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海洋汚染情報 −海の事件簿−
海上で起きた重大な汚染事件・事故について、独自の視点から鋭くメスを入れ、分析・解説する”海の社会部デスク”、その名も”元海の男”、職業”(さすらい派)研究員”による海の事件簿。
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『★韓国大規模流出油事故、重罰化の傾向は?★』[2008年12月12日(金)]
昨日、ある重大海難の刑事裁判の控訴審判決が言い渡されました。私にとっては驚きの判決でした。と言っても日本の話ではなく、お隣り韓国の話です。

昨年の12月7日の朝のことでした。韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里(約9キロメートル)の海域で、錨を入れて停泊中の香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリット/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突しました。

その結果、“ヘベイスピリット”から、積荷原油10,000キロリットル以上が大量流出したのでした。この海域は風光明媚な国立公園です。そして、何よりも水産業が極めて活発なエリアでもあります。原油の大量流出により、周辺沿岸域のアワビ・カキなどの養殖漁業や海水浴場・観光業、干潟などの自然環境や貴重な海岸植生などが、壊滅的な被害を蒙りました。

一昨日、韓国の高等裁判所は、大型海上起重機台船を曳航していたタグボートの韓国人船長二人に対し、一審判決と同様、懲役二年六ヶ月と八ヶ月の有罪判決を下しました。この判決は予想通りでした。ここからが驚きなのです。

さらに、一審では無罪の判決が下された“ヘベイスピリット”のインド人船長及び一等航海士に対し、禁固一年六ヶ月と八ヶ月の有罪判決を下したのでした。報道を見る限り、“執行猶予”という文字は一言も出てきません。ならば実刑ということなのでしょう。

“ぶつけられた”側が実刑判決なのですから驚きです。しかも、二人のインド人は事故発生依頼丸々一年、当局によって異国の地で身柄を拘束され続けています。

しかも、彼らが拘置所にでも収監されていれば、一年間の拘留期間が未決分としてカウントされる可能性が高く、仮にそのまま刑に服したとしても、もう少しの辛抱で出所できるのですが、現実はまったく違います。

彼らは事実上の軟禁状態におかれています。自費で韓国に滞在し、出国はおろか外出すらままならず、足止めを食っている状況です。したがって、丸一年の期間は刑期にまったくカウントされず、はじめから刑に服さなければならないのです。

インド政府は韓国政府に人道問題として抗議して然るべきです。事実、IMO(国際海事機関)での国際会議の席上でも、インド政府代表団は韓国を名指しで非難し、他国に対し、韓国が今回の海難でインド人船員対し行なってきた非人道的な対応の酷さを訴えています。

昨夜、ある海難の“打ち上げ”を兼ねて、海事弁護士の先生方らと夕食を共にしました。席上、今回の判決やインド人船員に対する韓国の対応について、話が及びました。やはり、「やり過ぎ、日本では到底考えられない。」とするのが一致した意見でした。

事故を振り返って見ましょう。“ヘベイスピリット”に衝突した大型海上起重台船は、事故前日の12月6日午後、二隻のタグボートによって、それぞれ一本のワイヤーロープ計二本で牽引された状態で、仁川から巨済に向けた曳航を開始しました。

事故当日(12月7日)の朝5時20分頃、同曳航船団は事故現場海域に達しました。その際、付近に所在する航行管制室は、同曳航船団が錨泊中の“ヘベイスピリット”に接近しつつあることを察知し、注意喚起のため、無線によって二度呼びかけましたが、タグボートからの応答はありませんでした。

朝5時50分頃、航行管制室はレーダーにより、同曳航船団の航跡に異常が生じ、“ヘベイスピリット”にますます接近する状況を察知し、再度、無線によって呼びかけましたが、やはりタグボートからの応答はありませんでした。

その頃、同曳航船団では、ワイヤーロープの一本が切れ、大型海上起重台船の制御ができない状況に陥りつつありました。

朝6時20分頃、曳航船団は“ヘベイスピリット”にますます接近する状況となりました。無線が繋がらないことに業を煮やした航行管制室は、タグボート船長の携帯電話番号を調べあげ、やっとのことで、警告の連絡を行うことに成功しました。

朝6時30分前、航行管制室は“ヘベイスピリット”に対しても無線連絡を行い、曳航船団との衝突の危険が差し迫っているので安全な海域へ移動するよう、警告を行ないました。

