医療介護CBニュース -キャリアブレインが送る最新の医療・介護ニュース-

医師の転職ならCBネット |  医療介護CBニュース

話題・特集


医療界を国民に見えやすくする〜特集「医療界・PMDAトップ対談」(4)

ソーシャルブックマーク: Yahoo!ブックマークにに追加 はてなブックマークに追加 この記事をlivedoorにクリップ! この記事をdel.icio.usに登録する

【今回の対談者】
国立がんセンター中央病院長 土屋了介氏

 2010年度の独立行政法人化を控え、さまざまな問題が取りざたされている国立がんセンター。借金や医師不足などの問題も報道される一方で、昨年春には臨床試験・治療開発部を新設して元PMDA職員を部長に起用し、組織的に臨床研究を進める体制を整備するなど、地道な改革も行っている。国内医療の「均てん化」の役割を担うナショナルセンターにとって、臨床研究は重要な柱で、年間約10億円に上る研究費用が使われている。いかに大学病院や一般病院などと連携して人材や知識を交流させ、国民に質の良い医療を提供するか―。目の前に課題が山積している土屋了介病院長と、PMDA組織の改善を進める近藤達也理事長との対談からは、病院機能連携や医療界の言葉の明確化など、医療者と一般国民が連携して医療を良くしていくための、さまざまな方法が聞こえてきた。(熊田梨恵)


土屋 わたしたち国立がんセンターからPMDAにスタッフを送り出し始めたのは、抗がん剤など薬の開発にわれわれも関与することで、新しい薬をできるだけ早く患者さんに届けたいというところからでした。薬の審査状況をしっかり把握して、それに見合う現場の努力ができればと考えたんですね。また、税金が投入されているナショナルセンターの役割には、新しい診療を開発し、それを全国どこにいても標準治療として受けられるように整備を進める「均てん化」があります。ドラッグ・ラグをはじめとするさまざまな批判に答えを出し、また国民からの期待に応えていくには、医療現場とPMDAが効率良く連携していくことが必要です。PMDAも医師の審査員が少ないと聞いていたので、双方にメリットがあると思いました。

近藤 実際のところ、PMDAの人材を常に支援してくれているのが国立がんセンターです。ありがたく思っています。

■医療機関が出すデータ自体も問題
土屋
 マスコミは新薬の承認が遅いことについて、PMDAを責めます。しかし、実際は医療機関側が出しているデータがあまりに小規模過ぎ、使い物にならないものが持ち込まれているということがあります。半分は企業の責任でもありますが、データがしっかりしていれば、審査する側も楽で、早く承認されるでしょう。以前、審査を手伝ったことがありますが、ボーダーラインにあるデータをPMDA側が何とか救ってあげようという気持ちで見ているという印象を受けました。時間の無駄遣いではないかと思うような申請もありました。PMDAが懇切丁寧に「こうして申請したら」と伝えても、企業や臨床研究者がそれを理解しているのかと疑問に思う節があります。それだけの改善をできる体制が、企業や受託研究を行う医療機関に備わっていなければならないと、強く思うようになりました。

近藤 いや、正直なところその通りというところはありますね。

土屋 よく大規模医療機関をネットワーク化して臨床試験を進めれば効率的では、と言われたりしますが、第1相、第2相試験はデータの質や信頼性を高めるためにも、1つの試験について単一または少数の施設で目が届く範囲で実施しないといけません。時間がかかった割にデータがおぼつかなくて先に進まないということがないよう、きちっとした施設を造ってやる必要があります。第3相については、規模が大きくなるのでネットワークを組んでやってもよいと思います。そうやって医療機関側にてこ入れしないと、ドラッグ・ラグ解消は実現しません。医療機関側からもPMDAに対する要望はありますが、「一発回答で通せるようなデータを持って来い」とハッパを掛けてもらった方がいいのではないかと思いますね。

近藤 今回は批判してもらおうと思ったのですが、意外にも肩を持っていただけているようです(笑)。

土屋 一番期待しているのは大学病院です。がんセンターは大学に逆らっているなんて思われたりしていますが(笑)、がん診療をセンター単独でやる時代は終わっています。高齢者は多くの並存疾患を持っていますから、総合病院の中にがんセンターがある体制が望ましいと思います。大学病院に一人ひとりの患者を中心にしたチーム医療が組めるような融通性を持ってもらえれば、大学内のがんセンターがうまく機能すると思います。人材的にはがんセンターよりはるかに豊富ですから、大学側に本気でやっていただけると、きちっとした大規模データが早く出て、国民の期待に応えられます。そうすれば、医療機関側もPMDAに対して、「審査の結論、早く出してよ」と、正々堂々と要求できるようになるのではないでしょうかね。

