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聖地・派遣村発『政権打倒』の空しさ

2009年2月5日 諸君!
 去年の暮れから今年にかけ、日本に「聖地」が誕生した。それは日比谷公園の「年越し派遣村」である。苛烈な現代競争社会の戦場で、かつかつ食って寝る給料と住処(すみか)を貰っていた派遣労働者五百人余が、冬空の下で野外音楽堂のあたりに集まり、軽いポケットに手を突っ込んで震えている。日本の政治家もメディアも国民も、この神々しい聖地から目を背けることは許されなかった。
 
 全イスラム教徒が拝むメッカの「聖地」に比べると規模こそ劣れ、信じる者の熱意ではヒケをとってはならない。神々は正社員として働く熱意と能力を持っていたにもかかわらず、暴虐なる経営者と失政続きの自民党によって派遣またはパートの地位に留めおかれ、いま経営側の一方的都合でクビを切られ、天(あめ)が下に行く場所がない。
 
 神々に捧げるべきは同情と崇拝であって、「本当にまじめに働こうとしている人たちが集まっているのか」という坂本哲志総務政務官の問いかけの如きは、許すべからざる聖性への挑戦、涜神(とくしん)の言論である。
 
 信仰があつい「朝日」の「天声人語」(1月5日)によると「生活防衛を争点に、政治決戦の年が動き出す。野党の面々は派遣村で『政治災害』打倒を誓った」そうである。聖地に集うて、悪い麻生政権を倒すべく聖戦貫徹を誓った野党の面々と、神々を厚労省講堂から都心の廃校になった校舎に移し、さらなる「生活災害」を加えようとする政府・与党と、正邪善悪は自ずと明らかであろう。「朝日」はいつもの手で日本政府を倒そうとする側へと読者を誘導していく。
 
 聖戦(ジハード)はどこまで行くかと新聞を見ていると、大阪・高槻でタクシー強盗がある。運転手(33歳)が若い客に首を刺されたと出ている。さいわい軽傷だったが、捜査本部が捕えたのは朝日新聞販売店のアルバイト店員(24歳)だった(「毎日」1月7日)。非正規労働者に頼る制度が悪ければ、まず大切な取引先である販売店にアルバイトを正社員にせよと指導すればよさそうなものを、言論と現実は平気で使い分けできるものらしい。
 
 メディアが日比谷の「年越し派遣村」に集中していた暮れの三十日の夜八時半、六本木ヒルズの前の歩道で刃物を振り回しながら「派遣切り!」と、ただいまの流行語を叫んでいる男がいた。麻布署の巡査が威嚇発砲して捕えた。都内の有名私大を出たが定職につく意欲なく、十二月中旬に派遣を解約されたのを逆恨みした男(28歳)だった。親は杉並区内に健在で貸家を何軒も持ち、親のアパートの一軒に入っている彼は、食費も住居費も一銭も払う必要ない身分だった。
 
 東京・江東区の男(34歳)も派遣社員だった。マンションの二軒隣のOLが帰宅するのを追って彼女の部屋に入り、殴って自室に連れ込んで殺した。遺体は細かく切り刻んでトイレに流した。人間のすることと思えぬ行為を散々した彼は、若者の得意なシステム・エンジニアリングをする派遣だった。例外的な人を除いて、各企業が若いうちの能力だけを買ってSEを雇う。そういう性格の職業で、彼は月に五十万を取っていた。
 
 社会は流動し複雑になり、労働も雇用形態も生き物のように動いている。資産家は労働者を鉄鎖につないで搾取し、自分だけはビフテキを食って太る。労働者は食う物も食えずに働き、貧困と屈辱のうちにバッタリ倒れてコト切れる。そういう十九世紀的な図式、類型によっては、現代社会は割り切れなくなっている。むろん、いつの世にも同情や支援に値する人々はいる。だが、それが物語のすべてではない。
 
 ところが世の中には、神と悪魔を素早く選(え)り分け、我こそは正義の味方なりと得意顔する面々がいる。政治家である。票によって生き死にする職業だから、黒白がハッキリしている。彼らは他党を絶対悪と貶(おとし)め、己が権力を握れば地上に理想郷が出現すると言い触らす。「年越し派遣村」にも、そういう手合いが来て、メディアの見ている前で麻生政権打倒を誓い合った。
 
 新聞は、誓いの空しさ、すぐネタ割れすることを知らぬわけではないのに、わざと感動するのである。体制派より反体制の方が、新聞が売れると思うからである――売れないのに。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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