11月14日(日)「週末の出来事」
●モヒモヒ君
今回の週末には期待していなかった。土曜日は同僚の家の通夜を手伝うこと
になり、日曜日は妹が引っ越すので荷物運びをしなければならなかったわけで。
たまには用事で潰れる週末も悪くない。金曜日の夜はどこにも寄らずに家に帰
ると、すっかり諦めてテレビを眺めていた。
そんなとき。何年かぶりに高校時代のモヒモヒ君からの電話。ちょっと言葉
を交わしただけで、昔と少しも変わっていないことがわかる。
「普通の人は会社とかで苦労して成長するんだけど俺の場合まだ学生やってい
るから何も変わらねえ、学校の先生になるつもりなんだけど生徒に辱めを受けて
裸で授業やらされるかもしれねえし、黒板に字を書いているとお尻の肉がプリ
プリ震えたりさて皆さんって振り返るとチンコが遠心力でプーンって回って一
度外側に飛びだした物は重力の作用でペタッて落ちるわけでそういうのを生徒
に見られるのはとても恥ずかしい、そんなことを考えると勃起してしまう」
本当に全然変わっていない。僕がまだ学生だった頃、モヒモヒ君とは何をするこ
ともなく会って、真夜中のファミリーレストランで「北斗の拳」の話をしてい
たものだった。彼は高校生の頃から無能な人間を自称していたが、エレキベースに関しては今も散発的
に活動しているようで、これだけはまったくプロ並みにうまい。一緒にバンド
を組んだこともある。しかしながら、彼の親は売れない陶芸家で生活は厳しく、
彼自身も仕事に恵まれない状況にあるため、今も変わらぬ貧しい身のようだ。
貧乏という言葉はけっこう世間で気軽に使われているようだけど、彼の場合、
冗談でなく生活が困難な状態にあり、僕もかつて何度か彼に金を貸した。累計1
0万円くらい。もちろん返ってこなかったけれど。
翌日の通夜から帰った後、国立駅でモヒモヒ君と待ち合わせて、5年ぶりに
会った。ちから屋で焼肉を食べる。当然、僕のおごり。上カルビやロースやハラ
ミやタン塩や小袋やユッケビビンバを食べた。
「俺は昔から無能のナッシングマンを自称していて相変わ
らずダメだけど○乙は焼肉に連れてきてくれたり生活には困ってなさそうじゃないか、
俺は普段ご飯の上にふっくら炊いた米をかけて食ってるよ」
「それはおかずが何もないということだね」
「明治大の通信教育に美人看護婦がいて友達だったんだけ
ど2学期から何かよそよそしくなってだんだん露骨に避けられるようになりこ
の前訳を訊いたら俺の存在自体に頭に来ているらしい、俺がそばにいると他の
女の子と話しにくいから遠ざけるようにわざと居づらい雰囲気作っていろいろ
と意地悪もしたのにあなたがわかってないからいつも邪魔だったと言われ、も
っと場の雰囲気を読めるようになりなさいとか説教もされて、その間中俺はず
っとあわわわわわわわわと言い続けていたぜ、島田陽子のように綺麗な人なん
だけどそれからはすごく薄っぺらな女に見えてね、そういや彼女はいつも人の
悪口ばかり言ってるし子供が嫌いで見ると絞め殺したくなると言うのだけどそ
れは看護婦としてちょっとどうなのか」
要約すると、学校で美人看護婦にいじめられたらしい。デニーズに移動して、
お茶とケーキを摂る。無論、僕のおごり。
「芥川の河童読んだことあるよな、あれで出産の時にお前
は生まれてきたいかと親が訊いてお腹の子供が僕は父さんの体質を受け継ぎた
くないから生まれたくありませんとか答えるシーンがあったけどアレはいいな、
あんな風に訊かれたら俺は生まれてこなかったのに」
「でも愚かだから、その時そう訊かれても生まれてしまったんではないか?」
「そうだろうな、何かあるかもしれないとかありもしない
希望を夢見て生まれてしまったろうな」
「いろいろ選択肢があったように見えるけど、愚か者の人生というのは結局は一
本道なのではないだろうか?」
