ワイナリー便り

vol.63 2001/9


[ホーム] [ワイナリー紹介] [ワインリスト] [ブランデー] [ぶどう園] [ぶどう品種] [用語集] [図書室]


収穫直前です
猛暑の7月から一転、8月は暑さに慣れたせいもあるのか、過ごしやすい日が続きました。8月の平均気温は7月よりも低くなり、猛暑から冷夏に突然切り替わったようでした。もし、7月のような暑さが続いていたら、ぶどうにも相当のダメージがあったと思います。降水量は少な目かと思いきや、台風11号による雨が200ミリ程度あり、結局8月としては平年並みになりました。台風の進路も東に偏ったため、心配されていた暴風雨にはならずに、強い雨だけで済みました。とはいってもこれほどの雨は必要なく、特に収穫が近づいているシャルドネなどにはおじゃまな雨となってしまいました。
ぶどうの成育も平年よりだいぶ進んでいたようでしたが、8月の低温傾向のお陰で、平年より5日から1週間程度進んでいるようです。これからはしとしと降り続くような秋雨が心配されます。ここまで順調に育ってきたふどうですので、秋晴れのもと、笑顔で収穫といきたいところです。
メルロー (2001/8/25撮影)。9/1現在で糖度18.5度位です。9/20頃には収穫の予定です。


「キザンファミリーリザーブ1999」を発売します。
本年4月に発売以来ご好評を頂いておりましたキザンファミリーリザーブ1998はお陰様で完売いたしました。引き続き1999ビンテージのワインを発売します。
カベルネソービニオン主体でした1998とは異なり、1999はブラッククイーンを主体に5種類の品種をブレンドし、親しみやすくも複雑さをそなえたワインになっています。
キザンファミリーリザーブ1999 (720ml \1500)
プラムやチェリー様の豊かな果実味が特徴です。ペッパーのようなスパイシーさとスモーキーなオークフレーバーが調和しています。柔らかいタンニンが舌の上に心地よく、渋味も酸味もしっかりとして余韻の長いフルボディータイプの赤ワインです。
ブラッククイーン(55%)、マスカットベリーA(15%)、カベルネソービニオン(10%)、メルロー(10%)、ベリーアリカントA (10%)。
 
裏ラベルを新しくしました。
すでにお気付きの方も多いと思いますが、キザンセレクションシャルドネ1999、ファミリーリザーブ1998の裏ラベルには、ワインの味わいの説明(テースティングノート)やぶどう品種を見やすく表示しています。この形式を全てのワインに順次採用していきます。ワインを味わうときにちょっと裏ラベルにも目を向けてみて下さい。

 
Yukariの読むワイン
 いよいよ今年もブドウの季節がやってきました。仕込みを控えて毎日天気予報と首っ引きです。うちみたいに小さいワイナリーではお天気やその他の要因で収穫の予定が変わるのが普通ですから、余裕を持ってかからないと行けないハズなのですが ・・・毎年ぎりぎりであくせくやっています。でも ”今年の仕込みは今だけ!”これを合い言葉に頑張ってワインを造ります。今年は空梅雨のお陰で久々によいブドウが収穫できそうです。2001年ヴィンテージにご期待下さい。
 今回はコルク臭の2回目で、その原因を探ってみます。

8 コルク由来の問題臭 その2

 前回コルク臭の原因となる物質についてまとめました。この中で最も閾値が低い(10-30ppb) 2,4,6-trichloroanisole(TCA)による汚染は、コルク臭の原因の60%を占めるそうです。まずはこの物質を手始めに、コルク臭の原因をまとめてみました。後半ではコルク臭を回避する対策についてもまとめてみます。
8-5 TCA taintの原因
2,4,6-trichloroanisole(TCA)は、2,4,6-trichlorophenol (2,4,6-TCP)が微生物によってメチル化されて出来た物質です。TCPは以前は木材の保存のためによく利用されていました。コルク樫の森でも散布や塗布が盛んに行われそれが残存してコルク中にTCPとして存在するというのが最も大きな原因です。またコルク中に含まれるリグニンが分解されてフェノールとなり、次亜塩素酸で漂白をする際にクロロ化されてTCPが生成することも知られています。
 TCPはコルク製造、貯蔵、輸送の過程で汚染された微生物によってメチル化されてTCAとなると考えられています。コルクから単離された様々な微生物のうちある種のカビ(Penicillium sp.)がTCPをメチル化してTCAを生成することが明らかになりました。さらに塩化物イオンを含んだ合成培地上で、Penicillium frequentansがグルコースからTCAを生成することも明らかになっています。 この他輸送に用いられる船倉内で、壁や床に塗料として利用したTCPやTCAがコルクに移行したという報告もあります。TCAは非常に少量で問題になる物質だけに、様々な汚染源が考えられます。 


