<本を読み終わった時、ぼくの心からさびしい気持ちはなくなり、科学の進歩によって常識が変わるのは当然なことだと思うようになっていた。ぼくは科学者になりたいと思っている>
千葉県茂原市立緑ケ丘小学校6年、田中堯(ぎょう)君はこう書いた。「なぜ、めい王星は惑星じゃないの?」(くもん出版)を読んだ田中君は星が好きだ。冥王星が惑星から外されたという報道がショックで「なぜ」とこの本を読み、天文学の歴史と科学者たちの世界に引き込まれて考える--。
青少年読書感想文全国コンクール(全国学校図書館協議会、毎日新聞社主催)に寄せられる作品は、成長期のみずみずしい心を動かす「本の力」を教えてくれる。第54回の今年は441万8141編の応募があり、入選の表彰式が6日、東京である。田中君の感想文は小学校高学年の部で内閣総理大臣賞に選ばれた。
読書し感想文を書く過程は、理解を深め、思考を整理・発展させ、対話するようにわかりやすい表現を工夫させる。総合的な学習効果がそこにはある。
文部科学省の全国学力テスト分析によると、授業で図書館を活用する学校に成績向上効果が見られた。子供が課題を持って図書館の本や資料を探して読み、疑問を解決したり内容を発展させる「調べ学習」だ。国語や社会だけではなく、全教科で子供たちに図書館活用を促す先生が増えた。
また子供たちの読書習慣が将来活字文化を守り、発展させる意義も大きい。
昨年、毎日新聞が全国学校図書館協議会の協力でまとめた第54回学校読書調査では、1カ月の平均読書量が小学生11・4冊、中学生3・9冊と過去最多になった。学校の「朝の読書」など、子供たちを本の世界に親しませる先生たちの努力や工夫が支えている。
ケータイ小説の人気は高く、書籍化されたものも含め高校生では7割近く、中学生もほぼ5割が読んだことがあり、小学生にも広がる。携帯電話普及に伴う若者のコミュニケーション文化が背景にある。読書指導の中にこれをどうとらえ、生かしていくかが課題だ。
一方、基盤的な条件整備はまだ不十分だ。東京、大阪で「文字・活字文化推進機構」などが開いた「子どもの読書環境整備推進フォーラム」でも、学校図書館の司書教諭配置は全国の小中学校の6割程度で、所蔵冊数の不足も報告された。その整備は学力充実にも不可欠だ。重要な施策として急ぎたい。
衆参両院は来年2010年を「国民読書年」とする決議を全会一致で採択した。「活字離れ」現象が進めば読解力や言語力などが衰え、文化も変質するという危機感が底にある。
理解が深く、言語表現豊かな社会。長い歴史を持つこのコンクールが今後もさらにその一助となりたい。
毎日新聞 2009年2月6日 東京朝刊