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社説:インフルエンザ 新型対策に今冬の教訓生かせ

 今冬のインフルエンザは、いつもとはちょっと様子が違うのではないか。そう感じ、不安に思っている人がいるかもしれない。

 1月に東京都町田市の病院で集団感染が起き、高齢者3人が死亡した。抗インフルエンザ薬タミフルが効かない耐性ウイルスが、日本全国に拡大していることもわかった。

 いずれも、軽視はできない。ただ、こうした事態はまったくの予想外だったわけではない。毎年流行する季節性のインフルエンザを甘くみてはいけない。加えて、季節性インフルエンザの教訓を、近い将来に出現すると考えられる「新型インフルエンザ」の対策に生かすことが大切だ。

 日本でも、毎年、季節性のインフルエンザがもとで死亡する人がいる。少ない年もあるが、多い時は1シーズンに1万人以上が死亡していると推計される。特に高齢者と乳幼児の死亡リスクが高い。

 今回、集団感染が問題になった町田市の病院には、450人近くが入院しており、平均年齢は83歳だったという。高齢者の多い病院や福祉施設は、明らかに要注意の場所だ。

 患者や職員の多くはワクチン接種をしていたというから、無防備だったわけではない。ただ、マスク着用や手洗いなどの予防策が徹底していたかどうか、疑問が残る。こうした施設での抗インフルエンザ薬の予防投与の必要性も検討しておかなくてはならない。人の出入りをどうコントロールするかも課題だ。

 これが新型インフルエンザだったら、さらに被害は拡大したはずだ。それを念頭におきつつ、今回のケースをよく分析し、今後に生かすべきだ。

 薬剤耐性ウイルスの出現も、ある程度予想されたことだ。抗ウイルス薬にせよ、細菌に対する抗生物質にせよ、耐性病原体が出現するのはある意味で宿命だ。タミフル耐性ウイルスは、昨シーズンに欧州でAソ連型に高頻度で検出された。日本では、今シーズンに入ってAソ連型の大半が耐性であることがわかった。今のところ、別の抗ウイルス剤リレンザが有効だが、これにも耐性ウイルス出現のリスクはある。

 タミフル耐性ウイルスが流行しているからといって、新型インフルエンザがタミフル耐性として出現するわけではない。ただ、その可能性はゼロではないし、後から耐性を獲得する場合もありうる。現在、新しい抗インフルエンザ薬の治験が進められているが、複数の薬を用意しておくことは重要だ。

 もちろん、抗インフルエンザ薬だけに頼るのも危険だ。限られた薬や限られた予防法に頼っていると、それが無効になった時に打つ手がなくなる。人類に免疫がない新型インフルエンザでは特に、さまざまな対策によるリスク分散を心がけておくことが欠かせない。

毎日新聞 2009年2月8日 東京朝刊

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