オナジマイマイ(左)は交尾を続けるが、コハクオナジマイマイは交尾器を抜いてしまってしまう(矢印)=浅見准教授提供
カタツムリが交尾する際、交尾器の表面にある微細な彫刻模様で、相手が自分と同じ種かどうかを識別している可能性が高いことを、信大理学部(松本市)の浅見崇比呂准教授(53)=進化生物学=らが突き止めた。一つの種から新種が分かれて進化する際のスタート地点である「生殖隔離」の過程を解明する有力な手掛かりとして注目される。
東邦大理学部(千葉県船橋市)の関啓一研究員らとの共同研究。英王立協会の生物学専門誌「バイオロジー・レターズ」(電子版)に13日付で掲載された。
カタツムリは雌雄同体で、交尾は互いに交尾器を相手に挿入して精子を交換して卵子と受精させ、両者が産卵する。温帯地域に生息する外来種「オナジマイマイ(BS)」と、近縁種で形態がそっくりの在来種「コハクオナジマイマイ(BP)」で実験した結果、BSとBPは10回中8回は同種間で交尾するが、2回は異種間でも交尾した。
異種間では、BSは通常と同じように交尾するのに、BPは交尾器を抜いてしまうことが判明。BPはBSの精子をもらって産卵するが、BSはBPの精子をもらえず産卵できないことが分かった。
相手の識別には化学物質「性フェロモン」がかかわっている可能性もあるが、交尾して初めて種の違いに気付くケースが2割あるため、性フェロモンだけでは説明できない。浅見准教授は「種ごとに異なる交尾器の微細な彫刻模様で相手の種を識別している」と結論付けた。
交尾器の形態の違いで生殖隔離が起きる例が、巻き貝の仲間や雌雄同体の動物で報告されたのは初めて。カタツムリの交尾器の彫刻模様は種の分類の根拠として使われているが、なぜ種ごとに彫刻模様が異なるのかは分かっていなかった。
冨山清升(きよのり)鹿児島大理学部准教授(動物行動学)の話 新種が進化する際の生殖隔離のメカニズムについては、精子と卵子の不和やフェロモンなどさまざまな研究がされているが、今回は、交尾した後に「器械的な違い」で相手が違うと気付いていることをデータで証明した。他の動物を含め、世界初の画期的な成果だと思う。