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「郵政」発言―麻生首相の見識を疑う

 耳を疑うような発言が、麻生首相から飛び出した。「私は郵政民営化に賛成じゃなかった」

 おとといの衆院予算委員会での、民主党議員の質問に対する答弁である。発言はこう続く。

 「しかし、小泉内閣の一員として最終的に賛成した。(旧郵政省を管轄する)総務相だったんだけど、私は反対だと分かったので、郵政民営化担当ははずされた。ぬれぎぬをかぶされるとオレもはなはだおもしろくない」

 そのころ麻生氏が郵政民営化に慎重だったのは事実だ。だが、麻生氏が今率いる自民党は、小泉元首相が「郵政民営化に賛成か反対か、国民に聞いてみたい」とぶち上げた05年の総選挙で大勝し、その遺産でかろうじて政権の命脈を保っている。衆院の再議決で野党優位の参院の結論を覆せるのも、そのおかげなのだ。

 それなのに、こともあろうに、自らに託された権力の最大の裏づけになっている郵政民営化について、反対だったと平然と言ってのける神経を疑う。

 首相は、同じ答弁の中で「四つに分断した形が本当に効率としていいのか、見直すべき時に来ている」とも述べた。一つの持ち株会社の下に四つの会社がぶら下がる現在の民営化の構図に疑問を呈したわけだ。

 郵政民営化から間もなく1年半。大がかりな制度変更だったから、不都合な点があれば手直しするのは当然のことだ。郵政民営化法には見直し規定がある。それに基づき、3月には政府の委員会が報告書をまとめる予定だ。

 自民党内にも、四つのうち郵便局会社と郵便事業会社との合併を求める声がある。国民を説得してそれを実現したいというのなら、ひとつの問題提起ではあったろう。

 だが、驚いたのはその夜、記者団に「(見直し)委員会の答えを受け取るのが私の立場。内容についてああしろこうしろなんていう立場にない」と語ったことだ。では、国会での答弁はいったい何だったのか。

 いつもの迷走発言と片づけるにはことが重大すぎる。「かんぽの宿」の施設売却に待ったをかけた鳩山総務相は、きのうも首相の答弁に寄り添うように「国営には戻さないが、あとは聖域なく、すべて見直しの対象にする」と強調してみせた。

 深刻な不況のなかで、かつて圧倒的に世論に支持された小泉改革路線には強い逆風が吹く。その象徴である郵政民営化に、首相が距離を置くような発言を出したり、引っ込めたりする。それで自民党から離れた郵政票を取り戻し、世論の受けを狙っているとしたら、あまりにご都合主義である。

 これほどの基本政策で言葉をもてあそぶかのような首相の態度は、国のリーダーとしての見識を疑わせる。

イラク選挙―安定の兆しを育てたい

 先月末に投票があったイラクの地方議会選挙でマリキ首相の会派が圧勝の様相だ。開票率90%の暫定結果では、バグダッドや南部のバスラなど主要都市で第一勢力となっている。

 05年末の国民議会選挙以来、約3年ぶりの全国規模の選挙だ。06年春には、新生イラクで政治を主導するイスラム教シーア派と、旧政権下で支配的だったスンニ派の間で激しい宗派抗争が起こった。今回の選挙が大きな混乱もなく進められたことは、治安の回復を示すものとして歓迎したい。

 地方議会は知事を任命し、雇用対策や地域整備、住民サービスなどで人々の暮らしと密接に結びついている。

 その選挙で現職首相の会派への支持が広がったことは、国民の間に中央政府への信頼と期待が生まれていることをうかがわせる。

 マリキ首相は昨年、米国と結んだ治安協定で米軍の撤退期限を「11年末」とした。米国と協調しつつもイラクの主権を強く打ち出した姿勢が国民の支持を得たとみられる。

 政権が求心力をもつことは、米軍の撤退によって混乱が広がりはしないか、という不安を取り除く材料ともなるだろう。

 一方、国民議会の最大勢力で、中南部の地方議会を押さえていたシーア派のイラク・イスラム最高評議会(SIIC)の後退が明らかとなった。

 SIICはシーア派宗教者が率い、イランとの関係が強い。マリキ首相の出身政党のダワ党もシーア派で、イランと強いパイプをもつが、指導部は宗教者ではなく、米国やスンニ派とも協調する現実的な政策をとってきた。

 米軍撤退後にイランの影響力が強まることを恐れる米国やスンニ派アラブ諸国にとっては、マリキ首相派の伸長は安心材料だ。緊張をはらむ米国とイランの間で、マリキ政権がバランスをとりつつ、イラクの統一を保つという構図が見えてきたともいえるだろう。

 今回の地方選挙のもう一つの意義は、これまで選挙に批判的だったスンニ派が広く参加したことだ。

 かつて反米勢力の本拠だったアンバル州では、米軍と協力して治安維持にあたるスンニ派部族長の勢力が新たな政治会派として登場した。スンニ派アラブ人とクルド人が混住する北部のニネベ州ではスンニ派がクルド人を抑えて、第一勢力となった。

 いまなお民族、宗教・宗派間の緊張関係は強い。しかし、それが選挙を通じて民意の形で姿を現すことを一歩前進と考えよう。利害対立や主張の違いを議会の論争と話し合いで解決していければ国民和解の礎となるはずだ。

 イラクでは年末に国民議会選挙がある。地方選挙で見えた安定の兆しを国政選挙につなげられるよう、国際社会の支援が求められる。

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