麻生太郎首相が国会議員の定数や、給与に当たる歳費の削減など国会改革に取り組む意欲をみせている。急速な景気の悪化が国民生活を直撃しているだけに自らが身を切る覚悟を示したのだろう。首相の持論である消費税率引き上げへの環境を整備しようとの思惑もうかがえるが、危機的な日本の財政状況を考えれば国会改革は避けて通れない課題だ。覚悟を現実のものにしなければならない。
首相は一月十八日の自民党大会での演説で、衆参で与野党勢力が逆転したねじれ国会でも迅速な意思決定ができるよう衆院の優越を認める議会制度改革が必要との認識を示した。選挙制度についても、衆参両院とも選挙区と比例代表を組み合わせていることから「類似している」として見直しに向けた議論を始めるよう求めた。
翌日の自民党役員会では、国会議員の定数、歳費削減、そして選挙制度見直しを総合的に検討するよう指示した。唐突で、しかも矢継ぎ早の要求だったこともあり、近づく衆院選を意識した単なるポーズと冷ややかに見る向きもある。
民主党の小沢一郎代表は「内閣が行き詰まると、選挙制度の議論が首相の口から出ることがある」と述べ、「日ごろから各党の政治家が勉強し、議論を重ね、結論を出すのが本来の姿だ」と批判する。だが、国会が自らの改革を熱心に論議している様子はみえてこない。
選挙制度改革や国会議員の定数削減などは、議会政治の根幹や議員の身分にかかわる問題だ。実現は至難の業であろう。それでも改革は断行すべきだ。大胆な行財政改革が喫緊の課題であり、政府が今国会に提出した税制改正法案の付則には、二〇一一年度にも消費税率を引き上げる方針を盛り込んだほか、行革の推進や歳出の無駄排除の徹底について「一段と注力して行われるものとする」と、積極姿勢を打ち出した。
政治家が先頭に立って実行しなければ、改革は進まないだろう。首相は国会改革の一環として議員定数と歳費のほかに政党交付金(助成金)も削減する方向で自民党内の取りまとめを武部勤党改革実行本部長に指示した。党内論議を活発化し、具体的な削減幅を次期衆院選のマニフェスト(政権公約)にしてもらいたい。
公明党の太田昭宏代表も、国会議員の定数や歳費の削減をすべきとの考えを表明した。各党が改革を競い合えば、政治の信頼を取り戻すことにもなろう。
警視庁と宮城、福島両県警の合同捜査本部は、「円天」と称する疑似通貨を売り物に、全国の会員から多額の出資金をだまし取ったとして健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー(L&G)」(東京、破産手続き中)の会長波和二容疑者ら二十二人を組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)の疑いで逮捕した。
調べによると、L&Gは一九八七年に設立。二〇〇一年ごろから「協力金」名目で百万円を預ければ三カ月ごとに9%の利息(年利36%)を支払うとの触れ込みで出資金集めを始めた。さらに、同社主催のバザーなどで使える円天を発行し、現金を十万円以上預ければ、毎年同額の円天を支払うとする手法も編み出した。
だが、〇七年に入ると配当を現金から円天に切り替え、やがてそれさえ停止し破綻(はたん)した。同年十月には関係先の家宅捜索が行われたが、金集めは直前まで続いたという。合同捜査本部は〇〇年から〇七年までに、約三万七千人から約千二百六十億円を集めたと認定した。
波容疑者らの逮捕容疑は、〇六年七月から十二月にかけて六人から協力金名目で組織的に約一億一千八百万円をだまし取った疑い。合同捜査本部は、波容疑者らが破綻を認識しながら金を集めたと判断した。
犯行の手口や組織の実態、資金の使途など徹底した全容の解明が求められる。今回の件では、強制捜査の遅れが被害を拡大したとの指摘もある。検討すべき課題であろう。
それにしても怪しい話に多くの人が簡単にだまされてしまった。超低金利時代の中で有利な資産運用を求める心理につけ込む犯罪は、今後も増える可能性がある。「うまい話には慎重に」との認識をあらためて肝に銘じたい。
(2009年2月6日掲載)