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大学医学部の危機−山形大・嘉山医学部長

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 山形大の嘉山孝正医学部長は2月4日、文部科学省が全国の大学病院の院長らを集めた「国公私立大学医学部長会議」で、「大学医学部の危機−正しい情報の共有−」と題して講演し、「大学がやらなければならない教育、研究、高度先進医療が全部危機にひんしている。“大学人”として、きちんと意見を言わなければならない」と述べ、医療現場から意見を発信していく必要性を訴えた。嘉山氏の講演の模様をお伝えする。(新井裕充)



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■教育、研究、高度先進医療が危機に

 先生方、時間を頂きましてありがとうございます。今、いろんなことで日本の制度が疲労していると思いますが、一番大事なのは、先生方も含めてわれわれが正しい情報を持っていないことだと思います。

 で、きょうは(予定の説明時間が)5分なんですけども、ちょっとお時間を頂きましてエビデンスだけを。

 先程、(文科省の)新木(一弘・医学教育)課長が(エビデンスの重要性を)おっしゃったが、エビデンスだけを述べますので、これを先生方がどのように感じるのか、現場に帰ってから教授の先生方にお伝えください。

 (スライド2)まず、大学がやらなければならないことは、教育と研究と高度先進医療なんですけども、これが全部、危機にひんしているのではないかと、わたしは考えています。

 もちろん、先生方には「釈迦に説法」ですが、要するに、「われわれのロジスティックスが完全に崩壊している」ということを述べたいわけです。

 医師の定員増の時に、舛添(要一・厚生労働)大臣が「お金を用意します」ということをおっしゃったわけですが、なぜ文部科学省が、例えば北大の学部長が、あの時、定員増がなかったわけですよね。
 ※ 医学部の定員増に関する北大医学部長の見解は、北大広報誌のPDFをご覧ください。
 http://www.med.hokudai.ac.jp/ko-ho/pdf/2008-10-n37.pdf

 (定員増に必要な教員の)人件費がなかったということはですね、いいですか、この(スライド4の)昭和31年にできた大学設置基準で、(720人までの)学生数に対する教官の数が(140人と)決められているわけですよね。

 その後、教官の数が少しずつ増えたので、元に(医学部の入学定員を最高だった1981年の8360人に)戻しても、文科省としては「純増できない」ということがあるんですよね。

 (舛添厚労相が設置した厚労省の)安心と希望の(医療確保)ビジョン会議で、われわれが「150人」と出したのは、これ(教員数)を変えない限り、文部科学省は財務省に何も言えないと思います。

 従って、昭和31年の教育内容と今では全然違うので、これを150人に変えることによって初めて、純増の、教官数が増えます。これを変えない限り、絶対に駄目だと思います。

 それから、(大学)病院の方もですね、高度先進医療をやっているといっても、教官数が減少してきている。

 これ(スライド5は)、全国の「国立大学附属病院長会議」で出した資料ですけれども、千葉大学(医学部附属病院長)の河野(陽一)先生が記者会見しましたが、今まで50−60円ぐらいでやっていたものを、30円でやらなきゃいけない。

 国立大学病院は、こういう状況になっています。これは結局、文部(科学)省が悪いわけではないし、厚生(労働)省が悪いわけでもないし、実際はまあ、いろんな問題があるでしょう。(説明の)最後に結論を出しますけれども。








■国立大学の借入金は1兆円

 あと、先生方、これ(スライド6)を見て驚かれると思うのですが、国立大学の借入金は現在1兆円。

 これは、国大協(社団法人・国立大学協会)の資料です。ただ、法学部とか人文学部とかは借金はしませんから。

 1兆円です。医学部がある国立大学は今、1兆円の借金があります。東大に至っては679億円。一番少ないのは大分大学で、53億9459万8000円。

 ちなみに、うち(山形大)は126億あります。

 内訳は、先生方の手元にある資料(スライド7)を見ていただきたいのですが、これもね、非常に不思議なんですよ。

 国民のためにわれわれが教育しているのに、借金を何で国家公務員が返さなきゃいけないんですか? 
 こんな不思議なことをやっている、制度をやってる国はないんですよ。これも文部(科学)省が悪いわけじゃなくて、多分財務省が。

