命令書

 小賀正義君。君は予の慫慂により、死を決して今回の行動に参加し、参加に際しては、予の命令に絶対服従を誓った。依ってここに命令する。君の任務は同志古賀浩靖君と共に人質を護送してこれを安全に引渡したるのちいさぎよく縛につき、楯の会の精神を堂々と、法廷に於て陳述することである。
 今回の事件は、楯の会隊長たる三島が、計画立案、命令し学生長森田必勝が参画したるものである。三島の自刃は隊長としての責任上、当然のことなるも、森田必勝の自刃は、自ら進んで楯の会全会員及び現下日本の憂国の志を抱く青年層を代表して、身自ら範を垂れて、青年の心意気を示さんとする。鬼神を哭かしむ凛冽の行為である。三島はともあれ、森田の精神を後世に向って恢弘せよ。
 しかしひとたび同志たる上は、たとひ生死相隔たるとも、その志に於て変りはない。むしろ死は易く、生は難い。敢て命じて君を艱苦の生に残すは予としても忍び難いが、今や楯の会の精神が正しく伝わるか否かは君らの双肩にある。あらゆる困難に耐え、忍び難きを忍び、決して挫けることなく、初一念を貫いて、皇国日本の再建に邁進せよ。
    楯の会隊長

三島由紀夫

  昭和四十五年十一月
    小賀 正義君
 ニ伸 弁護士については元大阪高等裁判所長、弁護士斎藤直一先生に相談せよ。

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