朝6時50分頃、航行管制室にタグボート船長から連絡があり、「(大型海上起重台船の制御が不可能なので、)“ヘベイスピリット”を移動させてほしい。」旨を伝えてきました。

“ヘベイスピリット”は航行管制室の要請に即座に応じず、依然、その場所にとどまり、錨泊を続けていました。後の取調べで“ヘベイスピリット”側は、「(航行管制室からの移動警告は承知していたが、)大型タンカーが主機関を用意し、移動するためには十分な時間を要する。」と主張しました。

やがて、朝7時15分頃、まるで糸の切れた“凧(たこ)”のような状態の大型海上起重台船が、“ヘベイスピリット”の左舷側面に激突、三箇所の破口を生じさせました。

“ヘベイスピリット”は船体が一重構造(シングル・ハル)でした。側面外板の内側は原油を満載した貨物タンクとなっています。当然のことながら、積荷の原油が破口から噴出し、流出油災害へとつながったのでした。

たしかに、“ヘベイスピリット”側も事態の緊急性の把握に欠けていました。時系列的に見る限り、主機関を準備し錨を完全に巻き上げ、主機関によってどこか安全な場所に移動するまで、十分とは言えないまでも、試すだけの価値はある時間的な余裕は見出せます。

また、そこまでたどり着けなくても、せめて、錨鎖の長さを調整するなどして、衝突の角度や衝突箇所をコントロールさせ、被害を最小限に抑え、あるいは、うまくいけば衝突を回避させることもできたかもしれません。

しかし、“ヘベイスピリット”は錨泊が禁止されている場所にいたわけでも、無許可で停泊していたわけでもありません。“非”はあるにしても、禁固刑を課すまでの過失であるとはとても思えません。今回の判決は極めて厳しいと思います。

謎を解く鍵は、もう一人の当事者、航行管制室に隠されているのではないでしょうか。航行管制室は、韓国・海洋水産部管轄の出先機関です。

さて、事故当時の昨年12月、韓国では大統領選が繰り広げられていました。12月19日に行なわれた韓国の大統領選挙は、即日開票の結果、保守系野党“ハンナラ党”の李明博(イ・ミョンバク)現大統領が、大方の予想どおり、他の候補を一方的に大きく引き離し、圧勝しました。

さて、海洋水産部は1996年、農林水産部(農林水産省)から独立した巨大組織です。日本で言うところの国土交通省・港湾局、同海事局、同海難審判庁、水産庁、海上保安庁・海洋情報部など、海関係の行政機関を一本化して出来た組織です。

韓国のメディアは、“ヘベイスピリット”の原油流出事故に関し、その責任の一端が海洋水産部にあるとし、厳しく批判しました。

設立当時の海洋水産部には、事故当時の現職大統領であった盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領が長官として在任していました。こうしたことから、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が長官当時から親しかった海洋水産部の官僚人脈にまで言及し、原油流出事故の対応のまずさと絡め、集中砲火を浴びせました。

事故発生直後、まだ初動の段階から、こうした行政批判や態勢不備の指摘が行われていたことは、大統領選挙が絡んでいたことも大きな理由の一つと考えられます。

行政批判の矛先をかわすためには、別の“悪役”が必要です。まさか、インド人船員が“代役”というわけではないでしょうね。

私は今回の判決、極めて厳しいとは受け止めながらも、韓国の法律に基づき適正に裁かれたものと信じています。環境災害犯罪に対する重罰化の傾向は、なにも韓国に限ったことではありません。いずれ、日本もこうなるのでしょうか。



『★あなたは純粋ボランティア?★』[2008年02月05日(火)]
昨年12月7日、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合で発生した原油大量流出事故のその後です。

この事故では、韓国全土から多くのボランティアが被災地を訪れ、発生からこれまでに、延べ130万人が海岸清掃活動に参加したと言われています。

先週、韓国の一部のメディアは、ボランティア活動に参加した人々のうち、一部の小中高校の教師が、公務員の旅費規程に基づき、一人あたり5万〜8万ウォン(約5,600円〜9,000円)の出張手当や交通費のほか、時間外勤務手当の支給を受けていたことが判明したと伝えています。

