省益優先、縦割り行政などの温床になっていると指摘される国家公務員制度の改革が、本格的に動き出す。政府が今後の改革スケジュールを示した「工程表」を決定したからである。
工程表は、昨年成立した国家公務員制度改革基本法で定めた改革の実施期間を五年から四年に短縮した。当初、一月末に決める予定だったが、人事院が機能移管問題で激しく抵抗したため先送りされていた。
併せて麻生太郎首相は、官僚の天下りと官僚0Bが再就職を繰り返す「渡り」について、省庁のあっせんを年内に廃止することも表明した。これまで「渡り」のあっせんは認めないと言明する一方で、天下りのあっせん自体は容認する姿勢を示してきたが、方針を転換した。
そもそも麻生首相は、公務員制度改革には消極的といわれる。本気で改革を進めようという強い意気込みは感じられない。しかし、衆院の解散・総選挙をにらみ、「官僚寄り」とされる悪いイメージの払しょくを狙ったのだろう。
さらに二〇一一年度からの実施を目指す消費税率引き上げに関し、国民の理解を得るために行革断行の姿勢を強調する必要性に迫られたのかもしれない。理由はどうであれ、工程表を決めたことで改革に向けて一歩前進したのは間違いない。
ただ工程表をめぐっては、反旗を翻した人事院との溝は埋まっていない。見切り発車の感は否めないが、これから問われるのは改革の具体的な中身である。実効性と説得力を兼ね備えた内容にする必要がある。
工程表によると、各省庁の幹部人事を一元管理する「内閣人事・行政管理局」を一〇年にも新設し、天下り根絶に向けた新しい人事制度を一一年に創設する。公務員の労働基本権の拡大も盛り込んだ。
政府は今後、今年三月までに関連法案を策定する予定だ。時間的余裕は少ないが、拙速であってはならない。既得権を維持しようとする官僚側の抵抗も予想される。丁寧に議論を深めるとともに、その過程の透明化が求められる。要するに情報公開の徹底が欠かせない。
改革の柱の一つは、内閣に強力な人事機関をつくり、官僚主導の政策決定を是正することである。公務員の人事管理権を握る人事院は「中立性の確保」を掲げ、今の改革に異を唱える。主張に耳を傾ける必要はあろうが、組織防衛的な空気も感じられる。政府と人事院双方に冷静な議論を望みたい。
警察が遺体を扱っても、死因究明のための司法解剖や行政解剖が行われたのは、一割以下にとどまっている。昨年一年間の警察庁のまとめだ。大相撲時津風部屋の力士暴行死事件で死因究明制度の不備が指摘されたが、改善は進んでいない。
昨年、全国の警察が扱った遺体は十六万千八百三十八体で、前年比4・7%増だった。うち司法解剖や行政解剖されたのは9・7%で、前年に比べて0・2ポイントしか増えなかった。都道府県別の解剖率は広島の1・8%が最も低く、岡山9・0%、香川8・6%となっている。
力士暴行死事件の場合、検視官が検視をしないまま事件性のない病死と判断し、司法解剖をしなかったずさんな死因究明が問題となった。背景には、検視官や解剖を担当する専門医の不足がある。
低い解剖率では、犯罪の見落としにつながる恐れがあろう。日本法医学会は、昨年十二月に解剖医の増員など、国に対して死因究明制度の抜本的改革を求める提言をまとめた。提言は「警察が扱う遺体のうち約九割は遺体の表面検査や触診だけしかせず、死因究明のための解剖が必要な場合にも実施されていない」と現状を指摘したうえで、遺体解剖を専門に取り扱う「死因究明医療センター」を国の予算で都道府県に設置することを求めた。
さらに、「少なくとも百二十―百五十人の解剖医を増員する」「正確な死因究明のため、遺体に対するコンピューター断層撮影法(CT)を必ず行う」「解剖医確保のため、医学生の研修カリキュラム充実」なども必要としている。
死因が究明されなければ、死者の尊厳が守られないことにもなろう。制度充実へ真剣に取り組んでいくことが大切だ。
(2009年2月5日掲載)