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「なんでも鑑定団」の古美術鑑定家、中島誠之助さんは「偽物はあってもいい」が持論だ。だから本物が輝く。「とろみのようなものがないと、人間社会は活性化していかない……許せるニセモノは小気味いいスパイスです」(『骨董(こっとう)掘り出し人生』朝日新書)▼プロの骨董商は、偽物をつかんだらぐっと腹に納め、己の不勉強を悔いる。中島さんは「許せる品」に対し、名画の複製に偽サインを入れたような手をゲテモノと呼ぶ。はなから素人をだますために仕込まれた、悪意の塊だ▼さしずめ「円天」は国宝級のゲテモノだろう。組織的詐欺の疑いで逮捕された波和二(なみ・かずつぎ)容疑者らは、超高利で出資を誘い、怪しい疑似通貨で出資者をつないでいた。集金額は約5万人から2千億円以上ともいう▼人間は持ち物に出る。社名入りのボール、純金張りのクラブでゴルフに興じる容疑者。大粒の宝石をいくつも光らせ、喜々として「減らない金」を使うご婦人。お金は円だけですと諭すのもむなしい▼さりとて日銀券のみが通貨ではないらしい。「政府紙幣」をまいて景気をよくする構想が自民党内にあるという。刷ればわき出る「減らない金」も、内でインフレ、外でYEN暴落を招きかねない。その紙が円を自称しても、下に「天」を足したくなる▼「100兆円規模で配ればいい」と聞いて、これまた中島さんの至言「偽物はある程度高く言わないと売れない」を思い出した。「値段の緊迫感」が客の欲心をそそるそうだ。何でもありの景気、いや集票対策。もはや鑑定不能である。