なお、これらの教師に引率されてボランティア活動に参加した児童・生徒は、交通費などは自己負担していたとのことです。

今回の事故における一般市民によるボランティア活動について韓国では、愛国心によって育まれた奇跡的かつ感動的な出来事と捉えられ、政府機関からも「ノーベル賞の候補として推薦する予定だ。」などの驚嘆の声明が発表されるほどの盛り上がりを見せてきました。

したがって、今回の一部の教師に対する手当等の支給の発覚は、こうした盛り上がりに水を差し、国民を大いに落胆させたことでしょう。

今日はボランティア活動についてお話します。ボランティアとは、もともとは“志願兵”を意味する単語でした。

19世紀末、米国で社会福祉活動を目的とした組織が結成されました。彼らは自らを「Volunteer of America」と名乗りました。

これを契機に、自由意思によって社会貢献活動を行い、見返りや報酬を求めない奉仕者のことを“Volunteer(ボランティア)”と呼ぶようになったのです。

一般にボランティア活動の特徴は三つに集約されます。一つ目は、人に強制されるのではなく、個人の意思決定によるものであることです。

二つ目は、自分自身の潜在能力や生活の質を向上させるものであることです。三つ目は、人間同士の連帯感を高めるものであることです。ボランティアの本質を表す用語としては、自発性、非営利性、公益性などが挙げられます。

しかし、旅費や報酬を負担してもらう活動は、自発性や非営利性、公益性などを有していても、厳密にはボランティア活動とは言えないのです。

たとえば、消防団という組織があります。消防団は“消防組織法”に基づき、全国の市町村に設置されている消防機関で、構成員である消防団員は地元住民の有志によって組織されています。

消防団の活動は間違いなく自発性、非営利性及び公益性のすべてを兼ね備え、地域に必要不可欠な素晴らしい活動です。

しかし、消防団員の身分は、法律上、特別職の地方公務員として位置づけられています。そのため年間の報酬が定められ、また、訓練・災害への出動にあたっては一定の手当が支給されます。こうしたことから、消防団の活動は本来の意味でのボランティア活動とは一線を画するものなのです。

なお、報酬や手当と言っても、生活の糧とするような額ではありません。年間報酬は一般に数千円から数万円程度、出動手当も一回あたり数百円から数千円程度なのです。

すなわち、活動の後の仲間内での慰労会の費用や、防寒のための自前の装備などの費用に、たちどころに消え失せてしまうような微々たる額なのです。

しかも、消防団と言っても火事だけが職務の対象ではありません。たいていの場合、水防団を兼ね、大雨の際などに駆り出されます。加えて、地元の祭事における警備や、地域によっては山間部の捜索活動などにも駆り出されます。拘束されている時間や職務の資質などを考えるに、とても報酬や手当に見合うような仕事ではありません。

しかし、報酬や手当が支給される限り、残念なことに、本来の意味での純粋なボランティアとは呼べないのです。そこで私は、消防団員らのことを“広義のボランティア”と称しています。

なお、江戸時代に活躍した“火消し”たちも、額は少ないものの、月極報酬のほか出動手当が支給され、かつ、頭巾、法被などの現物支給が施されていました。そのため、ボランティアとは言えないのです。

11年前のナホトカ号重油流出事故の際、某航空会社から一部のボランティアに対し、無料チケットが交付された事例がありました。こうしたケースも、残念ながらボランティアとは言えないのです。

「硬いことを言うな!」とお叱りの声があるかもしれません。しかし、長年行なわれてきた純粋なボランティア活動を末永く持続させるためには、どうしても越えてはならない一線があるのです。



『★韓国で大規模流出油事故発生!(第十六報)★』[2008年01月09日(水)]
昨年の12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故のその後です。

あれから既に1ヶ月が経過しました。クリスマス、そして新年を迎えて以降、事故対応に関する報道もほとんどなされていません。

一体状況はどのようなものなのか、心配している人もいることでしょう。数少ない報道や関係者の話などから推察するに、油が漂着した海岸からは、人の目に付くような油塊や油性廃棄物はほとんど除去され、人間の手を煩わさずとも、自然浄化による回復に委ねられるレベルまで到達した模様です。