 その次にですね、これ(スライド8)です。借金だけじゃなくて、医学教育の危機です。

 これは、清水(孝雄)東大医学部長から頂いたものですが、あの東大ですら、昨年(2007年)基礎系に行ったのは1人です。その前(06年)はゼロですよ。

 先程、田原(克志)さん(厚労省医政局医事課医師臨床研修推進室長)が来てましたけれども、「卒後研修制度が…」なんて言ってましたけれども、わたしはもう、医療の崩壊どころじゃなくて、日本の医学、医療すべてが崩壊するんじゃないかと、非常に危機感を持っています。なぜならば、大学に(研修医が)戻らないからですね。いろんな制度的なミスがあったと思います。

 で、これ(スライド9)が従来、われわれが育ってきた生涯教育ですね。これは大学がやっていたわけですけども、今や大学に人が戻って来なくなったというわけです。

 それで、これ(スライド10)も、よーく考えると、非常に、僕ら不思議な人生を送っているわけですね。

 一般の社会人でしたら、6年間の高等教育を受けて、その後に勤めて…。何でわれわれが「日々雇用」なんですか? わたしは32歳で助手になりましたが、32歳まで「日々雇用」で…。普通の社会では考えられないことですよ。

 ここにお座りの文部(科学)省の方々は最初から公務員ですから、「日々雇用」ではなくて…(会場、笑)。

 われわれは「ニート」というか、「フリーター」なんですね。30歳ぐらいまで。
 こーんなことはね、あり得ないですよ。これを国民は何も知らない。退職金も切られる。人生設計は全く不安定。

 で、「社会人学教育」の不在。一生懸命、研究と教育と高度先進医療をやっているわけですけれども、これで今の若い子どもたちが大学に集まるとはとても思えないですね。もちろん、志が高い人はいます。
 でも、制度というのは、標準的な人が「そこを選びたいな」と思うのが制度だと思いますので、極端に志の高い人だけの制度をつくっても意味はないと思います。この辺もですね、先生方、後輩のキャリアパスをそろそろまじめに考えなきゃいけない時だと思います。

■医学部教授の時給は1690円

 実際、われわれが何をやってきたかと言うと(スライド11を見ながら)、日本のある聖路加(国際病院)の有名な人は「日本の医学教育が悪い」と言いますが、実際には世界でナンバーワンの役割を持っているんですね。

 ところが、その人たちの処遇っていうのは、これ(スライド12)、後でじっくり見ておいてください。高校の校長先生の方が、大学の教授より(給与が)高いです。


 それから次はですね、これ(スライド13)は、大学(国立大学法人)と国立病院(機構)と公的病院の給与(比較)です。

 これ、子どもたちがみんな知っちゃってるんですよ。こういうことを先生方も頭に入れておいてください。

 あと、「一般勤務医の生涯所得は一流企業の社員以下」(スライド14)という数字が出ております。これは、わたしがつくったんじゃなくて、週刊東洋経済に出てますので。

 あと、時間単位(スライド15)ですと、もっとひどいんですね。大学教授は4566円。

 これは文科系の教授です。医学部の教授は1690円。とんでもない環境に置かれているということです。

 これは、そもそもですね、これ(スライド16)が原因です。国内総生産(GDP)に占める公財政支出(学校教育費)の割合がですね、ビリから3、4番なんですよ。その前はビリから2番だったんです。


 これは、文部(科学)省はなかなか声高に言えないので、わたしが徳永(保・高等教育)局長の代わりに言っているようなものですけど。

 26位に上がったように見えますが、GDPが下がったからです。財務省が何と言おうと、これがエビデンスです。

 もっと恐ろしいことにですね、(スライド17の)赤い部分、親が(教育費を)出しているんです。親が。


 日本は明治以来、教育にはお金を掛けていないんです。教育と医療には。

 これほどひどいっていうことを、先生方、エビデンスとして知っていただきたいと思います。

 さらに、次の(スライド18)は奨学金です。

 「メディカルスクール構想」なんて言っていますけど、「グラント」と「ローン」に分けると、つまり奨学金を「供与」と「貸与」に分けますと、日本はですね、(スライド19を見ながら)真っ赤っ赤です。

