「黒人音楽」って何やろう?という問いに関して、僕はかなりもうスッキリしています。高校1年生の頃に出会ったモダンジャズやファンクといったブラックミュージックの衝撃とはいったい何だったのか? なんでこんなにカッコいいのか? いままで耳してきたような日本人・アメリカ白人・イギリス白人によるポップスとは明らかに何かが違う。この違いは一体なんなのか? ソウルとは何か? ファンクとは何か? ヒップホップとは何か? こういった疑問に関して僕個人としては、この数年でかなりもう解明できた気がしています。 その答えは3つのコンセプトです。それは「ブルーズ」と「スイング」と「ブラックカルチャー」です。そして、これら「黒人音楽3種の神器」とでも呼ぶべき(?)3つの事項こそが、僕がブラックミュージックに惹かれた理由なんだろうと思っています。 ブルーズとは、端的には「音階」のことです。西洋音楽が一般的に「ドレミファソラシド」で成り立っているのに対して、「ド-bミ-ファ-bソ-ソ-bシ-ド」等の音階を使います(楽譜1)。西洋音楽が「ドミソ」の和音を基本的な和音として採用しているのに対して、「ドミソbシ」等を主和音として使います(楽譜2)。それから特にボーカル・ギターなどの平均律12音階にしばられない楽器では、少し低いミや、少し低いソや、少し低いbシが好んで使われます。さらにベース奏者は「ドミソ」なのにオルガン奏者は「ドbミソ」だったりして複雑にアンサンブルするのです。(別稿「ブルーノートについて」参照。) ●楽譜1 ●楽譜2 次にスイングとは文字通り「揺れ」のことです。(スイングを「跳ね」と解釈するのは近いけれども不正解ではないかなと思っています。)ジャズの教科書なんかには、4分音符を正確に2分割した8分音符と、正確に3分割した3連符の間で演奏するのがスイングである、というようなことが書かれています(楽譜3)。(これには議論の余地が大いにあります。また別稿にて書こうと思います。)ブラックミュージックでは8分音符や16分音符が「跳ね」ます(楽譜4)。さらにベース奏者は跳ねているのにオルガン奏者は跳ねなかったりして複雑にアンサンブルするのです。またそのオルガン奏者は、例えばひとつ前の音では跳ねたのに、次の音では跳ねなかったりしてアンサンブルはさらに数学的には複雑化します。これが「揺れ」です。(別稿「スイングについて」参照。) ●楽譜3 ●楽譜4 上記の2つは、数量化・組織化を常に心掛けてきた西洋音楽からみれば、複雑・混沌きわまりないものです。でも、本当の人間世界は同様に複雑だし、混沌としているものです。いや「複雑」とは言わずに「オーガニック」とでもいったほうがいいのかもしれません。 たとえば8分音符や16分音符がスイングすることはとてもナチュラルなことなんではないでしょうか。落語のお囃子もスイングしているし、天神祭の太鼓もスイングしています。沖縄民謡も津軽三味線も独自のスイングがあると思います。音階に関しても同様に、いま挙げたものすべてや、日本の詩吟・ガムラン音楽・インドの音楽、すべて平均律ではないのです。おそらく僕達は平均律という人類全体としてはごく一部の人々の機械的発想に惑わされていたんです。 3つ目の「ブラックブラックカルチャー」は、アフリカから強制連行されて現代までの歴史の中で育まれてきた独自の文化についてです。主に歌詞などに関係してくる部分ですが、当然ながらリズム・ハーモニー・メロディにも関係します。いやこれこそが本当にブラックミュージックの本質です。音楽は「文化」に内包されるから当たり前ですが。(別稿「ブラックヒストリー&カルチャー」参照。) というわけで短い原稿では大雑把にしか書けないのでまた別に詳細にかつ具体的に書こうと思います。そういえばウイントン=マルサリスのアルバムに「blues & swing」というのがあったのを思い出しました。もしかしたら、熱心な学者肌であるウイントンのことですから、ジャズの歴史、黒人音楽の歴史を研究し尽くした最後に「やっぱりbluesとswing、この2つにつきるんや〜!」と言いたかったのだろうと思います。。もしそういうだとしたら、僕の「3種の神器説」はあながち間違ってもいないような気がして少し安心しました(笑)。 |