8-6 その他のコルク臭の原因
Guaiacol コルク樫に含まれているVanillin(ヴァニリン)がある種のバクテリア(Streptmyces sp.)によって分解されて生成することが分かっています。ワイン製造中にオーク樽から抽出されることも知られており、閾値(20 ppm)以下の濃度で健全なワインに存在することも知られています。
 1-octen-3-one/1-octen-3-ol 前者は健全なワイン中にもわずかながら含まれていますが、後者は通常のワインには含まれません。これらC8化合物(炭素分子が8個連なった化合物)はコルク中の脂質がカビ(Aspergillus, Penicillium)によって代謝されて生成することが明らかになっています。1-octen-3-olが酸化されて1-octen-3-oneが生成します。
 2-methyl-isoborneol/Geosmin これらの物質は水道水などの”かび臭”の原因物質としての方がよく認識されており、土壌細菌(Actinomycetes)や藻類(Cyanobacteria)によって生成されます。コルク材は製造の最初の過程で乾燥のため1年近く野積みにされてされます。この際に土壌にいる微生物が関与して2-methyl-isoborneolやGeosminを生成すると考えられています。さらに、2-methyl-isoborneolとGeosminはコルクから単離された数種類のカビによって生成することも分かっています。


8-7 コルク臭の防止策
8-7-1 原因物質の除去
 製造工程で、コルク臭の原因となる物質を除去する方法が実施されています。まずコルクの森ではクロロフェノールを含んだ薬剤を使用しないこと、塩素による漂白をやめること、コルクを処理する際に使用する水には塩素、2-methyl-isoborneolやGeosminが含まれないこと。
 さらに製造、輸送の過程で微生物に汚染されないような方法も採用されています。まずコルクの乾燥の際、土壌との接触を避け管理された場所で積み上げること。その後の製造過程でも微生物汚染がないようなクリーンな環境下で行うこと。エチレンオキサイド、紫外線、二酸化硫黄、ガンマー線などによるコルクの滅菌。製品を貯蔵、輸送する際は水分を除去しサニテーションに注意すること。


8-7-2 品質管理
 製品の品質管理についての検討も盛んに行われています。品質のチェックは主に官能検査で行います。コルクの汚染物質はどれも非常に閾値が小さいため、パネラーはトレーニングが必要です。コルクメーカーやワイナリーではコルク臭を検出するエキスパートを養成しています。
検査方法も、サンプリングの頻度や抽出方法(水/ワイン、1個を1バッチにするか/複数個か、浸漬時間等)もノウハウが蓄積されています。検出閾値の小ささから機器分析が難しいとされていましたが、最近ではガスクロマトグラフィーを用いてコルク臭の物質を検出するのも可能になりました。コルクメーカーでは競い合って品質管理の質を向上させ、顧客の信頼を得ようと必死です。


8-7-3 コルクに変わるワイン栓
どんなに製造過程で改善をしても、コルクが天然物質である以上異臭をゼロにするのは不可能です。このためコルクに変わる樹脂で出来たコルク型の栓(合成コルク)が様々なメーカーによって開発されています。今ではフランス、アメリカを初めとする様々な国のワインで採用されているので開けられた方も多いかと思います。コルク臭は皆無、さらに色が自由に付けられるので装飾としての役割も果たしてくれシール性に優れています。この他日本ではおなじみだったスクリューキャップが世界各国でも採用され始めています。これは価格が安く開けやすいのが何よりの利点です。
しかしながら合成コルクもスクリューキャップも、天然コルクの持つ”高級感”がないため、現在では主に安ワインのラインナップに使用されています。

 次回から”今流行の”ワイン醸造に関するトピックスをいくつかご紹介する予定です。ワインについての技術的な質問などありましたらYukariまで是非お寄せ下さい。  

奥野田葡萄酒の”おかみ”中村知子さんとの赤裸々なワイナリー裏話"ワイナリー若おかみのホームページ"も是非ご覧下さい。