米国発の国債需給懸念、東京市場も視界不良に
[東京 5日 ロイター] 新米金融安定化策は来週、発表されることになったが、法案とりまとめまでのもたつきで、オバマ政権に対する市場の期待感が陰りを見せ、政策効果への疑問符が取りざたされている。
同時に、膨大な財政支出が長期金利を押し上げるのではないかとの思惑が広がりつつある。東京市場にも米国発のこうした深い霧が押し寄せ、視界不良の展開になっている。
<新金融安定化策で曲折、オバマ政権への期待感に打撃>
4日のNY市場は、米供給管理協会(ISM)の1月非製造業総合指数が予想を上回ったが、新米金融安定化策のとりまとめがスムーズに行かないことなどを反映し、バンク・オブ・アメリカ(BAC.N: 株価, 企業情報, レポート)が一時、19年ぶりの安値を付けるなど銀行株が安くなり、ダウは前日比121.70ドル安の7956.66ドルで取引を終えた。
ガイトナー米財務長官は4日の記者会見で、新金融安定化策を来週発表すると述べたが市場の懸念は払しょくされていない。東京市場の外資系投信ファンドマネージャーは「オバマ新米大統領やガイトナー米財務長官は、金融機関、納税者、政府と立場の違う利害関係者をまとめあげなくてはならず、作業が難しいのは当初からわかっていた」と指摘。「失敗すればオバマ大統領への期待が一気にはげおちるかもしれず、だからこそ全力でまとめあげることを期待できるとも言える。減損などで既存株主に負担を強いる一方で、新規の投資家に投資したいと思わせるような仕組みを作れるかがポイントだろう」との見通しを示す。
<中国景気回復期待、一部銘柄に物色の動き>
こうした米市場の不透明感が、そのまま5日の東京市場に持ち込まれ、株式市場では日経平均が反落。米株安を受けて先物から売りが先行した。5日に欧州中銀(ECB)理事会を控えているほか、あす発表の米雇用統計に対する警戒感もあり全般に見送りムードが強かった。「今期の業績大幅悪化について、市場は大部分織り込んでいるが、来期についてはどの程度の減益となるのか不透明感が強い。米国の不良債権買い取り機関(バッドバンク)構想、景気対策法案ともに議会通過の2月中旬以降まで曲折ありそうで、市場に失望感が出る場面もあり得る」(東洋証券・ディーリング部シニア・ストラテジスト、児玉克彦氏)と慎重な見方が出ている。
日経平均は売り一巡後に下げ渋ったが「主要企業の決算が判明し、目先の悪材料は出尽くしとの見方から主力株を中心に買い戻しの動きが出ている」(準大手証券エクイティ部)という。パナソニック(6752.T: 株価, ニュース, レポート)は4日、2009年3月期の連結当期損益が3800億円の赤字になる見通しだと発表したが、きょうの株価はプラス圏で推移。「前向きな構造改革で赤字幅は膨らむが、いったん体質改善がはかられれば、景気回復時の利益も膨らみやすい」(大手証券)との期待感が出ている。
また、大型の景気刺激策を打ち出している中国の景気回復期待から、コマツ(6301.T: 株価, ニュース, レポート)、日立建機(6305.T: 株価, ニュース, レポート)などの中国関連株を物色する動きも出た。「欧米に先行して中国の景気が回復するとの期待が高く、余剰資金が買い向かっている」(準大手証券)という。
<円債市場で意識される米国債増発の懸念>
円債市場では、大きな値動きはなかったものの、長期金利の低下傾向には歯止めがかかっているとの見方が広がっている。短期金利の下げ止まりをはじめ複数の要因が複雑にからまっているが、最も大きく根本的な背景として「米欧での国債増発と長期金利の上昇圧力が、東京市場でも意識され始めた」(邦銀関係者)との指摘が市場で広がりつつある。
5日午前は、国債先物が反発。日経平均が軟調に推移したことを手掛かりにして上昇幅を拡大したが、その後は株が伸び悩むと戻りに押され、相場はこう着を強めた。国債先物の中心限月3月限の前引けは、前日終値より12銭高い138円47銭と小動きだった。
だが、市場の底流では「米欧での長期金利上昇の影響を受けて、需給悪化を材料にした長期金利上昇への警戒感というマグマが徐々にたまり始めている」(先の邦銀関係者)との声が出ている。
<オバマ政権の政策実行力に疑問符>
4日の米債市場では、10年米国債利回りが前日の2.8858%から2.9389%に上昇した。米財務省が過去最大規模の四半期定例入札計画を発表して「需給懸念が市場に広がった」(外資系証券)という。
4日の欧州市場でも、10年独連邦債利回りは3.3345%から3.3367%に上昇した。先の外資系証券の関係者は「米欧ともに、金融システムへの公的資金、実体経済を支えるための景気対策と国債増発要因が目白押しで、市場でも足元では、景気の急速な下降よりも国債大量発行と長期金利の上昇リスクに目が行きやすくなっている」と指摘する。
別の外資系証券の関係者は「このところオバマ政権のもたつきが目に付く。商務長官に続き、厚生長官も当初指名された候補者が辞退し、人事で打撃を受けている。経済政策でも、共和党の協力を得ようと所得税減税の規模を膨らませる方向にかじを切りつつあるが今度は与党・民主党との調整に手間取っている」と述べ、市場では「オバマ政権の政策実行力がどの水準なのか、やや距離を置いて見ようというムードも出てきた」と話す。
政策の効果が出ないうちに、国債の需給懸念が表面化するような事態は、米住宅市場の回復を大幅に先送りさせる要因となってしまうだけに、オバマ政権と米連邦準備理事会(FRB)の双方が神経をとがらせているとみられる。
(ロイター日本語ニュース 田巻 一彦;編集 宮崎 大)
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