◎製造業の減産加速 安全網構築も迅速、的確に
世界的な景気後退を受け、コマツ粟津工場が生産量を八割程度引き下げる大規模な減産
を決めた。三月は五日間の稼働にとどまり、北陸の協力企業への波及も避けられない。輸出関連の製造業が多い北陸で減産がこのような勢いで加速すれば、地域経済や雇用への影響は計り知れない。県や地元自治体も、民間の異例ともいえる生産調整の動きを見定めなければ、迅速、的確な対応は難しいだろう。
自治体の臨時雇用は求職者とのミスマッチが生じ、再募集に踏み切る動きも出ている。
緊急避難的措置とはいえ、ニーズに合わない仕事ばかりならセーフティーネット(安全網)の役割は果たし得ない。人員削減に動く企業と意思疎通を図り、職を失う人たちがどんな仕事ならできるのか、現実に合わせた受け皿整備が重要である。
コマツ粟津工場は建機需要の急減により、昨年末時点で五千七百台の在庫を三月末まで
に四千台、六月末までに三千台以下に減らす計画である。三月末で期限切れを迎える四百三十人の期間従業員の雇用のめどは立っていない。
北陸の他の輸出関連企業でも大幅な減産が相次ぎ、工場閉鎖の動きも広がり始めた。個
々の企業にとっては合理的な経営判断なのかもしれないが、なりふり構わぬ構造調整が一斉に進めば地域経済は疲弊するばかりである。安易なリストラで地域の信頼を失わないよう、できうる限りの努力をしてほしい。
厚生労働省は昨年十月から今年三月までに全国で約十二万五千人の非正規労働者が職を
失うと試算し、石川、富山県は二千六十四人、二千百五十二人となっている。だが、派遣などの業界団体は三月末までで約四十万人と見積もる。製造業の急激な減産などをみれば、民間の数字の方が実態に近いだろう。県も主体性をもって雇用情勢の把握に努めなければならない。
政府の緊急雇用・経済対策実施本部は、新規雇用創出の二百六のモデル事業を取りまと
めたが、すでに自治体が実施済みの事業も多く、目新しさに欠ける。雇用創出のアイデアについては国頼みでなく、自治体が地域の実情に即して独自に考えていく必要がある。
◎一般企業に公的資金 例外中の例外と心得て
公的資金を活用して一般企業の資本を増強する新制度を盛り込んだ産業活力再生特別措
置法(産活法)の改正案が閣議決定され、国会に提出された。麻生太郎首相は「異常な経済には異例の対応を」と強調しているが、一般企業の融資にとどまらず、資本増強にも政府が手を貸すのはまさに異例の対応である。対象企業の選別には大方の国民が納得する基準と大義が必要であり、例外中の例外として厳正な制度運用が求められる。
世界的な金融危機に対応した新たな資本支援策は、急激な業績悪化で自己資本が目減り
し、融資が受けにくくなっている一般企業に日本政策投資銀行などが出資し、もし出資先企業が破綻して損失が出た場合、国が一部を補てんする仕組みである。
公的資金による金融機関への資本注入は金融システムを守るという大義があるが、一般
企業に対する公的な資本増強支援は市場経済では本来、禁じ手である。それでも、国難といえるような危機的状況下では、国民経済を守る観点から国策として一時的な導入もあり得ることを認めなければなるまい。野党もそうした認識で法案審議に臨んでもらいたい。
新制度の対象企業は、産活法に基づき三年後の収益向上策を盛り込んだ事業計画の政府
認定を受けなければならない。高い技術力を持ち、業績回復が見込まれる大企業が中心となるが、雇用面などで地域経済への影響が大きい企業なども想定されるという。
産活法の改正作業に合わせて、半導体不況に見舞われるエルピーダメモリがこの制度の
活用を検討しているという。法改正後、実際に申請されれば、同社の財務状況だけでなく、半導体の微細加工技術が海外に流失した場合の国家的損失など、日本の産業政策の在り方から考える必要があろう。
いずれにしても対象企業の認定基準づくりはこれからであり、公正さと透明性が欠かせ
ない。安易な企業救済では産業強化に結びつかず、国民負担を増やす恐れがある上、保護主義の批判を受けかねないことも忘れてはならない。