「旅行記その4最終回 “エリザベート”」
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いよいよ、やって来ました!
本日は4日目(最終日)。
ウィーンから飛行機で約1時間のところにあるドイツ・ベルリンへ!
Theater des Westensにてウィーン版「エリザベート」の観劇です。
しかも期間限定でのオリジナルキャストですって!
(無事にたどり着けますように・・・)
ELIZABETH
さて、この日のために、結局一度も使わなかった「ドイツ語の本」を買い、この日のために勇気を出しての一人旅。そして、この日のために、タクシーで40分待たされても文句の一つも言わず、大人しく我慢をしました。なんていい子なんでしょう。それもそうですよ。万が一何かあってミュージカルを観る事が出来なくなってしまったら、それこそ悔やんでも悔やみきれませんからね(笑)それだけ僕にとっては重要だったんです。
なんたって、日本版「エリザベート」を観た事がないんですから。
そして、極めつけはなんと言っても、「帝劇」って言葉も知らなかったんですから!
あぁ、なんて羞恥心♪
知らない事を知らないままにするのが一番恥ずかしいから、僕は必死に勉強しました。
だからもう、「羞恥心」なんて言わせない!
さてと、実はウィーンで泊まったホテルは市内からだいぶ離れた所にあって、周りにはお店の一つもなく、何故か数え切れない程の風車がありました。すごく不便な思いをしたので、ドイツのホテルに着いて、目の前にイタリアン・レストランを見つけた時は「インディ・ジョーンズ」で宝を見つけた時に似た喜びを覚えました。
まぁ、正直どんな気持ちかは分かりにくいけど、嬉しさのあまり、今までにないくらいスムーズにチェックインを済ます事ができ、速!イタリアン・レストランに入って「ジェノベーゼなんとか」っていうパスタを食べました。幸せやわ〜。
そして、幸せに浸ってる僕に、さらなる嬉しいプレゼントが・・・。
なんと、レストランの店長らしき人がスペイン語を喋れるではありませんか。(日常会話程度ではありますが、スペイン語が喋れて良かった。母親に感謝します。)今まで英語で苦労をしてきた僕にとってこんなに嬉しい事はなく、溜まっていたストレスを吐き出すかのようにマシンガントークを繰り広げました。言葉が通じない辛さを味わった後、言葉が通じる幸せを経験すると、生きている有り難味を感じました。
ちなみに、この店長、ドイツ語・英語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語の5ヶ国語をマスター。(あんたどんだけすごいんだよ。と日本語で突っ込んだら、店長、意味も解らず笑ってました。爆笑)
ここで「偶然が重なって、ものすごく恥ずかしい思いをした話」をします。
店長と喋ってたらめちゃめちゃ仲良くなって、店長が満面の笑みを浮かべて、
「ユー、いいね!いいね!」なんて言ってるんですよ。
「どうしたんですか?」と尋ねると、
「どうした?じゃないよ。君イカしてるね!ドイツ国旗背負っちゃって!」
なんて言うんで、背中を確認したら、超恥ずかしい。
僕が4日間着ていたTシャツの背中にはなんと!・・・・・デカデカとドイツの国旗がデザインされていました。その時、初めて知りました。
超偶然!ていうか、超ミーハーボーイみたいじゃないですか!
ドイツでドイツの国旗Tシャツですよ。
日本で「侍」って書いてあるTシャツを着るのと同じくらい恥ずかしいから!
マジ勘弁です。絶対、通りすがりの人たちがみんな、
「おい!みんなちょっと見ろよ。あの日本人、ドイツの国旗のTシャツ着てるぞ!超ミーハーボーイじゃねぇ!ハハハハハハハ!!!」
って、そんな目で見られてたと思うと、めちゃめちゃ恥ずかしくて仕方がありませんでした。偶然とはいえ、へこみました。
劇場前1
さてさて、いつも脱線しちゃってすみません。そろそろ本題に入りましょうか。
ホテルからタクシーを捕まえていざ劇場にレッツゴー!(今回は速やかに乗ることが出来ました。)
劇場に着くや否や、僕はそこに居た人を捕まえては
「ピクチャー・プリーズ!ピクチャー・プリーズ!」と子供のように何枚も写真を撮ってもらいました。
劇場前2
そして、「この人がエリザベート役の人なんだぁ」「そんで、この人がトート役なんだぁ」「カッコいいなぁ」と関心しながら、他のお客さんや現地の方たちの見世物になっていた事でしょう(笑)
劇場前3
いや〜、入場する瞬間が一番緊張しましたね。ずっと楽しみにしていて、この日のためにいろいろと勉強して、一歩踏み出したら待ちに待ってた場所に入れる。
しかし、入ってしまえばあっという間に終わりがやってくる。一瞬、闇が広がりました。なんか、恋焦がれてた女性を目の前にして、簡単な言葉を言い出せずにいる感じでした。
「好き」と言ってしまいたいけど、願いが叶わなかったらどうしよう。いっその事、何も言わずに片思いのまま、彼女の幸せを見届けようか。あああああ!どうすればいいんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!
