ワイナリー便り

vol.62 2001/8


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猛暑です
とにかく暑い。この一言に尽きるのではないでしょうか。7月に入ってからは梅雨らしいところは一つもなく、7/11にはさっさと梅雨明けしてしまいました。といっても実感としては6月中で梅雨は終わっていたようなものです。梅雨期間中の降水量は平年の6割程度。雨は少なく7月に入ってからも2週間程は殆ど雨はありませんでした。その後夕立などでどうにかぶどうにも水分が補給されています。
なんといっても特筆すべきは最高気温でしょう。7月中には甲府の最高気温が39度を越えた日が2日もあり、7/24には39.7度を記録しました。塩山付近の最高気温は甲府よりやや低いと思いますが、それでも39度は超えたでしょう。甲府では35度を超えた日が14日もあり、天気予報で「明日の最高気温は33度」などと聴くと「明日は涼しいのかな...」と思ってしまうほどです。下旬には暑さも和らぎ、最高気温30度以上の真夏日も連続27日で途切れました。ベリーアリカントAやメルローなど早い品種から色付きが始まっています。今後も暑い日が続くことでしょう。この調子で行くと高温による着色障害などが心配されます。なかなか丁度良いというわけにはいきませんが、全てのぶどうの収穫が終わるまでは気が休まりません。


 
Yukariの読むワイン
 今年は特に暑いですね。ニュースでも”観測史上最高”を次々と更新しているようですが、年々夏が暑くなってきているのは間違いないようです。”地球温暖化”の影響なのでしょうか?このままではカベルネやシャルドネよりカリニャン、グルナッシュ、バルベラといったイタリア系品種の栽培がはやるかも?って植えた頃には冷夏になったりして・・・  今回もワインの問題臭を取り上げます。実際現場で最も良く出会う”コルク臭”について2回にわたってまとめてみました。同じワインでも以前に飲んだ時と全く違って失望した経験はありませんか?実はよく経験しているはずの問題なのです。

8 コルク由来の問題臭 その1
8-1 コルク
 コルクはコルク樫の表皮を乾燥させて板状に伸ばしたものを栓の形状に打ち抜いたもので、ポルトガルやスペインが主生産国です。17世紀にワインがガラスの瓶に詰められるようになって以来、ワインとコルクは切っても切れない関係できています。年間に世界中で120億本以上のワインを瓶詰めしコルクを打栓しているそうです。日本やアメリカを中心に、早飲みタイプのワインにはスクリューキャップが使用されていますが、全体から見れば微々たるものです。

コルクの利点は 

  • 高速の機械を使用しても打栓しやすい
  • 長い期間の熟成に耐える高いシール性がある
  • 消費者は簡単に抜くことができる
  • そしてなにより歴史的な経緯から 高品質のワインをイメージさせる
点が挙げられます。

一方で、天然素材ならではの欠点も指摘されており、

  • きちんと打栓されなかった場合は漏れる場合がある
  • 比較的高価
  • 品質が不均一
  • コルク由来の物質によるワインの汚染(コルク臭)
などが挙げられます。

 特に最後のコルク臭は、どんなに良いブドウから作った良いワインでも、”飲めないしろもの”になってしまう危険性があるため非常に神経を払うべき問題とされています。


8-2 コルクの製造過程
 コルクはコルク樫(Quercus suber)から作られます。コルクの森の木材からワイナリーに届くまでの過程を表1にまとめました。機山ワインで使用しているコルクの場合ステップ13まではポルトガルで行われており、それ以降は日本に輸入された後コルク業者で行われています。

  1. コルク樫の表皮をはぐ(同じ木から約10年ごとに採取する事ができる)
  2. 平らに伸し工場で約1年間形成と乾燥する
  3. コルク板を選別し等級分けする
  4. 約1時間水で煮沸消毒する
  5. 積み重ねて乾燥させる
  6. コルクの長さの板状にカットする
  7. コルクの形に打ち抜く
  8. 漂白・水洗
  9. 酸処理・水洗
  10. 乾燥
  11. 選別・ほこり取り
  12. 梱包
  13. 輸出
  14. 水分量調整
  15. ほこり取り
  16. コーティング(シリコン・ワックス)
  17. 殺菌・梱包
  18. ワイナリーへ


8-3 コルク臭
 コルク臭(cork taint-英/ bouchonne-仏)が初めて指摘されたのは20世紀初めころで、”かび臭い異臭”と表現されました。おそらくそれ以前にも問題は存在したのでしょうが、ワイン自身の質の向上で、それまでマスクされていた異常が表面化したと考えられます。
 コルク臭の頻度については様々な報告がされており、2%(1983)、5-6% (1988 California)、3-4% (2000 France)等の数値が挙がっています。コルク臭の検出が人間による官能検査に頼っているため、数値でふるい分けられないことが現状の把握を困難にしています。さらに、コルク臭と”ワインそのものがかび臭い”ケースとの識別は訓練された専門家でもかなり難しいでしょう。近年の研究や生産過程の改善、さらには品質管理の徹底で頻度は下がってきている様ですが、コルクが天然物質である以上完全に問題がなくなることはないと考えられます。
 コルク臭は、コルクを生産する過程の様々なステップで、ある種のカビ(Penicillium, Aspergillus等)に汚染されるために引き起こされると考えられています。コルク生産国のポルトガル、消費国のフランス、オーストラリア、アメリカで精力的に研究が進められ、原因物質やその生成過程がかなり詳しく解明されてきました。
8-4 コルク臭の原因物質
 GC-MS(gas chromatography mass spectrometry)とGC-sniffによる解析の結果、コルク臭のするワインから6種類の問題物質が検出され、同定されました。それぞれの物質とその香りの特徴を表及び図にまとめました。
 これらの物質のほとんどは問題のないとされるワイン中にも存在します。コルク臭と判断されるかどうかは、フレーバーの検出閾値を越えるかどうかにかかわってきます。報告のある閾値についても同表に挙げました。 >
物質閾値香りの表現
Guaiacol20 ppmsmoky, phenolic, medical
1-octen-3-one20 ppmmushroom, metallic
1-octen-3-ol20 ppmmushroom, metallic
2-methyl-isoborneol30 ppbearthy, musty, muddy, camphor
Geosmin25 ppbearthy, musty, muddy, garden soil, beetroot
2,4,6-trichloroanisole (TCA)1.4-10 ppbmusty, mouldy, wet newspaper, dank cellar
 それぞれの物質については次回にまとめますが、この中で注目すべきは表の最後のTCAの閾値の小ささです。他の物質の1/3〜1/1000というわずかな量でも問題として認識されるため、コルク臭=TCAと言っても過言ではないほどTCAによるコルクの汚染は問題となっています。  

 次回は個々の問題物質についてその生成原因をまとめます。さらにコルク臭を回避する方法や新素材のコルクについても取り上げる予定です。お楽しみに!ワインについての技術的な質問などありましたらYukariまで是非お寄せ下さい。  

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