ただし、油が付着し、礫・岩や消波ブロックなどの内部に浸透した油については、自然浄化が進まず、残存している状況のようです。

また、海上の油膜又は油塊も、既に自然消滅したか、もしくは既に事故海域からはるかかなたまで拡散してしまったことが容易に予測できます。

さらに、もっとも被害が深刻であったエリアでも、数日前から漁船の出漁が解禁され、ひさしぶりの水揚げ行なわれたとのことです。徐々にもとどおりの生活に戻りつつある状況のようです。

したがって、総合的に判断すると、今回の事故は、終息宣言を間近に控えた時期に突入しているものと思われます。

事実、報道によると、被災エリアの韓国・県知事が、11年前にナホトカ号の重油流出災害の被災地である福井県を視察に訪れています。すなわち、既に関係機関は、事故対応段階から一歩踏み込み、今後の地元復興に向けた具体的な対策立案に着手していることがわかります。

また、私の周囲の油防除専門家や油防除資機材メーカーに対しては、韓国の防除関係者などから、資機材整備に関する問い合わせがたびたび届いているようです。

今回の事故では、韓国の防除機関は韓国マスコミから、防除能力の不足や体制の不備をさんざんにわたって指摘されました。

こうしたことからも、韓国の防除機関では、主たる事故対応段階をほぼ終え、マスコミや政治家などから指摘された、防除能力の増強や防除体制不備の修正など、今回の事故を教訓とした防除計画再構築のための策を練り始めたものと推測されます。

一方、被災地におけるボランティア活動は現在も盛んなようです。今でも休日や週末ともなると、韓国全土から、子供連れの家族など、大勢の一般市民が続々と被災地を訪れ、油塊を一粒でも残さないとの意気込みのもと、かなり清浄されているにもかかわらず、さらに徹底した海岸清掃活動を展開しているようです。

韓国の有名芸能人などが“お忍び”で被災地を訪れ、ボランティア活動に従事した旨の報道もたびたびなされています。

韓国では多くの一般市民が、被災地でボランティア活動に従事することが、国民としての使命であると考えています。流出油災害ボランティア活動が、一つの社会現象化しているものと推測されます。

被災地に訪れたボランティアは、事故後わずか1カ月の間に50万人を超すと言われています。ナホトカ号重油流出災害の際のボランティアの動員数が、日本海全域で、約4ヶ月間に142万人と言われていますので、これを上回る驚異的な数字と言えます。

さて、わずか1ヶ月間で終息宣言時期を迎えるに至った大きな理由は、ボランティアの活躍もさることながら、比較的天候に恵まれたことや、油類が揮発性の高い原油であったこと、事故発生地点が比較的海岸に近かったため油が漂着したエリアが限定されたことなどが挙げられます。

なお、マスコミが指摘するほど、今回の初動体制が悪かったとは言えないと私は思います。今の段階では、逆にかなり良い部類に属するのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。



『★韓国で大規模流出油事故発生!(第十五報)★』[2007年12月25日(火)]
昨日のクリスマス・イブの夜は、家族団欒というわけにはいきませんでした。一人寂しく、茨城県・鹿島のビジネスホテルで迎えたのでした。

明けて本日は、朝から神栖市内の利根川・川岸に到着、某船に乗って千葉県・佐原市まで、約一時間の“川上り”と洒落込んだのでした。

無論、寒い冬の最中、わざわざ好き好んで川遊びに興じる無粋な私ではありません。詳細は申し上げられませんが、言うまでもなく、本業の“仕事”だったのです。

途中、二箇所の橋梁と二箇所の高圧送電線の下をくぐりました。このあたりが、今回の仕事のヒントです。幸いなことに風は比較的穏やかで、この時期としては暖かい“船旅”と相成ったわけです。

さて、12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故のその後です。

派遣された日本の専門家チームも、役目を終え、一昨日に無事帰国しました。無論、被災地の防除・清掃活動は続いています。

週末はもちろんのこと、クリスマス・イブの昨日も、そして、クリスマスの本日も、現場では油との格闘が続いているのです。

韓国のメディアは、クリスマスにもかかわらず、全土から大勢のボランティアが被災地を訪れ、防除・清掃活動を行なっている様を伝えています。さながら、11年前日本で発生したナホトカ号重油流出災害の際のボランティア活動のような状況です。

私の知る限り、韓国の流出油災害におけるボランティア活動は、従来、財閥系企業グループ単位で、競うがごとく行なわれていました。今回のように、学生や主婦などを含めた、いわゆる個人ボランティアの集合体によって、本格的な活動が行なわれるのは、初のケースと言っても過言ではないと思います。



