「球春」という言葉は明るさや躍動感を感じさせる。プロ野球のキャンプが始まり、新聞のスポーツ面も春の雰囲気になってきた。
期待の新人、昨季不振にあえいだり故障に泣いた選手たち。みんな「今年こそ」と張り切っている。内心不安はあろうが、彼らはスポーツの世界で何より「気持ちで負けない」ことが大切だと知っている。
四日付朝刊に載った西武・岸孝之投手の話に感心した。プロ入り前、世界大学選手権で自慢の直球とスライダーを外国勢に軽々とスタンドへ運ばれた。意気消沈するところを彼は逆に発奮、「パワーには緩い球」とカーブを覚えた。昨年の日本シリーズで巨人打線を手玉にとった決め球である。
亡くなった往年の強打者・山内一弘さんは大毎の主軸だった一九六三年、阪神の小山正明投手とトレードされた。世間は騒ぎ、本人も「これまでの十二年間は忘れられない」と古巣への愛着を隠さなかった。
それでも山内さんは翌年、阪神で打ちまくる。三十一本塁打、九十四打点でリーグ優勝に貢献した。小山投手も大活躍し、後に本紙は「消極的なトレードに終始していた球界を変えた」と伝えている。
前向きに励む姿勢があってこそ道が開けるのだろう。日々厳しさが増す今の社会とはいえ、めいってばかりはいられない。