「アハハそれはおかしい、何をやっても結局同じところに
辿り着く、俺はもう自分の人生は捨てて次代に夢を託す、だから教師なんだけど」
橋本にある彼のアパートへ送る。彼のアパートの隣は女子大生ばかりが住む
マンションで、夏に窓を全開にしてオナニーしていると、マンションの廊下を
歩く女子大生達が覗いていくとのこと。マア小さい!とか言ってるんだろうな
ムカつくぜ、と彼は車を降りた。
●おだちんこ君
金曜日のモヒモヒ君からの電話の後、テレビを見ていたら、今度はおだちんこ君か
ら電話。矢川のジョナサンでお茶を飲む。「今日はちょっと話がありまして」と切り
出したおだちんこ君、来年1月にもアメリカの西海岸へ転勤になるということ
だった。
もともとおだちんこ君は僕なんかとは格違いのところがあって、フランスで
育ち、某一流大学を卒業して、大手電器メーカーに就職、日英仏の3ヵ国語が
話せて、スポーツもできるし、歌もドラムも、テレビゲームだってうまい、常
に何人もの女の子が周りにまとわりついて、後腐れのなさそうなのを選んで順
番にいかせてあげ、そんなこんなで仕事も出来過ぎなので、入社2年目でアメ
リカ支社を任されたと言うか。し
ばらくプロレスが見れませんねと彼は言うけど、そんなにツキまくっているな
らプロレスくらい別に見なくてもいいだろう。今までアメリカには興味がなか
ったけれど、おだちんこ君がいるなら、遊びに行くのもいいかも。ディズニー
ランド、ユニバーサルスタジオにグランドキャニオン、サンフランシスコ。
「でも、アメリカ支社は上司がきつい人で、大変なんですよ」
話を聞くと、本当に大変そう。それでも、おだちんこ君は何とかなるだろう。
そういう人なのだ。モヒモヒ君とおだちんこ君。あまりにも対照的な2人に会
って、何かと思うところあった。どっちが良いとか言うのではなく。当たり前
ながら、いろいろな人生があるということで。
●お手伝い
同僚のKさんのお父様が亡くなられて、通夜の受付をやることになった。
先輩のIさんと並んで座り、皆さんの香典を受け取って、記帳してもらう。こ
ういう役回りを務めるのは、今年2度目である。数ヶ月前、室内の係長の家に
不幸があった時にも、駆り出されたわけで。世の中助け合いだし、嫌いじゃな
いです、お通夜。できれば、ない方が良いに決まってますが。
今回の受付はお寺の境内に設けた宝くじ売場みたいなところ。冴え冴えとし
た夜の空気の中、黒に身を包んだ女性が門をくぐって歩いて来るのが見えた。
遠目にもANDさんだとわかる。喪服のためか、いつもよりも背が高く見える。
かっこいい。美しい人は喪服を着るとさらに際だつのだ。ドイツ育ちで、あま
りにも美しく、仕事もできる、気だても優しいANDさん。昔の恋人にも1人そ
ういう子がいたけど、この種のできすぎ君がどういう原理で動作しているのか
不思議ですらある。人間は自分にないものに憧れるということか。他にも見知
った会社の人達が次々と現れ、香典を包んでは、自分の名前を記す。
受け付けが終わった後、Kさんを励まし、ビールを戴いた。Iさんと帰る。
Iさんは強力な全日本プロレスのファンなので、電車の中では、全日やFMW
の話。まだ間に合うと彼は水道橋で降りた。今日は世界最強タッグの開幕戦
ということ。
今日は妹の引っ越しを手伝って、父と一緒に重いものを運ぶ。せっかく引
っ越し業者にきてもらうのに、できるだけ自分で片づけてしまおうとする父の
昔の人なところが頭に来る。それでも体を動かしていたら、何とか片づき、後
は小金井の自分の部屋に帰ってUFC−Jへ出かけようとしたら、3時試合開始だ
った。6時半からだと思い込んでいたのだ。格闘技系とは、どうにも縁がないらしい。
だから、家でFMWブレーンバスターを見ていましたよ。用事がたくさんあ
る週末だったけど、悪くありませんでした。