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2009年2月5日

◎観光立国戦略 「魅力は地方にあり」を旗印に

 政府の観光立国推進戦略会議のワーキンググループが、訪日外国人旅行者を増やす戦略 案で「本来、日本の観光の魅力は地方にある」との認識を打ち出したことは評価できる。同会議は三月に戦略案を正式決定して政府に提言するが、この認識をこれからの観光政策の旗印として高く掲げ、地方の取り組みを強力に後押しする具体策を望みたい。

 たとえば、石川県では海外富裕層を呼び込むため、県内の魅力を紹介する短編映像の制 作が進められ、今月には金沢市内で富裕層の消費動向や生活スタイルを探る国際会議も開催される。欧米の富裕層は「リアル・ジャパン(本物の日本)」を求める傾向が強く、石川の伝統工芸や芸能、食文化、歴史景観などが象徴する通り、地方にこそ日本の本当の良さが息づいている。富裕層市場は政府と地方がタッグを組んで重点的に開拓したい分野である。

 政府は二〇二〇年に訪日外国人旅行者を二千万人にする目標を立てた。〇七年の八百三 十五万人から二・四倍にする必要があり、達成へ向けて具体的な道筋を描くのが戦略会議のワーキンググループである。観光庁によると、外国人旅行者の七割は関東、東海、近畿の三大都市圏に集中している。このため、目標を実現するには地方にも観光客を誘導したいという狙いもあるのだろう。

 ただし、数字の達成はあくまで手段であり、外国人の受け皿を地方の隅々まで広げる発 想だけでは物足りない。外国人誘客を通して地方を活性化するという目的を明確にし、地方の消費拡大に資する経済政策としての視点が大事である。

 戦略案では、外国人が一人でも地方の目的地にたどり着けるよう案内所などの観光イン フラを増やすほか、外国との文化やスポーツ交流、姉妹都市提携など、景気に左右されにくい観光需要の掘り起こしも必要としている。

 ワーキンググループの会合で示された「日本の無電柱化は明らかに遅れている」との認 識も重要である。欧米人にとってクモの巣のように映りかねない電線類は魅力ある景観の阻害要因であり、国としての一層の支援を求めたい。

◎沿岸捕鯨の再開 一考に値する「調査」縮小

 国際捕鯨委員会(IWC)の議長提案は、日本の沿岸捕鯨の再開を容認する内容であり 、一考に値しよう。沿岸捕鯨再開の代償として、南極海での調査捕鯨を縮小する条件が付けられているが、商業捕鯨再開の道が事実上閉ざされているなかでは、反捕鯨国との妥協も必要だ。

 調査捕鯨で得られる鯨肉は一年間で約四千トン、消費量は国民一人あたり約五十グラム に過ぎず、それほど需要があるわけでもない。日本の食文化を守るために、小規模な商業捕鯨を認めさせる一方で、国際的な批判や抗議行動が激化している調査捕鯨を縮小、廃止する選択肢があってもよい。

 議長提案では、網走(北海道)、鮎川(宮城県)、和田(千葉県)太地(和歌山県)の 四地域で、ミンククジラなどの日帰り捕鯨を認めるとしている。頭数は明記されておらず、六年目以降は禁止と継続の両案が記された。

 南極海の調査捕鯨については、▽ミンククジラは捕獲頭数を毎年減らして五年後にゼロ にする。ザトウクジラとナガスクジラは捕獲禁止▽捕獲枠を決めた上で向こう五年間継続―の両案が示された。

 実現すれば小規模ながらも日本が目指していた商業捕鯨が再開することになる。六年目 以降、捕鯨ができなくなる提案は受け入れ難いが、沿岸捕鯨だけでも鯨肉の需要はまかなえるだろう。

 調査捕鯨は、科学的データを集めて、本格的な商業捕鯨再開を目指す狙いで始まった。 しかし、反捕鯨国が多数のIWCで、必要とされる四分の三以上の賛成を得るのはどうみても不可能である。たとえ商業捕鯨が認められても、南極海での捕鯨が補助金なしで採算に合うとも思えない。現行の調査捕鯨を続けていても展望は開けないのである。

 それならば、調査捕鯨を交渉のカードとして、日本の伝統的な沿岸捕鯨の再開を認めさ せた方がよい。鯨肉を牛や豚肉代わりに大量消費していた時代はもう戻らない。沿岸捕鯨の伝統を受け継ぐ地域で、捕鯨文化が残り、地域おこしにつながれば、それで十分ではないか。


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