社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:「円天」事件 甘いワナを暴き出す捜査を

 独自の電子マネー「円天」などを売り物に多額の出資金を集めた健康寝具販売会社「エル・アンド・ジー(L&G)」の会長、波和二容疑者はじめ20人を超す幹部らが、警視庁などの特別捜査本部に組織犯罪処罰法違反容疑で一斉逮捕された。1億余円をだまし取ったという逮捕容疑だが、約3万7000人から1260億円を集めた疑いが持たれている。今後の捜査いかんで、87年に摘発された豊田商事事件などに匹敵する史上最悪の巨額詐欺事件に発展する可能性も指摘されている。

 L&Gは1口100万円を預ければ、元本を保証した上で年36%の配当を支払うと約束し、顧客を募った。常識では、リスクなしでの高利回りが実現されることはあり得ない。電子マネー「円天」の宣伝文句のような「使っても減らないお金」があろうはずもない。

 その意味で誘いに乗せられた出資者側にも、慎重な対応が求められていたことは事実だ。老後の蓄えなど虎の子の財産を巻き上げられた被害者らはお気の毒だが、虎の子であるならばなおさら、出資する前に信頼できる人や機関に相談すべきだったろう。「うまい話に気をつけろ」という昔からの警句を、改めてかみしめたいものだ。

 それにしても、波容疑者らの手口は悪質だ。詐欺行為と自覚して資金調達を続けていた疑いが濃く、早い段階で集めた金を配当の支払いに回す自転車操業に陥っていた。破綻(はたん)が確実になっても出資を募り続け、一昨年10月に強制捜査を受けた後まで出資者を勧誘していたというのでは、詐欺容疑を否定する波容疑者らの弁解は通用するまい。

 過去の巨額詐欺事件でも、首謀者らは経営が破綻し、刑事責任を追及されることを百も承知で犯行に及んだケースが多い。集めた金を隠匿すれば実刑判決を受けて服役しても採算が合う、とのゆがんだ損得勘定に根ざしているためだ。

 それだけに、捜査当局には事件の実態を暴き出す徹底した捜査を求めたい。被害者への返還に充てるためにも資金の流れを解明し、資金回収にも全力を挙げてほしい。同種事件の再発防止のため“うまい話”の実態を公表し、善良な市民に警鐘を鳴らす必要もある。

 1000億円単位の被害を出す詐欺事件が繰り返されるのは、行政機関や政治家の怠慢でもある。被害情報を得た国民生活センターなどが積極的に捜査機関に告発するなどの方策を講じていれば、被害拡大を食い止めることも可能だったはずだ。マルチ業界から政治献金を受けた政治家の責任も問題化したが、毅然(きぜん)たる態度で悪質商法に立ち向かい、必要な規制を講じる義務と責任が国会議員にはある。警察などが巨額詐欺事件に発展させぬため、スピーディーな捜査を展開すべきは言うまでもない。

毎日新聞 2009年2月6日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報