『★韓国で大規模流出油事故発生!(第十四報)★』[2007年12月20日(木)]
12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故の第十四報をお伝えします。

昨日(12月19日)行なわれた韓国の大統領選挙は、即日開票の結果、保守系野党“ハンナラ党”の李明博(イ・ミョンバク)候補が、大方の予想どおり、他の候補を一方的に大きく引き離し、圧勝しました。国民の世論の大多数が、韓国経済の再生を期待していることの証とも言えるのではないでしょうか。

さて、今回の事故に関し、昨日(12月19日)、ヘベイスピリッツから流出した原油の量について、公的機関による検証結果が発表されました。

検証を行なったのは海洋水産部(海洋水産省)に所属する海洋安全審判官で、報道によると、「流出量は1万2,547KL(キロリットル)であったことを確認した。」とされています。

今回の原油の産地や性状等については、具体的な情報がまだ伝わってきていません。日本国内の石油専門機関に問い合わせても、はっきりした回答は得られませんでした。報道された映像で判断する限り、極端に軽くもなく重くもなく、中質原油と考えるのが適当かと思われます。

中質原油であるならば、比重を0.85と仮定して単純に考えた場合、1万2,547KL(キロリットル)に相当する重量は1万665トンと言うことになります。

なお、原油の比重は産地などによって異なりますが、特殊な場合を除き、通常は0.80〜0.95の範囲で収まります。数値が小さいほど軽質、大きいほど重質ということになります。

一般に、比重が0.8107〜0.829の範囲であれば軽質原油、0.830〜0.903の範囲であれば中質原油、0.904〜0.965の範囲であれば重質原油と称します。

原油の比重は、国際的には一般に米国石油協会が定めたAPI比重を使うのですが、あえて、皆さんお馴染みの比重(4℃の水に対する質量の比)でお話ししました。

また、韓国の一部メディアは、今回の事故による漁業被害や韓国政府などによる防除活動などに対する賠償・補償金の交渉が、難航する可能性があることを報道しました。


今回のようなタンカーからの油流出事故に伴う油濁損害に関しては、まずは、ある一定額を限度として、船舶所有者自身が被害者に対し賠償を行なう責任を負います。

したがって、タンカーの船舶所有者は、自身の賠償責任を担保するため、通常、“PI保険”と呼ばれる保険に加入し、ある一定限度額まで、船主としての賠償責任を果たす仕組みとなっているのです。

次いで、損害額がもっと大きくなり、船主の責任限度額を上回った場合、今度は“国際油濁補償基金”という国際機関が、超過した分について、被害者に対し補償を行う仕組みとなっています。

つまり、保険による“賠償”と基金による“補償”によって、救済が施されるわけです。被害額が小さければ保険の範囲内で済むわけですが、今回の韓国の事故は、当然のことながら基金による補償まで発展するケースです。

さて、基金による補償額ですが、残念なことに“青天井(上限なし)”ではないのです。被害額が加盟している基金の種類によって、上限が設定されています。

現在、日本は世界でもっとも上限額が高い基金(追加基金と称します。)に加入しています。すなわち、仮に日本が今、タンカー事故の被害国となった場合、賠償・補償額を合わせた支払いの上限は、千数百億円となっています。

一方、韓国はと言えば、ここまで高い基金には加入していません。上限額は三百数十億円なのです。

さて、今回の韓国の事故ですが、私の試算では、おそらく漁業被害だけで三百億円規模に到達するのではないかと思われます。これに、観光業の被害や防除費用などを加えると、とても上限額の三百数十億円では足りないはずです。

そうするとどうなるかと言うと、保険会社や基金は、まずは賠償・補償金の交渉の中で、審査の厳格化を図り、不適当な請求は徹底的に排除・減額することになるでしょう。

今回の事故による漁業被害や韓国政府などによる防除活動などに対する賠償・補償金の交渉が、難航する可能性があると報道された原点は、ここにあるわけです。

そうは言っても、どうしても認めざるを得ない請求もあります。その場合、請求の正当性は認めつつも、上限に縛られ、やむなく減額回答と言うことになるわけです。

たとえば、1,000万円の損害を蒙ったAさんも、500万円のBさんも、100万円のCさんも、一律に30%減額などの措置が施されるわけです。

李明博(イ・ミョンバク)新大統領が、どのような救済策を打ち出すのか、興味あるところです。


『★韓国で大規模流出油事故発生!(第十三報)★』[2007年12月19日(水)]
12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故の第十三報をお伝えします。

