Creativeが生まれる場所 2007.7・8/vol.10-No.4・5

新ブランドに込めた思いをまずは大きな声で宣言
1976年兵庫県生まれ。1998年金沢美術工芸大学視覚デザイン科卒業。デザイン事務所を経て2003年ドラフト入社。キリンビバレッジ“世界のKitchenから”、ジュエリーブランド“PROPONERE”、光文社PR誌“本が好き!”などを手がける。
 キリンビバレッジから新ブランド、『世界のKitchenから』が登場した。このユニークなネーミングのブランドに、商品開発、パッケージデザインから広告制作まで、ほぼすべての過程でかかわったのが、ドラフトのアートディレクター福岡南央子氏だ。新ブランドに込めた思いを中心に聞いた。

――新ブランドの立ち上げにかかわった経緯というのは?
 『世界のKitchenから』には、まだ具体的なカタチの見えない企画書を見せていただいたところからかかわっています。
 クライアントのキリンビバレッジでは毎年1回、商品開発担当の社員全員に企画を提出するチャンスがあるらしいんですね。特に決まったお題があるわけではなく、とにかく商品に関するアイデアを出す。
 その中に今回の新ブランドのきっかけになる企画書があったんです。本当に自分たちが飲みたいと思うもの、自分たちの商品と言えるようなものを、丁寧に作りたいという趣旨だったんですが、「こんな味にしたい」といったことは一言も書かれていない。自分たちが飲みたいものを本当に作っているだろうか、売っているだろうかという怒りや疑問から始まり、世の中とは、社会とは、というところまで語っているような面白い企画書だったんです。
 それがドラフトに持ち込まれて、代表の宮田識と私が企画に参加することになったんですね。

会議を重ねる中で

――商品のコンセプトはどのように固めていったのですか。
 企画にかかわっているキリンビバレッジのメンバーがそれぞれすごく面白くて、いろんな可能性を追求しているんです。その企画書も、具体的な飲料のイメージまで集約されていたわけではないけれども、「きっと何かいいものがある」とみんなが感じたんだと思うんです。
 そこで、まず、クライアントとの打ち合わせというか雑談の中で出てくる、アイデアやキーワードを拾い上げてコンセプトを探していきました。それをまとめてクライアントの方に見ていただくと、またいろいろな言葉が出てくる。そういう会議を何回か重ねて、まずは文章でブランドコンセプトを作り上げていきました。この段階から商品のキャラクターが具体的なイメージになってきたんですね。

――具体的にはどういうことですか。
 企画会議の中で、キリンビバレッジの担当部長の方が海外などいろんなところに行って、いろいろな人と会ったり、いろいろなものを食べたり、飲んだりして感激した話をされたのですが、それがすごく印象的だったんです。そこで、「世界中を飛び回って、いろいろな人に出会い、いろいろなおいしいものを教えてもらってひらめき、自分たちで作ってみる」という今回のブランドの原型ができたんです。

――第一弾は、南イタリア・アマルフィのレモンピール(皮)を漬け込んだハチミツレモンですね。
 キリンビバレッジのメンバーが出した商品アイデアの中にレモンの皮を使ったリモンチェッロの発想で商品を作ってみたいというアイデアが出てきたんですね。リモンチェッロというのは南イタリアの家庭でレモンの皮をアルコールに漬けて作るお酒なんですが、皮の味や香りがするのに、レモン汁の酸っぱさがないんです。そこで、レモンは皮がおいしいのではとひらめいて、商品づくりに生かせると発想したところが面白いと思いました。そして実際にクライアントの担当者の方とイタリアではどうなっているのか見に行きました。
 現地に行くことでスタッフ全員が、いろいろな発見をしました。コピーも、現地に行ってみたらこうだったから、こう言いたいという風になったり、パッケージもイタリアに行く前とはがらっと変わりましたね。

言葉でイメージを構築

――先ほど、キーワードからコンセプトを作り上げていったとおっしゃいましたが、言葉からインスピレーションを受けることが多いのですか。
 そうかもしれないですね。絵や写真でラフを作っても、伝わりにくい段階があるんです。
 だけど、言葉だとみんなの理解するスピードが速いし、表現の自由度を残しながら伝えられる。やりたい方向は言葉で合意できているわけですから、その中で表現を探すことができるんですね。
 例えば、三角形を表現するときに、最初に黄色の三角形のラフを見せて、次のときに赤い三角形を見せたら、「この前の黄色の三角形が良かった」と言われることがあるかもしれないけど、言葉で三角形と書いたら、その後に市松模様の三角形を出すこともできるんです。言葉なら発想を狭めずに、自分の中でもまだふわふわして形になっていないものを捕まえるスピードが速いんですね。

息の長いブランドに

――新聞広告ですが、見開きではなく、ページ送りで15段広告を2本同時に掲載していますね。
 そうですね。この広告に関してはチャレンジで、クライアントも決断が必要だったと思います。今回の企画の始まりはマーケティングありきではなく、「こういうものづくりをしたい」という気持ちからスタートしています。また、長く続けたいブランドなので、ブランドの考え方をまず大きな声で伝えたいと思ったんですね。商品開発もブランド作りも同時に進めたものですし、どちらも同じ比重で伝えたいと思いました。
 それで、ブランド編と商品編に分けて、まず最初のブランド編で、新ブランドをこういう思いで始めましたと社会に宣言する形を取ったんです。見開きの同じスペースで混ぜて伝えるというのは、最初から考えていませんでした。

――商品説明がきちんと書いてあるユニークなパッケージですが、広告も商品そのものをビジュアルにしていますね。
 うちの宮田は「プロダクトヒーロー」という考え方をよくします。「いい商品やいい会社は、それを主人公にしてそのまま見せればいい」という考え方です。この『世界のKitchenから』はまさにそれなんですね。
 まずそこで大切なのが、力強い表現で新商品の登場をみんなにきちんと認知してもらうということなんです。「こんなことをします」と宣言してから、ゆっくり説明していくならいいけど、最初から小さい声で語ってもダメだと思いました。

――コンビニでも最近は新商品は2週間売れないと棚落ちするなど、新商品を育てにくい状況もあると思いますが。
 たしかに難しいことですが、いい商品ほどメーカーの販売目標や流通の常識をかいくぐって、生き延びるための力をつけてあげなくてはいけない時代なんだと思います。今後、第二弾、第三弾の商品が登場しますが、息の長いブランドに育てたい。『世界のKitchenから』のスペースが常にお店に確保されるようになればうれしいですね。


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