雇用情勢が急速に悪化し、雇用不安が高まっている。政府は全閣僚で構成する「緊急雇用・経済対策実施本部」の会合で、新規雇用創出のための支援策を取りまとめた。
介護や農業、環境といった将来にわたって人手が必要となる分野で二百六に上るモデル事業を提示し、自治体に対する支援策を盛り込んでいる。二〇〇八年度第二次補正予算に組み入れた、四千億円の雇用創出基金などを財源に充てるという。地域の実情にあった雇用創出に結びつくよう、具体化を急がねばなるまい。
モデル事業として掲げられたのは、高齢者の介護や子どもの保育を手掛ける福祉拠点「フレキシブル支援センター」の設立や、森林の間伐材や外食産業から出る食品廃棄物を再利用する事業などだ。ほかに、海岸の漂着ごみを取り除く清掃、耕作放棄地の雑草を刈り取る事業、病院のサービス向上のための事務作業の補助や院内ガイドなどの雇用、住宅用太陽光発電の設置促進なども進める。
確かに介護や医療、農業などなお人手不足感の強い職種があるのは事実だ。雇用のミスマッチを調整し、就業の機会を広げる努力は必要だろう。政府は市町村からの相談を直接受け付け、モデル事業以外でも幅広く支援する方針だ。
「百年に一度」といわれる世界的な金融危機と景気後退の渦にのみ込まれて、自動車や電機を筆頭に、日本企業の〇九年三月期決算は総崩れになる見通しだ。業績悪化に伴い、正社員も含めた大規模な人員削減計画が打ち出されている。
総務省が一月末に発表した昨年十二月の完全失業率は4・4%と前月比0・5ポイントも上昇した。過去最大の悪化幅である。厚生労働省は、製造業を中心とした「派遣切り」など企業の人員削減で、昨年十月から今年三月までに失職したか、失職する非正規労働者が約十二万四千八百人に達すると公表した。
未曾有の不況下、雇用対策は待ったなしの状況にある。麻生太郎首相は今国会の施政方針演説で、今後三年間で百六十万人の雇用創出を打ち出した。今回の支援策もその具体化への一歩といえよう。
ただ、小手先の雇用対策では通用しないほど事態は深刻だ。官民挙げてあらゆる手段を総動員する必要があろう。中長期的な対策も含め、雇用のセーフティーネット(安全網)構築に向けた取り組みを加速させねばならない。
総務省消防庁が、救急患者受け入れ拒否問題の改善に向け、患者の容体に応じた搬送先の医療機関リストを盛り込んだ「搬送・受け入れ基準」策定を都道府県に義務付ける方針を有識者検討会で示し、了承された。消防法改正案に盛り込み、今国会への提出を目指すという。
搬送先リストには、心肺停止状態なら救命救急センター、重症の脳疾患はA病院といった具合に症状や程度に応じた具体的な医療機関名を載せる。基準では、救急隊員がリストの中から搬送先を選ぶ際のルールや、搬送先が決まらない場合の最終的な受け入れ先を当番制で確保するなどの方策を定める。
救急隊員の円滑な搬送先選択や救命救急センターなど一部医療機関への急患集中回避に役立ち、たらい回しの発生を抑制できる有効な策ではないか。
基準策定は都道府県ごとに設けられる医師や消防関係者、有識者らによる協議会が担当。基準に従って市町村の消防本部が業務に当たる。救急搬送の件数や病院の数は、地域によって大きく異なる。リストや基準づくり具体化の段階で、実情に合わせたきめ細かい配慮が大切なことはいうまでもない。
救急患者受け入れ拒否問題では各地の自治体も独自に改善に取り組んでいる。東京都は、救急隊に代わって地域の病院同士が協力して受け入れ先を探す制度を近く始める。札幌市は既に夜間急病センターに患者受け入れ情報オペレーターを配置するなどの対策を始めている。
消防庁の調査では救急隊が三回以上受け入れを拒否されたケースは二〇〇七年、全国で約二万四千件に上る。今年一月にも交通事故に遭った兵庫県の男性が十四病院で断られ、亡くなった。関係機関の一層の協力と工夫で、悲劇をなくしたい。
(2009年2月7日掲載)