■大学病院とナショナルセンターの連携を
土屋
 東大ががんセンターを連携病院にすればいいと、いつも思っています。東京ならコンパクトだから、キャンパスが離れていても一緒にできるでしょう。門柱が2本あるから、一つは「厚生労働省国立がんセンター」、もう一つを「東大がん研究所」とすればいいのにと思います。がんセンターは厚生労働省、大学と研究所は文部科学省の管轄ですからね。だから大学病院の医者は研究者になりますが、がんセンターは「医療職だ」といわれて研究者にはなりません。でも、ナショナルセンターは世間からは研究所と思われていますね。外国から手紙をもらうと、がんセンターの部長あてには「プロフェッサー」と書いてあったりしますよ。

近藤 お金を掛けずに機能を強化することが必要で、要は運用の仕方ですよね。

土屋 右手で臨床、左手で研究チームを持って病院や研究所に出入りできるように、もっと有機的に連携させていいと思います。臨床の中でも研究に関与する人には「教授」の称号を与えてもいいでしょう。昔の大学は二足のわらじを履いている状態で、試験管を振っていると病棟から呼ばれて出て行くなんてことがありましたが、そうではなくて、日中も決められた研究日にはちゃんと研究に集中するようにし、もらった研究費から、足りなくなる臨床スタッフの給料を出すようにすれば、臨床のアクティビティーを落とさずに昼間から研究ができます。こうすれば、一般病院の中にも研究所ができる。厚労省にはそうできるように文科省と調整してほしいと話しているんだけど、全然進みません。

近藤 だからみんな大学から出ないんですよね。文科省の研究費がもらえるようにするには、それしかないから。大学の先生としての名前が使えるという理由で、大学附属病院に出て行きますが、安い給料で働かされています。大学を出たら「終わり」と思っている人は多いですからね。一方の一般病院にはそういう魅力がないから、高い給料をインセンティブにして医師を招かざるを得ない状況です。大学はこうして人件費を抑えて病院を経営し、研究費と称して収入のつじつまを合わせています。だから、一般病院と大学病院が「連携大学院制度」【編注】を使えるようになれば、一般病院にいながら学位が取れるようになり、医師が動きやすくなりますよ。勤務医の地位が社会的に低過ぎるのが問題なんです。一般病院で安い給料で働かされ、患者さんにひどいことを言われたりするのは嫌と。こういう現状の勤務医の地位を高める方法の一つが連携大学院制度ですね。でも、文科省の管轄になるので、彼らの特権になっています。文科省には人材育成のために一肌脱いでほしいところですが。

【編注】連携大学院制度…国・民間の研究機関と大学が協定を締結して双方の人材、知識を交流させる制度。研究機関の研究者が大学院の教育に参画したり、大学院生が研究機関で学位取得のための指導を受けたりできる。

土屋 外国の例から見ると、虎の門病院や聖路加国際病院が大学の教育連携病院でない方がおかしいです。全国の地域の中核的な公的病院や私立病院を大学の教育連携病院にして、的確に称号を与えればいいんです。

近藤 そうすれば大学も医局員を確保できるし、一般病院も医師を確保できる。今はせっかく勉強して医学部を卒業しても、大学を出て一般病院に行くと「ただの人」となってしまうという不安を抱いてしまい、収入の良いと思われる、そのまま開業するという道しかほとんどないですけどね。わたしの場合、大学が嫌いで出たわけではないですが、大学が目先の成果ばかりを見ていて戦略的な長期的視点に立った仕事ができず、一緒にやっていけないように感じましたね。大学はもっと先の成果も望むような仕組みを持っておかないといけません。いい発見や研究をしていくには、現場がないといけない。試験管だけじゃ駄目ですよ。臨床の仕事をしていると、何だかぐちゃぐちゃしているような気がするのですが、思い掛けないことを見つけることがたくさんあります。そういうフィールドは実はたくさんあって、大学はあらためてそれを知らないと、日本の学問は活性化しないでしょう。