昨日あたりから、本事件に関する韓国メディアの報道が縮小してきています。それもそのはず、皆さんご承知のとおり、本日(12月19日)は韓国の大統領選挙です。

新大統領を選ぶための投票が、朝6時から韓国全土の約1万3,000ヶ所の投票所で、一斉に始まっています。何でも韓国は、大統領選の今日は臨時の祝日となっているとのことです。

既に80万人以上が不在者投票によって投票を済ませています。本日は残り約3,700万人の有権者による投票が午後6時まで行なわれ、即日開票により、本日夜11時頃には結果が判明する見通しとのことです。

今回の大統領選には12人が立候補していますが、事実上、うち10人による戦いとなっています。中でも、保守系野党のハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)候補の優勢が伝えられています。

李明博(イ・ミョンバク)候補は前ソウル市長で66歳、政界に入る前は財閥系企業のトップの座にいました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権による貧富の差の拡大に不満を持つ国民の多くは、経済通である李明博(イ・ミョンバク)候補に期待を抱き、同候補が支持率でリードを続けてきた要因となっているようです。

さて、韓国の一部のメディアは、今回の原油流出事故に関し、その“矛先”を海洋水産部(海洋水産省)に向けてきました。

海洋水産部は1996年、農林水産部(農林水産省)から独立した巨大組織です。日本で言うところの国土交通省・港湾局、同海事局、同海難審判庁、水産庁、海上保安庁・海洋情報部など、海関係の行政機関を一本化して出来た組織です。

海洋水産部の組織が巨大化し過ぎていることや、かつて盧武鉉(ノ・ムヒョン)現大統領が長官として在任していた当時の官僚の人脈などに言及し、今回の原油流出事故対応の諸悪の根源があたかも海洋水産部にあるようにも読んで取れます。

今の段階での行政批判や態勢不備の指摘は時期尚早であり、とにかく一致団結して収拾に臨むことが先決なのでしょうが、大統領選挙が絡むと、一部のマスコミの記事の論調がこうなることも致し方ないのでしょうか。



『★韓国で大規模流出油事故発生!(第十二報)★』[2007年12月18日(火)]
12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故の第十二報をお伝えします。

既にお伝えしたとおり、現在、我が国は油防除の専門家などで構成される国際緊急援助隊(6名)を現地に派遣しました。12月15日に到着した一行は、対策会議へ参加し状況把握や意見交換を行なうとともに、現場における防除活動に対するアドバイスなど、具体的作業にも着手しているものと思われます。

お伝えしたとおり、韓国には日本のほか、既に米国・沿岸警備隊(USCG)及び海洋大気庁(NOAA)の油防除の専門家、国連環境計画(UNEP)の専門家なども到着し、独自の協力活動を進めています。

今後、我が国の国際緊急援助隊は他国の専門家と一致協力し、より効果的な防除対策などについて、具体的なアドバイスを韓国側に与えることとなるでしょう。

なお、我が国の国際緊急援助隊一行は、約10トン(約3,000万円相当)の油吸着材(吸着マット)を携えています。また、中国政府も、数10トン規模の油吸着材(吸着マット)を供与したとのことです。さらに、外電によると、中国政府は、油防除船2隻の派遣も決定したと伝えられています。

物資の供与面では中国に一歩先んじられたかにも思えます。しかし、我が国が派遣した4名の油防除専門家はいずれも歴戦の猛者で、その技量や経験は世界最高峰です。知見面での提供に関しては、必ず目に見えた成果を出すものと思われます。ご安心ください。

ところで、韓国のある新聞は昨日の報道で、船長の機転によって、本来流出していてもおかしくない、6,800KLの追加流出が食い止められたことを賞賛しています。

具体的には、「破口が生じた左舷のbP〜3番タンクの原油6,800KLを、右舷タンクの余積部分やバラストタンクに移動したこと。事故後、バラストタンクの調整を行い、船体を右舷側に5〜7度傾斜させ、破口部からの流出原油を減少させたこと。」です。

