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社説

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電機産業―未来見すえ危機克服を

 電機産業が世界不況の奈落に沈んでいる。今期の見通しでは、大手9社のうち7社の純損益が赤字だ。その総額は2兆円に迫る勢いで、IT(情報技術)バブルが崩壊した02年3月期以来の厳しさである。

 日立製作所の赤字は金融機関を除く会社として史上2番目の7千億円、東芝も同社としては過去最悪、パナソニックとNECも7年前に次ぐ巨額損失……。収支トントンは三洋電機、黒字は三菱電機のみというありさまだ。

 デジタル化の流れのなかで、家電製品の市況商品化が進んでいる。半導体を詰め込んだ基本部品、液晶やプラズマのパネルなどを調達すれば、世界中どこで組み立てても性能に差がつきにくい。勢い供給過剰になりやすく、市況商品のように値崩れが起こる。

 今回はそれに加えて不況で需要が急減し、稼ぎ頭だった「お茶の間家電の王様」の薄型テレビが直撃を受けた。デジタルカメラ、パソコンなど多くの製品でも同じ構図で採算が悪化し、この影響は製品の心臓部にある半導体の市況崩壊にも波及した。

 さらに誤算は自動車関連だ。自動車の電子制御化が進むうえ、カーナビなど電子機器の装備が増え続けている。家電産業だった電機業界はいまや「車電産業」にもなりつつある。その自動車が、日米市場で新車販売の3〜4割減という土砂降りの状況となり、家電と車電の両翼が失速した。

 日本の鉱工業生産は昨年10〜12月期に11.9%減り、この1〜3月期も大幅な減少が予想される。自動車と電機の極度の販売不振が生産全体の急減を呼んでいる。電機9社で正社員を含む6万6千人以上を削減・配置転換するリストラ策も打ち出された。

 激震の急襲に身を縮めるのはわかるが、工場閉鎖や雇用削減の影響は地域社会にとってきわめて大きい。中長期的に雇用を守るよう、最大限の努力をしてほしい。衝撃の大きさに驚いてリストラが行き過ぎ、次の回復期に積極策へ出るための要員が枯渇しないよう配慮するのは当然だろう。

 思えば電機産業は、新技術を形にして夢のある新製品を生み出すことにより、暮らしを変え、新たな市場を創造してきた。その底力が試される。

 オバマ米大統領が言うグリーン・ニューディールを引き合いに出すまでもなく、環境や省エネをテーマに生活様式や社会基盤を見直し、よりよい技術体系に置き換える必要がますます強まるだろう。太陽電池も電気自動車でもカギを握るのは、技術の革新なのだ。現代社会の頭脳や神経となったITの重要性はさらに増す。

 現在の閉塞(へいそく)感を打開する担い手として、電機産業への期待は高まるに違いない。苦境を脱し、未来を開く種が次々と芽吹くのを一日も早く見たい。

薬の通販規制―もっと知恵を絞りたい

 市販の大衆薬について、インターネットや電話、郵便による通信販売を今年6月から原則禁止にする省令を厚生労働省が出した。

 同じ日に舛添厚労相は薬の通販のあり方を議論する検討会を設けた。議論の行方次第で省令見直しもあるという。省令を出したそばから見直しもというのだから、何ともわかりにくい。

 通販規制に対し、お年寄りや障害者など外出の難しい人が困る、漢方薬などを取り寄せている人が購入できなくなる、という不安の声が上がっていた。検討会設置はそれに配慮してのことだろうが、議論をこれまで尽くしてこなかった対応のまずさは否めない。

 今回の見直しは、薬の誤った使用による事故を防ぐため、よく説明せずに売るといったルーズな販売をなくすのが狙いだ。06年に成立した改正薬事法で決まった。

 新制度では副作用の危険度に応じて大衆薬を三つに分類した。最も危険度の高い第1類では薬剤師による説明を義務づける。次の第2類では、都道府県の試験による「登録販売者」制を新設し、登録者がいればスーパーやコンビニでも売れるように緩和する。風邪薬や漢方薬がこのグループに入る。

 省令は、通販だと買う人の状態をつかみづらく、十分な意思疎通も難しいとして、これらの通販は認めない。通販で扱えるのはビタミン剤や整腸薬などの第3類だけになる。

 ネットなどでの薬の通販に対しては、手軽すぎて未成年者の購入や薬の乱用につながると心配する声がある。薬害を受けた人たちは「薬にはそもそもリスクがある。安易な販売に歯止めをかけてほしい」と訴えている。

 一方で、副作用や乱用を防ぐうえで大切なのは、店舗での対面販売か通販かという営業の形態ではなく、事業者のモラルだとの指摘もある。

 販売のガイドラインを自主的に設けている通販事業者もいる。そうした事業者と厚労省が連携し、通販のルール作りや、悪質な業者を退場させる仕組みができないものだろうか。

 通販事業者側も、年齢や販売個数の制限を無視して売っているような事業者がいないかなどの情報を集め、問題があれば改善につなげられる方法を積極的に提案してはどうか。

 薬剤師がいなくてもコンビニで手軽に買える薬が、なぜ通販ではだめなのか。妊娠検査薬のように直接の危険がないものでも、やはり通販では扱えないのか。薬の分類のあり方もさらに検討する必要がありそうだ。

 大事なのは、どのような販売方法であれ、薬を使う人にきちんと注意事項や副作用のリスクが伝わり、必要な時に相談ができるようにすることだろう。議論を深める余地は、まだまだ多くある。

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