復策の目玉にしている定額給付金は、小渕内閣が行った地域振興券に酷似している。「バラマキ政策の典型」と振興券は批判されたが、これを機に小渕内閣は支持率をほぼ倍増させた。衆院の任期は9月には切れる。人気低迷の麻生首相は小渕内閣の例にあやかりたいのだろう。
短命に終わった安倍晋三、福田康夫両内閣も支持率低下に悩まされたが、倒閣運動で退陣したわけではない。麻生内閣での最大の倒閣運動は渡辺喜美元行革担当相の離党だったが、その後に同調者は現れていない。消費税率引き上げに道筋をつける税制改正関連法案をめぐる中川秀直元幹事長らの抵抗も、実施時期を明確にしなかったことから、収束に向かっている。
自民党内の抗争が激化しない要因としては、(1)派閥の弱体化(2)党執行部の権限拡大で、党営選挙が定着化(3)小選挙区制の導入(4)2大政党制への移行(5)「ねじれ国会」の出現--が挙げられる。
今秋までには必ず行われる総選挙に備え、自民、民主両党は300小選挙区の大半は候補者を決めている。しかも、大勝した07年の参院選での余勢をかって民主党は「政権交代」を最大の争点に掲げる。選挙モードの高まりで、双方とも党への帰属意識は強まり、党内抗争は利敵行為と見られかねない。
制度論だけではない。小泉純一郎首相の退任以後、3回行われた自民党総裁選は、いずれも事前の予測通り1人に票が集中した。「勝ち馬心理」が、国会議員にも大いに働くようになった。中曽根康弘元首相は「国を背負っているという気概が薄くなった」と、政治家の資質を問題視する。全く同感だ。
求心力が弱まった派閥の領袖は総理、総裁を目指さず、「総中間派現象」も起きている。派閥が有していたリーダー育成機能を肩代わりするシステムも開発されていない。その結果、「ポスト麻生」の有力候補が次々に浮上してこない状況になっている。低人気の麻生首相だが、代わるべき人材も台頭していない。抗争回避で党内融和を図る縮小再生産路線では、党内活力は当然減退する。
毎日新聞 2009年2月8日 東京朝刊