素人が聞いたら“機転”なのかもしれませんが、船乗りにとっては常識以外の何ものでもありません。事実、世界中のタンカーを対象に搭載が義務付けられている「油濁防止緊急措置手引書(SOPEP)」にも、最低限行なうべき措置の一つとして、これらの“機転”に関する記述がなされているはずです。

なお、日本の海運界などを中心に流通している最新バージョンの「油濁防止緊急措置手引書(SOPEP)」は、数年前、不肖私が陣頭指揮を執って執筆・作成したものです。



『★韓国で大規模流出油事故発生!(第十一報)★』[2007年12月17日(月)]
12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故の第十一報をお伝えします。

先週末(12月14日)の本ブログでお伝えしたとおり、日本政府は海上保安庁職員3人及び独立行政法人 海上災害防止センター職員1人、計4人の専門家を国際緊急援助隊として派遣することとしました。既に一行は12月15日に現地に到着しています。

4人の専門家に外務省職員及びJICA専門家の2人を加えた総勢6人は、既に現地の対策会議に参加するなど、現状把握や課題抽出などの作業に追われていることと思われます。

一行は約3,000万円相当の油吸着材(吸着マット)を携えていて、これら消耗資材は防除活動のため、無償提供されるものと思われます。

なお、韓国には、既に米国・沿岸警備隊(USCG)及び海洋大気庁(NOAA)の油防除の専門家、ヨーロッパ連合(EU)の油防除の専門家、スペイン・バルセロナ国立大学の海洋生物の専門家などが支援・協力のため入国しています。日本の国際緊急援助隊の活躍も、大いに期待されるところです。

無論、派遣された専門家のほとんどは、私とは旧知の間柄です。是非とも安全作業と健康管理に務めて頂き、任務を終え帰国の暁には、お話を伺いたいと思っています。


『★韓国で大規模流出油事故発生!(第十報)★』[2007年12月14日(金)]
12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故の第十報をお伝えします。

懸念されていたとおり、被災エリアの海・気象はかなり荒れています。既に黄海中部には波浪注意報が発表され、事故現場一帯には、風速10〜14メートルの強風が吹き荒れています。波浪も2〜4メートルに達しているようです。

こうなると、ほぼすべての防除資機材は何ら役に立ちません。特に海上での防除作業については、漂流油の所在する確認するのが困難なはずです。せいぜい、あたりをつけて油膜を見つけ、油がまだ新鮮で、効きそうな状況であるならば、油処理剤(分散剤)を散布する程度ではないでしょうか。

連日の防除作業で、作業員の皆さんの疲労は相当なものと思料されます。思い切って作業を中断し、休養を取った方がはるかに合理的なのですが、国民の手前、マスコミの手前、政治家の手前、なかなか踏み切れないのが実情ではないでしょうか。日本でも11年前のナホトカ号重油流出災害の折、まったく同じ光景が展開されました。

韓国からの報道を見る限り、こうした海域の状況にも関わらず、一部の艦船が作業を中断することなく、今も防除活動を行なっているとのことです。二次災害が生じないよう、ひたすら祈るばかりです。無論、海岸での清掃活動も然りです。健康管理と安全作業に細心の注意を払い、くれぐれも無理のないようお願いしたいものです。

なお、つい一時間ほど前、日本から海上保安庁職員など4人の専門家が、国際緊急援助隊として現地に出向くことが発表されました。ご活躍をお祈り申しあげます。


『★韓国で大規模流出油事故発生!(第九報)★』[2007年12月14日(金)]
『★韓国で大規模流出油事故発生!(第九報)★』
12月7日朝、韓国西岸の忠清南道・泰安郡(チュンチョンナムド・テアングン)の沖合5海里の海域において、香港船籍のタンカー“Hebei Spirit(ヘベイスピリッツ/14万7,000トン)”に大型海上起重機台船が衝突、積荷の原油約10,000KLが大量流出するに至った事故の第九報をお伝えします。

現場海域及び原油が漂着した沿岸域では、船艇200隻以上が動員され、軍や海洋警察庁、地元自治体、民間防除機関、地元住民、ボランティアなど、人員1万6,500人規模による懸命な防除・清掃活動が繰り広げられてきました。

しかしながら、昨日午後以来、現場海域は若干の時化模様と伝えられており、防除・清掃活動への影響が懸念されるところであります。

昨日の韓国メディアは、被災地を視察した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が、活動に参加している人々を激励すると共に、高性能のオイル・フェンスの導入や漁船の有効活用など、具体的指示を与えたと伝えています。