土屋 まさしく実学。国立がんセンターの臨床試験・治療開発部長の藤原康弘先生は、こちらで5年間お世話になり、今では現場の若い医師たちに、開発や審査についての知識など、現場が何をすればいいかを説明しています。こういうことはペーパーの上だけでは分からないことで、患者第一のためにできることはまだまだ多くあります。医療者側から企業に対して「その試験なら3か月で終了できるよ」と言えるようにするには、どういう規模でどういう研究をし、整理して申請の手伝いをしたらいいか、若い人たちにはPMDAで数年過ごして学んでもらえるといいと思います。そして全国に飛び出して、臨床研究の中核になる施設を造っていってもらえればと思います。

■医療界の言葉を国民に分かりやすく
土屋
 当センターでは臨床試験・治療開発部を新設して院内の臨床研究の体制を整え、受託研究を進めています。07年度は第1、2相、製造・販売後の臨床試験や調査まで含め、139件受託しました。臨床研究費用は全体で約9億5000万円です。受託研究の場合は企業がお金を出してくれますが、医師主導治験にはそういう支援が付きません。医師主導治験はこれから進めていくべきですが、資金を投入してほしいと言う以上、何を目標にしてやっているのか、一般の人にも分かるように説明できないといけません。それができれば、小規模でなかなか企業側にメリットがない研究でも、ドネーション(寄付)などで積極的にやってみようということになるかもしれません。その辺、医者は広報が下手で、十分に尽くされてこなかったと思います。本来は、日本人特有のコミックやテレビドラマなんかの手段を使ってでも「臨床試験とは何か」を伝えていかないといけない。製薬企業が出している新聞の一面広告じゃ堅苦しくて、国民は理解できないでしょう。

近藤 確かに、ポジティブな理解に持っていかないといけません。わたしも治験については、以前は製薬企業の手先になってしまうような気がしていましたが(笑)、企業がもうけるためやっているというように見られてしまうイメージがよくないですね。

土屋 臨床試験をどう理解させるか。病院で言われている言葉はこういう意味ですよと説明していくことが必要ですね。国立は広報にお金が掛けられないので逆行していますが。

■ 「言葉」が実際を見えにくくする
土屋
 「分かりやすく伝える」ということについてですが、「IRB」をなぜ「倫理審査委員会」と訳したりするのか非常に疑問なんですよ。正確に「院内臨床試験審査委員会」と訳せばいいのに。それに、臨床試験は介入試験か観察試験の2種類になると思うので、その内容をはっきりさせた名称にすると変な誤解を生まないと思います。観察研究はほとんど「疫学研究に関する倫理指針」に沿ってなされますが、普通の人からすれば、「疫学研究とは何だ」と思うだろうし、医師でもそういう人が多いのではないでしょうか。言葉は目的を表すものなのだから、丁寧にやらないといけない。一番分かりにくくなってしまっているのが、「倫理指針」「臨床研究倫理指針」「疫学研究倫理指針」といったたぐいの言葉だと思いますね。

近藤 わたしも最初はこのあたりの言葉がよく分かりませんでしたね(笑)。分からない言葉が、整理されないまま変に理解されている。お金の出所も役所側の都合で言われる言葉だから、「研究費」「補助金」とか、よく分かりません。

土屋 お互いに何をしゃべっているのか、定義がはっきりしないまま動いていることは多いですよ。「レジデント制度」という言葉も何となくは分かるけど、その延長で研究所にいる研究員とかを「リサーチレジデント」なんて言ったりするのを聞きますが、それは一体何だと(笑)。米国にも「リサーチフェロー」はいても、「リサーチレジデント」なんていないですよ。よく分からない日本の造語です。こういう変なカタカナ言葉について、ちゃんと訳せる人がいない(笑)。

近藤 「住み込み研究員」かな(笑)。昔、わたしたちが“蟹工船”だったような、「住み込み医者」というなら分かりますが(笑)。こうやって言葉が独り歩きしちゃうんですよね。本来の趣旨が分からない。

土屋 早急に直さないといけないですよ。話の途中で「IRB」と出てくるのもどうかと思いますし、やたらと横文字を使うのも乱暴ですよね。やっぱり大和言葉や漢語で言わないと。こういうことで皆さんが同じ認識で進んでいかないことが、臨床試験が中途半端で終わってしまう原因でもあるんじゃないでしょうか。

近藤 日本語の整理が必要ということで、大きな話です(笑)。

■ メリット生かせる総背番号制に
土屋
 広報については、薬に限らず、日本はデータベースがしっかりしていないから、伝える側も分かりにくいのが現状です。日本の基幹統計が何かということが医学関係で真剣に論じられていなかった。わたしが出ていた厚労省の検討会でも、「保険医の登録数を出してほしい」と言ってもすぐに出てこない。各病院の院長がちゃんと登録しているのに、各社会保険事務所に行かないと把握できない状態です。臨床試験登録を東大の「UMIN」でやろうと動いていますが、全体像がありません。厚労省の大臣官房統計情報部の人は一生懸命にやっていますが、健康局や医政局側の協力体制が実際のところないということでしょうね。

