国家公務員制度の改革問題で、政府は3月中に関連法案を提出する方針だが、人事院の谷公士(まさひと)総裁は「私どもの基本的な考え方について、国会で説明することになる」と対決姿勢を崩していない。国会審議の場で政府内の見解が大きく異なれば、政権にとって大打撃となりかねず、麻生太郎首相は見切り発車で政権内にアキレスけんを抱え込むことになった。
「国会で法案が決まれば、最終的な判断なのでとやかく言うことではない。しかし、国会に呼ばれて人事院の考え方をとの質問を受ければ、こうあるべきだと申し上げる」。谷氏は3日の記者会見でこう語り、国会審議の場で人事院の見解を表明する考えを示した。
3日の国家公務員制度改革推進本部の会合には谷氏も出席。(1)今回の改革は国家公務員制度改革基本法の範囲を超える(2)工程表の通り決まると、公務員人事の中立・公平性確保という憲法15条に由来する重要な機能が果たせなくなる(3)労働基本権制約の代償機能が損なわれることを懸念する--と主張した。
閣僚の一人からは「調整が収まってからやるべきでは」との慎重論も聞かれ、最終的に首相は工程表を強行決定したが、「人事院については残る論点について調整を進めてほしい」と、さらに調整するよう指示した。
谷氏は東京大法学部卒。64年に旧郵政省入省。98年から郵政事務次官を務め、退官後の01年、財団法人マルチメディア振興センター理事長、財団法人郵便貯金振興会理事長、財団法人日本データ通信協会理事長に同時期に就任。04年には人事官に就き、06年から人事院総裁。霞が関では「官僚中の官僚」(人事院幹部)と評される。
谷氏は「引き続き調整させてもらえるものと考えている」と語っている。これに対し、甘利明行政改革担当相は3日「工程表は承認、決定されたので、これに基づき具体的な作業をやる。100年ぶりの改革をやるわけで、曲げてしまうような修正はできない」と強硬姿勢を崩していない。
民主党の高嶋良充参院議員は2日の参院本会議で人事院の機能移管を「憲法上の問題が生じかねない」と懸念を表明した。関連法案の国会審議に入れば、民主党が谷氏を国会に招致し政府内の不一致を突くのは必至で、首相は今後、難しい調整を迫られることになる。【塙和也】
毎日新聞 2009年2月4日 東京朝刊