とまぁ、僕は好きになってしまうと、すぐ言ってしまいますけどね(笑)
深呼吸して、心を決めた僕は、いざ入場!
「もう僕は父親のいいなりにはならない。自分で決めた道を歩くんだ!」
そう思って、5秒後には物欲センサー作動。真っ先に「物販コーナー」に行きました。
物販グッズ
そこで購入した、公演パンフレットとDVD!(いい顔してるでしょ!?この顔は作りものです。ふふ)
これがチケット
さて、劇場内は想像以上に広く、構図がよく分からなかったので、思いのほか席にたどり着くのに手間取ってしまいました。僕の席は「11列の12席」。おお!結構前のほうじゃないですか!
ラッキーな思いをかみ締めながら席に座ったんですが、この劇場の構造が面白い。
普通、客席って何ブロックかに分かれていて、真ん中とか両サイドに通路がありますよね!?通路側の席じゃなくても、左右からたどり着きやすい作りになってると思うんですが。なんとこの劇場、通路がありません!どの席へたどり着くのにも、舞台にむかってタテの通路がないので、壁側の左右からぐらいしか通る事が出来ません。なので、みんな慣れているせいか、座ってる人はほとんどいなく、自分の席の前で立ち話しをしながら開演を待つというのが常識?らしいです。(写真でも解りづらいと思うけど参照!)
客席図
ちなみに、ラッキーな思いをかみ締めた僕は、早速アンラッキーな出来事に・・・。
僕が通らなければいけない11列目の皆様は、かなり・・・お歳を召されてた方たちが多かったせいか、すでに全員が座っていました。僕が通りたそうにしてると、それを察してくれた女性が声を掛けてくれて、全員を立たせてくれたんですが、その光景はまるで仁侠映画の「ボスを迎え入れる若い衆」のワンシーンのようでした(汗)。実に気まずかった。どうしてこういう構造なんでしょうね。防災的にもよくないと思うし、このシステムは変えたほうがいいと思います。どんなに真ん中の良い席を取ってても、遅刻をしたらOUT!
開演までに誰も座っていないと、良い席はサイドの人に取られちゃうぞ。気をつけろ!(日本人で良かった)
気まずいまま席に座って、まだかまだかとパンフレットを見ながら待っていると、開演のアナウンスが聞こえ徐々に照明が落ちてゆく。(この瞬間がたまらないですよね!)
実は、事務所の先輩の「井上芳雄さん」からウィーン版のDVDを貸して頂いてたので、事前にチェックしてました。もちろん日本版のCDも聴いていて、いつの間にか・・・はい、エリザベートの虜になってしまいまして・・・、ははははは。
その中でも「プロローグ」と2幕のオープニング「キッチュ」が大好きなんです。この曲を生で聴けると思うと、さっきの気まずいムードはすっかり吹っ飛んでいきました。
キンコンカンコン〜♪コンカンキンコン〜♪
さあ、いよいよ開幕です。
ルキーニの熱い芝居が一通りあって、「エリーーーーザベーーーート」の台詞きっかけで始まるプロローグ。
「キターーーー!!!」「たまらねぇーーー!」
この瞬間、体に雷が落ちたような衝撃を受けました。一瞬で正気を失いました。もう僕は興奮状態。
プロローグ〜エリーザベートとマックスのやり取りのシーンまで、感激のあまり涙が止まらなかったです。やっぱり生は違います。
なんというか、生でしか味わえない迫力や熱がびしびし客席に飛んでくるんですよ。
その思いに応えたくて、誰よりも大きな拍手を送りました。隣のおじさんが奇声を上げれば、僕はそれより大きな奇声を上げました。
結局、劇場全体が終始コンサートみたいな雰囲気でした。日本の舞台ではありえない光景に圧倒されながら、素直な反応は「やっぱ、こうでなきゃならないんだなぁ」と、いつも気持ちを少し抑えてしまう自分に言い聞かせました。やっぱ「いいものはいい」と素直に言える自分でありたいですね。
フリーペーパー
1幕が終わり、もうすでに満足状態の僕は、トイレに向かう途中で気付きました。
場内の所々に「ミュージカル雑誌」が置いてあるではないですか!しかも無料で。
なんて素晴らしいんだ!無料ですよ!無料!!
そこにはまだ日本で上演されていないミュージカルや、僕の知らない作品が沢山載っていて、ミュージカル猛勉強中の僕にはたまりません!
そこで何より1番目に留まったのが「ターザン」のミュージカルです。
実は僕、大のターザン好きなんです。(初公開)。
こんな素敵なミュージカルがあるならば、「いずれ絶対やりたい!!」と・・・
今、毎日筋トレに励んでいます。本気で(笑)。なので関係者の皆様、宜しくです。
妄想中
さて、話を戻しましょう。休憩中、やっと正気を取り戻し、劇場の雰囲気に慣れてきた僕は、またもや気付いたんですが、お客さん全体の年代層が高いです。もちろん若い方もいましたが、日本に比べるとおじさんの数が圧倒的に多かったです。(あぁ、そういえば、さっきおじさんと競い合ってたわ。笑)
こっちでは、ミュージカルのとらえ方や文化が違うんでしょうか。(日本の歌舞伎に似てるのかなぁ・・・?)