近藤 確かに、日本は大規模データベースというものはありませんね。

土屋 日本はいまだにID(Identity Document)ナンバーがない。すべてそこに帰結します。がんの重複すらチェックできなくて、現場の努力だけでやっている状況です。社会保障カードうんぬんの議論もありますが、それ以前に国民に背番号を付けた方が早いでしょう。薬の重複や、居住地変更の問題もクリアできます。薬害のフィブリノゲンについても、多くの医療機関が記憶をたどってカルテをひっくり返すという非常に非効率なことになったでしょう。1000人以上のデータを手仕事でやるとは、常識的ではありません。年金問題も同じことです。米国なら、研究者が本気になったら行政データも出てくるし、上手に整理します。その意味で、レセプトのオンライン化は、うまくやればナショナルデータベース化につながると思います。医師会は反対しているようですが、オープンにすれば、皆が扱いやすく、楽になります。

近藤 総背番号制はタブー視されますが、わたしもそうすべきだと思いますね。大事なところを整理してやれば、素晴らしい方向だし、危険なところを避けるよう、それこそ工夫をしないといけない。すべてのタブーは研究対象であって、そこにある問題を解決していけば、必ず社会は発展します。

土屋 こういう話をすると、賛成する人は「悪」といった見方がされます。そういう「赤勝て、白勝て」というような黒白を付けることではないんです。われわれ人間は皆違うのだから、二極的な考え方ではいけません。いかによりよく利用するかを考えるのが人間の英知でしょう。悪用する人は必ず出てくるのだから、どう防御するか。何が良くて何が悪いのか。お互いに何を一緒に考えて結んでいけるのか。一個ずつ詰めて不具合が回避できるような議論を今後はしていくべきでしょう。


【略歴】
1970年?慶大医学部卒業
70年 日本鋼管病院外科
73年 国立がんセンター病院レジデント
91年 同院第一病棟部長
2002年 国立がんセンター中央病院副院長
06年 同院長


【今回の対談特集】
バランスある規制が国民を守る〜特集(1)
全国に拠点形成し、橋渡し研究推進を〜特集 (2)
人間力を育て、患者の気持ち分かる医師に〜特集 (3)

【関連記事】
医療機器の審査迅速化へ―厚労省プログラム
山形大医学部に医薬品安全対策の講義―国内初
PMDAのキャリアで学位取得が可能に
臨床医のキャリアパスにPMDAを
薬害でPMDA職員の権限をどうするか


更新:2009/02/07 12:00   キャリアブレイン

この記事をスクラップブックに貼る


注目の情報

PR

新機能のお知らせ

ログイン-会員登録がお済みの方はこちら-

CBニュース会員登録メリット

気になるワードの記事お知らせ機能やスクラップブックなど会員限定サービスが使えます。

一緒に登録!CBネットで希望通りの転職を

プロがあなたの転職をサポートする転職支援サービスや専用ツールで病院からスカウトされる機能を使って転職を成功させませんか?

キャリアブレインの転職支援サービスが選ばれる理由

【第48回】大橋謙策さん(日本社会事業大学長) 福祉や介護の人材不足が懸念される中、専門大学として評価が高まる日本社会事業大の大橋謙策学長は、生きる意欲を引き出す福祉プログラムやケアマネジメントが求められていると指摘する。また、インドネシアなどから介護士候補が来日する中、福祉・介護人材の国際的な流動 ...

記事全文を読む

 医師不足が深刻化している地域やへき地の医療を支援するため、昨年7月に国が創設した「緊急臨時的医師派遣システム」。北海道や青森県など、これまで全国の6道県の医療機関に医師を派遣し、地域医療の緊急的な救済に成果を上げている。厚生労働省からの委託を受け、全国から医師を公募している社団法人「地域医療振興協 ...

記事全文を読む

新型インフルエンザ感染対策

今回は、感染リスクが高い医療関係者のための、「N95マスク」の選び方と正しい使い方をご紹介します。

>>医療番組はこちら


会社概要 |  プライバシーポリシー |  著作権について |  メルマガ登録・解除 |  スタッフ募集 |  広告に関するお問い合わせ