
「無防備都市」を喧伝する 朝日・毎日と国立市長の愚(2)
ジャーナリスト 時沢和男
祖国を敗北させるための運動
それでは、「朝日新聞」「毎日新聞」などが詳しく報道した「無防備地域宣言」とはいかなるものであろうか。この運動に関しては、「無防備地域宣言運動全国ネットワーク」「無防備地域宣言をめざす大阪市民の会」「大阪市平和・無防備条例直接請求署名運動」「無防備地域・ヒロシマ」と称する団体などがホームページを開設している。そこで彼らは次のように主張している。
ジュネーブ条約追加第一議定書第五十九条は『いかなる手段によっても紛争当事国が無防備地域を攻撃すること』を禁止し、その無防備地域に四つの条件をあげている。
(a)すべての戦闘要員並びに移動兵器及び移動軍用設備は、撤去されていなければならない。
(b)固定の軍用施設又は営造物を敵対目的に使用してはならない。
(c)当局又は住民により、敵対行為がなされてはならない。
(d)軍事行動を支援する活動が行われてはならない
つまり、「無防備地域」を宣言するためには四つの条件を満たす必要があるのだ。
1.戦闘員・移動兵器の撤去
2.固定した軍用施設などの使用禁止
3.敵対行為の禁止
4.軍事行動を支援しない
また、「無防備地域」を宣言する主体は自治体でも可能だと彼らは主張する。ジュネーブ条約の規定を活用して、「(平時から)戦争不参加の意思を表明し…そのために地域の非軍事化に努め…、戦争の危機が迫った場合には自治体が無防備地域を宣言して戦争から離脱し、あくまで地域住民の生命財産を戦火から守る」(林茂夫)というのだ。
過去日本においても「一九八六年天理市、一九八八年小平市で無防備地域宣言を含む条例案を直接請求したがいずれも否決された。他方、大分県安心院町の非核自治体宣言(一九八九年六月)のように無防備地域の趣旨に沿った内容を盛り込んだ宣言の例もある」という。
右の文章にもあるように、「無防備地域」運動を初めて提唱したのは林茂夫(本名・塩伸一)という「平和・軍事評論家」であるらしい。林には、『戦争不参加宣言』(日本評論社)など多数の著書があるが今年の四月に死亡した。「無防備地域」運動は昭和五十六年から提唱したとされている。
平成九年発行の「無防備地域運動パンフ」で林は次のように述べている。「私が『無防備地域』運動をはじめたのは、一九七九年に…明治大学の宮崎繁樹さんにお願いして国際法の研究会をやったのがきっかけです。一九七七年の『第一議定書』もそのとき教えていただいたのです」
第二次世界大戦では一般住民に膨大な犠牲者が出たため、昭和二十四(一九四九)年に制定されたジュネーブ条約で「はじめて非戦闘員の保護」が規定された。問題の「無防備地域」が規定されている追加第一議定書及び追加第二議定書は昭和五十二(一九七七)年に制定された。日本はジュネーブ条約に昭和二十八年に加入したが、追加議定書を承認したのは今年の国会である(アメリカはまだ承認していない)。
自治体が「無防備地域」を宣言するためには、当該地域から一切の防衛力(自衛隊・防衛設備)を排除しなければならない。排除しなければ「無防備」ではないからだ。敵国の侵略に対して「ウチの自治体は無防備ですから他の自治体を攻撃して下さい」というわけである。まともな国家が、こんな馬鹿げた権能を自治体に認めるわけがない。当然のことながら、政府は追加第一議定書を承認するにあたり、「無防備地域」を宣言する主体は国であって自治体ではないと解釈している。
ちなみに、北朝鮮、中国、ロシアなどは追加第一議定書に批准しているという。しかし、中国や北朝鮮の「自治体」が「無防備地域」宣言をするなどということが考えられるであろうか。そうした行為を画策した人物は「国家反逆罪」として収容所送りとなるに決まっている。そもそも、北朝鮮の住民がジュネーブ条約追加第一議定書を知っているとも思えない。
要するに、「無防備地域宣言」とは「祖国を敗北させる」ための運動に他ならない。国の一部に防衛力を置くことができないとなれば、国全体の防衛計画は頓挫する。攻撃する敵国にのみ有利な「運動」なのである。
「無防備地域宣言」が現実的にあり得るのは、中央政府が(一時的にでも)崩壊した場合であろう。たとえば、昭和十二年の南京攻略戦である。蒋介石ほか中央政府・軍首脳が遁走した時に、南京市長が「無防備」を宣言し敗残兵の武装を解除したならば、整然と占領がなされ、住民は保護されたはずである(実際は便衣兵が抵抗をやめなかった)。
但し、この場合でも、徹底抗戦をしている国民党政府の中で、南京市長が日本軍攻撃の前に(すなわち、国民党中央軍が負ける前に)「無防備地域宣言」をして南京市の武装解除に動いたならば、確実に「国賊」として銃殺されるだろう。まさに自殺行為である。
冒頭の各新聞が報じた大阪市の直接請求を審査した大阪市会平成十六年第一回臨時会では、次のような議論があったという。質問者は自民党市議、答弁者は市の総務課長である。
Q「無防備地域とはどういう地域か」
A「占領のために開放された地域です」
Q「それはどういう地域か」
A「いわば無血開城、無抵抗の地域」
Q「占領軍が来たときに白旗を掲げて、どうぞ占領してください、ということですね」
A「おっしゃるとおりです」
ここで議場には失笑が漏れた。質疑は続く。
Q「宣言主体はどこか」
A「外務省の見解では国。防衛に権限を持つものしかできない」
Q「平時に宣言をあげて、誰に通告するのか」
A「わかりません」(再び失笑) →つづく
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