 日本だけです。真っ赤っ赤。全部返さなきゃいけないんです。

 例えば、ベルギーとか、「公的資金なので、返さなくていいよ」という奨学金制度になっています。
 こういうことも先生方、「メディカルスクール」とかお考えになるときに、事実として頭に入れていただきたいと思います。

 次はですね、これ(スライド20)、やっぱり医療費ですね。

 ですから、われわれは、医学部は今、何が一番大変かと言うと、制度的に完全に疲弊させられて。

 (新医師臨床)研修制度が一番大きいとは思うんですが、大学の教育がちゃんとしていないとかいろいろなことをいわれますが、高等教育費が世界で下から3番目、医療費が下から何番目。

 こういう中で、世界一の医療をわれわれが頑張ってやってきたんですけども、もはや制度設計を完全に変えないと、大学の医学部そのものが崩壊しちゃうんじゃないかと思います。

 事実、ある西側の国立大学のきれいな港町のある大学の教授はですね、「もう教授なんてやってらんない」と、大都会の教授がそういうことを思ってるんですね。

 こうなってくるともう、基礎研究も崩壊します。そうすると完全に日本は、医学、医療、バイオの面で、最低国になっちゃうんじゃないかと。

 わたしが言ってるのは10年後です。今はわれわれが支えていますけど、10年後にはそうなりかねない。10年後に直しても、また50年ぐらいかかりますよ。ですから、今われわれが立たなければいけないと思います。





























■情報開示が基本

 そのための一つ(の方法)として、これ(スライド21、22)は情報公開です。

 今まで注射がいくらだったのか全然分からないので、ただ「注射」としてまとめてやっていたんですけども、情報を出した方がいいと思います。

 うち(山形大)では、4月1日から全部やりますけど、ここ(スライド23)にあるように、「カイトリル錠」がいくらだの、「ツムラ」がいくらだとか。ただ、先生方はご存じかどうか分かりませんが、心臓マッサージ、あの心臓マッサージの医療費と、普通の町でやっているマッサージでは、大体、2倍から3倍、心臓マッサージの方が安いんですよ(会場、笑)。

 そういうことが国民に分かるので、これはきちんと情報開示した方がいいと思います。情報開示することが、われわれの一番の基本だと思います。

 それで最後にですね、これ(スライド24)は2年前に、東京大学の安田講堂で、南原繁先生の言葉というのを立花隆さんがやりました。

 先生方ご存じのように、南原先生は東京大学の戦後の最初の総長です。
 (06年)8月15日に、これをやったわけですけども、石坂公成先生はアレルギーの世界的な権威ですね。佐々木毅先生は、その時の東大の総長です。鴨下重彦先生もいらっしゃいます。

 何をやったかと言うと、南原先生は時の総理大臣の吉田茂先生に「曲学阿世の徒」と言われたんですね。

 「曲学阿世」の使い方を吉田茂首相は間違ったと思うんですが、「曲学阿世」というのは、実は「御用学者」という意味です。「御用学者」と言ったわけではないんですよ。

 要するに、「言質をろうして世間を混乱させる男だ」と、吉田茂さんは言ったんです。

 ということは、何が言いたいかというとですね、大学人は唯一オピニオンを出せる人間なんですね。

 当時、戦後の時代でも、東京大学の総長はきちんと社会に対してオピニオンを出していたということであります。

 きょうも、「上意下達」のような会をさせられていますが(会場、笑)、えー(会場、笑)、だって、質問もさせないんだ、厚生(労働)省。
 あれ(新医師臨床研修制度の見直しなど)、質問なんかいっくらでもありますよ(会場、笑)。

 (スライド25)われわれはですね、きちんと、大学人として、(文科省の)徳永局長がおっしゃっていたように、「独立」「自律」ということであれば、意見をきちっと言っていかないと。
 他の産業の方々がわれわれを助けるようなことは絶対にやってくれませんので。われわれの後輩のため、あるいは国民のためにですね、医療、医学を守っていく必要があると思って、きょう、このようなデータを出させていただきました。どうもありがとうございました。(会場、大きな拍手)
 


更新:2009/02/06 09:07   キャリアブレイン

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