ここから本文エリア 水が消えた大河
(5)JRの不正2009年01月16日
昨年秋、JR東日本の宮中ダム(十日町市)で不正が発覚した。内容は、流量データの「改ざん」。約10年間、同ダムでの適正な取水量や放流量について話し合ってきた「信濃川中流域水環境改善検討協議会」の関係者の間に衝撃が走った。 改ざんは人為的だった。同ダムでは信濃川をせき止めて毎秒最大317トンの水を取ることが許されている一方、ダム下には毎秒最低7トンを流すことが義務づけられている。ところが同社は、ダムの取水口などに、実際には最大限度の317トンを超える水を取っても、記録上は317トンを取水したように書き換える改ざん装置を設置。ダム下流への放流についても、最低限度の7トンを下回っても、記録上は7トンと記録されるようにしていた。 JR東は当初の取材に対し、「川から水を取りすぎていたということはない。発覚の端緒は社内の内部調査」と説明した。 しかし、それは事実ではなかった。 ■ ■ 不正発覚の端緒はJR東の内部調査ではなく、十日町市が実施した情報公開だった。6月議会で質問が出たため、市は7月末、宮中ダムの05〜07年の流量のデータを国土交通省に情報公開請求した。 国交省が開示用に流量データの資料を準備したところ、不審な点が見つかった。取水量は通常、天気の変化などで日々増減するが、同社の提出データは取水量が許可上限値で一定だった。 JR東は11月、県庁で記者会見を開き、発覚の端緒が社内調査ではないことを認めた。その上で、98年から07年の10年間で、約1億8千万トンの水を超過取水しており、ダム下への放流量も38万トン少なかった事実を明らかにした。超過取水量は07年に水利権が取り消された東京電力の塩原発電所(栃木県)の不正取水量約8千万トン(13年間)をはるかに上回っていた。 国交省にも落ち度があった。JR東から毎年データの提出を受けながら、改ざんに気づかなかった。「電力会社のものも合わせると、水利権関連の提出データは膨大。逐一チェックできなかった」と釈明する。 ■ ■ 「まるで死体から血を吸う吸血鬼じゃないか」。08年11月13日、JR東が十日町市で開いた住民説明会。澤本尚志・同社執行役員ら幹部全員が壇上から降りて一斉に頭を下げると、会場から抗議の声があふれた。 根津東六市議は立ち上がって言った。「売り上げ予想2兆7千億円。独占的な優良企業が我々の命の水をさらに不当に取っているなんて、信じられない企業モラルだ」 会場からは批判の声が相次いだ。「地元はダム下流に7トンは流すということで合意したんだ。その7トンを下回っていたのであれば、(JR東に取水を認めた)協定書は無効だ」 JR東の幹部は「信濃川の貴重な水を使わせていただいているという意識は変わっていない」と謝罪した上でこう付け加えた。「地球環境問題で水力発電は地球に優しい。今後とも維持していきたい」 JR東は昨年暮れ、朝日新聞の取材に応じた。現在の7トンの流量については「現状のままでは難しいという認識はある」と答える一方、国の検討会が3月にも最終結論を出すことについては、「流量の変更は水利権更新時(15年)に合わせたいと思っている」と述べた。=おわり
マイタウン新潟
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