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横尾愛
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スポーツナビ
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ベテラン勢の活躍で幕を開けた新シーズン(1/2) 横尾愛の「ようこそフランス・リーグへ!」
2006年08月15日
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■熱狂後の新シーズンは“復帰”の時
開幕戦で古巣のPSG相手に2得点を決め、チームメートに祝福されるフィオレズ(左から3番目)【 Photo:PanoramiC/AFLO 】
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フランスに8年ぶりの熱狂をもたらしたワールドカップ(W杯)。国旗が飛ぶように売れ、液晶テレビも大幅に売り上げを伸ばした1カ月はあっという間に過ぎ、バカンスもそこそこに選手たちが戻ってきた。 フランク・リベリーというスターの誕生もさることながら、代表チームの高い平均年齢(グループリーグ初戦のスイス戦での先発11名の平均年齢は、W杯歴代3位だった)も話題となった今大会のフランス。必然的に、そして今度こそ、ドメネク監督はチームの若返りを図らねばならない。代表入りへ向けてアピールのチャンスとばかりに、フランス・リーグでも若い選手たちが台頭する新シーズン開幕になるのではないか、とひそかに予想していた。 ところが、開幕の話題をさらったのは、久しぶりにフランスに戻ってきたベテランの選手たち。W杯があろうとなかろうと、長い年月を経て気持ちも新たに祖国に戻ってきた選手たちにとって、新しいシーズンとは何よりもまず、“復帰”の時であったのだ。
「なんという復帰!」とメディアを騒がせたのは、今シーズン昇格してきたロリアンのファブリス・フィオレズである。パリジャン(PSGサポーター)には今なお記憶に新しい出来事であるが、右サイドMFとしてパリ・サンジェルマン(PSG)で活躍していたフィオレズは2004年の夏、当時の監督・ハリロジッチ氏と衝突し、移籍マーケットが閉まるぎりぎりでPSGのライバル、マルセイユへ電撃移籍。同じくマルセイユへと移籍したPSGキャプテンのフレデリック・デウーとともに、すべてのパリジャンを敵に回したのだ。 だが、レギュラーに定着したデウーと対照的に、フィオレズはその年、わずか18試合の出場にとどまった。言いたいときに言いたいことを遠慮なく言う(そして言い過ぎる)性格が災いしてか、トルシエ前監督には「あの選手はメディアに喋りすぎる」と敬遠され、後任となったジャン・フェルナンデス監督の信頼を勝ち得ることもできなかったのである。
完全にマルセイユのチーム構想から外れたフィオレズは翌年、パリ時代の恩師であるルイス・フェルナンデス監督に呼び寄せられ、カタールのアル・ラーヤンへ期限付き移籍する。だが結果を出せず、出場は8試合のみ。おまけに自分を信頼してくれたルイス・フェルナンデス監督は、ベイタル・エルサレムへと去ってしまう。残されたフィオレズはますます出番を失い、ほぼ半年間プレーしていない状態でマルセイユに戻ってきた。アルベール・エモン監督の新体制になってはいたが、フィオレズはマルセイユではやはり構想外のまま。31歳のベテランは移籍のオファーを待つ日々だったのだ。
■ブーイングに2得点で答えたフィオレズ
「もうフランスでプレーすることは、99.9%ないと思っていた」と『レキップ』紙に明かしたフィオレズに手を差し伸べたのは、ロリアンのクリスティアン・グルクフ監督。ベテランの力を求めていた昇格クラブへの期限付き移籍で、フィオレズは再びリーグ・アンの開幕戦に登場することになる。めぐり合わせとは恐ろしいもので、復帰戦の相手はPSGだった。
自分たちを裏切って飛び出し、マルセイユでパリの悪口を言いふらしていたフィオレズに、パルク・デ・プランスの観客たちは、ここぞとばかりに激しいブーイングを浴びせた。だが、前半29分に新加入のFWフローが2人のDFを細かいステップでかわしてPSGが先制点を決めたわずか3分後、ロリアンはFKから同点に追いつく。右サイドからグラウンダーで出されたパスを右足で押し込んだのは、逆サイドから弧を描くように走ってきたフィオレズである。 アラン・カイザック氏を新会長に迎え、「継続性」に重点を置いたクラブ作りで復権を図りたいPSGも、開幕戦を落とすわけにはいかない。前半ロスタイム、MFロタンが右サイドをえぐって中央へ折り返しのパス。FWパンクラトが絶妙のタイミングで突っ込んできて、PSGが再び勝ち越しに成功した。
ところがフィオレズの執念は、パリの想像をはるかに上回っていた。後半9分、中盤からのロングパスに反応したフィオレズは、右へ走ってスペースを空けつつ、ゴール前に走ってきたMFサイフィにラストパス。PSGのDFロゼフナルは猛然とタックルしたが、何とこぼれたボールはフィオレズの前へ。すかさずこれを蹴り込んだフィオレズのゴールでロリアンは再び追いついた。2得点を挙げて交代したフィオレズは、さらなるブーイングに見送られてピッチを後にした。ロリアンは勢いそのままに、MFサイフィのループシュートで逆転勝ち。PSGに残されたのは重苦しい“苦悩の予感”であった。
「これほどのスケールの選手を、ロリアンに迎えることができるとは思わなかった」とグルクフ監督を喜ばせたフィオレズの活躍。ギャンガンに所属していた時からフィオレズを見てきたPSGのギー・ラコンブ監督も、「フィオ(フィオレズの愛称)の素晴らしさは、良く分かってるよ」と言うしかなかった。 「僕は今までに2度、間違った選択をした。1度目はパリを出てマルセイユに行ったこと。そして2度目はカタールへ行ったこと」と語るフィオレズ。パリジャンからすれば、「ほら見ろ」とも言いたくなる言葉だろう。だが、フィオレズはブーイングをゴールで黙らせた……と書きたいところだが、実際は黙らせてはいない。むしろ火に油を注いだ。正確に言うと、フィオレズは「ブーイングは、僕への拍手喝采(かっさい)だと思うことにした」そうである。PSGのDFメンディが「フィオの復帰はうれしかったけど、僕ら相手に2点決めてほしくなかった」と語ったように、フィオレズの(ちょっとはた迷惑な)リベンジは、次はマルセイユ戦で火を噴くのかもしれない。
<続く>
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