自民党最大派閥の町村派は5日午後の総会で、3人の代表世話人による集団指導体制をやめ、(1)同派会長に町村信孝前官房長官が復帰する(2)町村氏とともに代表世話人だった中川秀直元幹事長、谷川秀善参院議員は続投する−ことを決めた。同派最高顧問の森喜朗元首相の提案で、麻生太郎首相の政権運営を批判してきた中川氏を町村会長の下に位置づけて「降格」し、派閥運営の中枢から遠ざける人事だ。首相を支える姿勢を明確にするねらいもある。だが、派内にはしこりが残り、中川氏が再び首相批判をすれば、分裂も含め、お家騒動が再燃する可能性もある。(加納宏幸、大谷次郎)
・[写真] 微妙な空気流れる…町村派の総会
■怒号の2時間
中川氏の降格人事は、かつては蜜月関係にあった森、中川両氏の対決の帰結だった。いつもは1時間弱で終わる町村派総会だが、5日は、中堅・若手から人事への異論が相次ぎ、2時間15分にも及んだ。
「私には(人事を)発言した責任がある。この意見をもって退会したい」
業を煮やした森氏がこう語ると、総会会場のグランドプリンスホテル赤坂の旧館2階「サファイア・ルーム」は静まりかえった。
森氏の提案には、中川氏に近い中堅・若手から「衆院選を前に派がガタガタしてる印象を持たれるのは良くない」(早川忠孝衆院議員)と反論が相次いでいた。森氏に所属議員がたてつくのは異例だった。
ベテランの尾身幸次元財務相が「政治集団の会長は大衆討議で決める話じゃない。森最高顧問の提案でいくべきだ」と声を荒らげた直後に、森氏は“退会表明”を行ったのだ。
沈黙を破ったのはベテランらの「困ります!」との森氏慰留の声。若手は「最初からシナリオ通りなんだな…」と直感した。
多くの議員は黙り込んだが「今日は決めずに時間をかけて議論しよう」(山本一太参院議員)「現体制で問題ない。派の意見を集約すべきだ」(柴山昌彦衆院議員)との声もなお続いた。
森氏は「小僧っ子が言うならまだしも、幹事長を経験した男が麻生首相の批判をするのは何事か。細田博之幹事長の気持ちになってみろ」と、隣に座る中川氏を激しく批判した。
森氏はさらに、中川氏が昨年秋、「会社に3人の社長はいらない。派閥も同じだ」と語ったと指摘し、「3人を1人にするのは中川君が言い出したことだ」と強調した。
中川氏は派閥の体制について「そういうことを言ったことはあるが、詳細は必ずしも符合しない」と反論。出席者に「いろいろとご迷惑をかけています」などと語るにとどまった。
総会が2時間を過ぎたころ、鈴木政二参院国対委員長が「みんなが世話になったオヤジ(森氏)が悩んだ末の決断だ。賛成してほしい」と絶叫。安倍晋三元首相が「この場で決めないと権力闘争になる」と述べ、人事案は了承された。
総会後、森氏は笑顔で町村氏らと言葉を交わし、中川氏は険しい表情で「同志と相談する」と語って会場を後にした…。
■森VS.中川
2日夜、都内のホテルで森、安倍、町村3氏が会談した。安倍氏は中川氏外しを唱えていたが、派内から「現状維持」の声が出ていたことや中川氏が「麻生首相を支える」と言い出していたことから、人事の一時先送りを進言した。
だが、森氏は「中川は同じこと(首相批判)を繰り返すぞ。今、決めなければ禍根を残す」と語った。森氏は麻生首相から町村派が一丸となって政権を支えるよう要請されていた。安倍、町村両氏は5日朝にも人事の1週間先送りを進言したが、森氏は「延期したら工作される」と退けた。
それでも森氏は4日、中川氏との接触を試み、町村会長体制への協力を求めようとした。福田康夫前首相が森氏に「中川氏自身に、総会で新体制を提案させたらいい」と助言していた。
だが中川氏は周囲に「今会えば誤解を受ける。筋を曲げることにもなる」と語り、森氏との会談に応じなかった。その一方で中川氏は中堅・若手に次々に電話し、「衆院選を控え、派で争ってる場合じゃない」と総会での支持を求め対抗しようとした。しかし、森氏の方が上手だった。森氏は中川氏が派を離脱しても慰留しない考えだ。
会長に復帰した町村氏は5日夕、「中川氏と話し合いたい」と語った。だが町村、中川両氏は同日夜、若手と個別に会合した。中川氏は都内の日本料理屋で同派の衆院当選1回議員十数人と会食し、「派は結束していこう。ある意味で肩の荷が下りた。今後は1年生の応援を優先したい」と語り、同派にとどまる考えを示した。
町村派のお家騒動に他派は迷惑顔だ。古賀派の閣僚経験者は「国民には何なのか分からないよ。こんなことしてるから自民党は選挙で苦戦するんだ。党内で誰かを村八分にして喜んでいる場合か」と語った。
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