また、側近に対し、「(事故発生直後、)三日あれば油を除去できるだけの能力を備えていながら、どうしてまだ達成できないのか。」などと非難したとも伝えています。

確かに、韓国に限らず、どの国でも、起こり得る最大規模の流出油事故を想定した上で、これに対し数日以内に全量を除去できることを前提に、資機材の配備や体制整備を行ないます。しかし、これは建前であって、実際には自然相手のことであり、思い通りにはならないのは我々の常識です。

たとえば、油回収装置と呼ばれる機材にしても、メーカー側がセールスする単位時間あたりの回収能力は、いわゆるカタログ数値、屋内の静穏な実験施設などの好条件下で測定した数値や、理論上の計算などから導き出したものです。

これを海上でそのまま発揮できるかと言うと大間違いです。たとえば、海表面の油だけを重点的に回収するはずが、波浪による海面擾乱のため、海水ばかりを回収してしまうなどの事態に陥ります。

結果、カタログ数値の数パーセン以下トしか油を回収できないなどの現象もしばしば見られます。無論、海・気象状況にもよりますが、私の個人的な意見としては、過酷な条件下にあっても、常時、カタログ数値の10〜15%の回収能力を実戦で発揮できれば、それは画期的な機械であり、大いに賞賛すべきだと思っています。

こうしたことから、国の防除能力と言うものは、あくまでも最大限に実力を発揮するための努力目標であり、絶対的な能力を表したものではないのです。残念なことに、韓国に限らず、世界のどの国でも同じです。

防除・清掃活動は、いわば自然との戦いでもあるからです。いかに丈夫で高性能なオイル・フェンスを苦労して外洋に展張したところで、一度時化が来ると、翌朝には“ずたずたに”寸断され、油まみれの状態で海岸に打ち上げられる可能性があるのです。

こうなると高価なオイル・フェンスもただの油性廃棄物に過ぎません。11年前のナホトカ号の重油流出現場でも、苦労して展張したはずの大量のオイル・フェンスが、ただの海岸漂着ゴミと化した状況を私は見てきました。これを片付けるのは、正に二度手間です。

さて、若干の時化模様の現場海域では、海上の漂流油が南下しながら、さらに広範囲の海岸に漂着する可能性が危惧されています。自然とは人間にとって、極めて“意地悪”な存在なのです。

ところで、国連環境計画では国際海事機関と共同で、世界十数箇所の閉鎖性または半閉鎖性海域を対象に、近隣諸国同士の協力関係により、当該海域の海洋環境を守るための体制整備を進めてきました。

その一つが、NOAPAP(北西太平洋地域海行動計画)です。NOWPAPは日本海、黄海などの海洋環境を、沿岸国である日本、韓国、ロシア及び中国の4カ国が一致協力して守るための地域協定です。

具体的には、七つの優先プロジェクトが選定されています。そのうちの一つ、今回の原油流出油事故など、海洋汚染緊急時対応については韓国が主導国となっています。

既に、“NOWPAP地域油流出緊急時計画”と呼ばれる、4カ国共通の緊急時対応プランが策定されています。ひとたび、どこかの国で流出油事故が発生し、他の3カ国に援助を必要とした場合、当該計画が“発動”されることになります。

先日(12月10日)、策定されて以来はじめて、“NOWPAP地域油流出緊急時計画”が発動されました。無論、今回の韓国での原油流出事故に対してです。皮肉にも、海洋汚染緊急時対応を主導してきた韓国が、この計画の最初の発動国となったわけです。

こうしたことから、日本、ロシア及び中国の三カ国は、韓国の要請に応えるべく、具体的にどのような人的・物的支援が可能なのか、どのような共同作業が実施可能なのか、現在、韓国側のニーズを吸い上げると共に、それぞれの国内でも検討・調整が進められているところだと思われます。

韓国による独自の防除活動といかに調和し、かつ、国家の名に恥じないもっとも効果的な協力手段とは何であるのか、国境を越えた緊急時対応の難しいところでもあるわけです。

各国による韓国に対する具体的な協力の内容は、近々に明らかになるものと思われます。日本として相応しい、英知に満ちた協力内容を心から期待申し上げております。

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