大阪府の橋下徹知事が6日で就任1年を迎えた。毎日新聞が実施した世論調査では支持率は69%に上り、他のメディアの調査でも高支持率を維持している。
知事は「府は破産会社」と危機感を前面に出し、08年度に全国初の退職金5%カットを含む人件費削減など1100億円の収支改善を図る財政再建を進めてきた。
府庁舎の大阪湾岸への移転構想などユニークなアイデアも次々と打ち上げてきた。既成の枠にとらわれない言動や行動力が高い支持率につながっており、府政への関心を高めた点は評価できる。
ただ、知事の手法は、反対する府職員や労働組合、市町村など常に「敵」をつくり出し、メディアを通して民意を味方につけるやり方だ。マスコミ受けする過激な発言を繰り返して議論の流れをつくるなど、タレント出身ならではのメディア利用術も目立つ。
こうした手法は危うさも伴う。府政運営に異論が出ても、選挙で選ばれた自分の考えこそが民意だとの論理で突っぱね、反対意見を許さないことも多い。
補助金削減などの根拠を尋ねられても「私の政治判断」と取り合わない半面、全国学力テストの市町村別成績の開示問題では当初、補助金を盾に市町村に公表を迫るなど高圧的な姿勢も見える。
府職員の意識改革をはじめ、行政の在り方を根本的に変革するために、これまでショック療法が必要だった面はあるだろう。
しかし、これからは「破壊」だけでなく、財政収支のバランスを取りながら、どう府民の暮らしを向上させていくか具体的な政策も問われる。
毎日新聞の世論調査によると、橋下府政で取り組みが遅れている分野で「医療・福祉」を挙げる率が高かった。急速な景気後退により、日々の暮らしに不安を感じている住民が多いことを示している。
09年度の府の税収は08年度より2500億円減る見通しだ。より厳しい財政状況の中で、知事は残り3年の任期中にどのような大阪を創造しようとしているのか。目指す将来像を分かりやすく提示してほしい。
政治手法でも、独断を避け、対話を通じて粘り強く同意を形成していく努力を欠かしてはならない。「政治判断」についても丁寧に説明する責任がある。
知事は国が行う道路・河川整備などで自治体にも支出を求める「国直轄事業負担金制度」を批判し、支払い拒否も含めて見直す考えを表明している。
国に対しては、地方からどんどん主張していくべきだ。知事の持論である関西州を実現するには、もっと国に働きかけ、動かしていかなければならない。大阪から情報を発信し、地方分権について幅広い議論を巻き起こしてもらいたい。
毎日新聞 2009年2月7日 東京朝刊