この日のためにお金をつくって、「この時間を思いっきり楽しむんだ!」という意気込みを感じました。まるで、今の僕みたい。そして、その熱は老若男女、差がありません。
「熱」の多さでなら誰にも負ける気がしない自分なのに、おっちゃん・おばちゃんたちの意気込みに圧されそうでしたが、もちろん負けなかったです。
さて、お待ちかねの2幕。ルキーニの「キッチュ」から始まって、みんなで手拍子し、みんなで歌いました。
1幕同様、おっちゃんがヒューヒュー言えば、僕はヒューヒューヒューヒュー言いました。
おっちゃんが笑えば、僕はその笑い声をかぶせるように笑いました。
途中から「なんか目的がずれてきた」って気がしてきたんですけど、もう後戻り出来なくて最後までそのテンションでいっちゃいました。結局終わる頃には疲労困憊(笑)。
冗談はさておき、全キャスト本当に迫力があってエネルギーがとにかくすごい。
ルドルフのシーンがやってきた時には、無心でアニメを見る子供のように噛り付いて観てました。約15分ぐらいの短い間に、自分が掲げる理想の政治から異なる父との対立・それを実現出来ない自分の無力さ・そして母の愛に飢えた一人の男が、母親にも見捨てられ生きる意味を失い、死に向かっていく物語を演じなきゃならない。たった15分の中にこれだけ濃い内容を詰め込む作業は大変です。
「俺だったらどうやるんだろう?」と、自分が舞台に立ってる姿を描きながら観てました。かなり重い役どころ。責任も重い・・・課題もまだまだ沢山・・・けれど毎日それを考えてるのが楽しくて仕方がありません。内面的に少しずつですが、僕とルドルフが近づいてきてるのかも。
そしてもう一つの課題は、やっぱり高音です。皆さんもご存知だと思いますが、ルドルフの歌う曲は(僕からすると)半端なくキーが高いんです。それを当たり前のように歌いこなしてしまう姿は勇ましかったです。僕も今、ものすごく練習してるので楽しみにしてて下さい。
あと、僕の中でルドルフに対して、とある疑問があります。それは、ルドルフが何利きなのかが未だに分からない。劇中のマイヤーリンクのシーン、ウィーン版・日本版「エリザベート」では左手で銃を構えてる。井上さん主演の「ルドルフ」では右手で銃を撃っていた。本を読んでも、二通りの仮説があり、どちらが真実なのかが分からないでいる。うぅ、気になる。すごく大切な事なのに・・・。ちなみに、僕のイメージは左利きです。
一番最初に読んだ本に「弾は左のこめかみから、右耳の後ろを貫通していた」と書かれていて、左利きとは記載されていないが、自殺する人間がわざわざ利き手じゃない方の手で銃を撃つとは考えられない。なので、そう思うんです。
さて、最初っから魅了されっぱなしのウィーン版「エリザベート」も終盤。最後のシーンでは、セットの「双頭の鷲」が脆く崩れていきました。言葉(台詞)はなくとも、それはハプスブルク家が崩壊していく様を示していた。最後の最後まで心を掴まれる演出に、僕は心から感激と、こんな素敵な作品に出逢えた事に感謝しました。
今回の旅行はとにかく強行スケジュールでした。
ミュージカルの勉強のためとはいえ、よく限られた時間の中で現地まで行こうと思ったなぁと自分自身に関心しました(笑)。
エリザベートに縁のあるものは出来るだけ見て周りたかったので、短い期間に詰め込み過ぎて正直疲れましたが、来て本当に良かったです。ルドルフが産まれた街・生きた国・そして死んで逝った場所を、そしてそして最後にはこの地で「エリザベート」を肉眼で見て・肌で感じる事ができて本当リアルだったし、何より実感が湧きました。
「自分もこれからこんな素敵な舞台に立つんだ」と思った瞬間泣けてきちゃってどうしようかと思いましたが、なんとか生きてます。この経験は僕の宝物になります。
帰国後も・・・
実は帰国後も僕のエリザベート修行?はまだまだ続き、たまたま来日されていた他のウィーン版キャストの方々出演の「ウィーン・ミュージカル・コンサート」を観に大阪にも行き、井上さんの「ルドルフ」を帝劇で観劇し、ルドルフな日々は続いていたのでした・・・!そして、これを書いている今は、僕が出演する2008年版「エリザベート」の稽古中。今度は僕が舞台の上からみなさんに感動を与える番です。
伊礼ルドルフ
最後まで僕のこの“旅行”にお付き合い頂いてありがとうございました。
これから約半年間、先輩方や皆さまのお力を借りてルドルフの短い生涯を一生懸命やらせて頂きますので、応援をよろしくお願い致します。
本当に本当に最後まで読んで下さってありがとうございました。
伊礼彼方
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