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鉄道復権? 01 大統領選の日、もう一つのドラマが起きた。

[Part1] 中国、世界の期待背に「65兆円」

中国鉄道省は、日本で言えば旧運輸省(国土交通省)と旧国鉄(JR各社)が一緒になったような、巨大な現業官庁である。
北京市の官庁街にある、いかにもお役所らしい、飾り気のない灰褐色の8階建てビル。2人の門衛の背には、胡錦濤(フー・チン・タオ)総書記が執務する中南海正門と同じように、一対の獅子の石像が鎮座している。
巨額の鉄道整備予算を一手に握るだけではない。春節の帰省ラッシュのころ、コネなしには手に入りにくいと言われる長距離切符の「発行元」としてその権力は増すという。

 

 

世界経済の低迷を受けて経済成長の鈍化が懸念される中国だが、鉄道省はイケイケドンドン状態だ。
昨年11月末、09年度の鉄道投資額を前年度の2倍の6000億元(7.8兆円)に引き上げると発表。さらに国内鉄道の総延長を2020年までに5割増しの12万キロに延ばす長期計画も明らかにした。20年までの投資総額は5兆元(約65兆円)にのぼる。
政府は昨年11月上旬、主要先進国に先駆けて「2年間に4兆元(約52兆円)」の景気対策を発表した。危機を前に立ちすくんでいた世界の国々にとって頼もしい巨額投資計画だった。「4兆元」は緻密(ちみつ)に積み上げた数字ではなかったようで、財政当局はすぐに鉄道省や地方政府に「もっと鉄道整備のスピードをあげろ」とハッパをかけた。同省の投資計画の上方修正はこうして決まった。

計画を発表した日、記者(原)は鉄道省の整備計画責任者、技師長の何華武(ホー・ホワ・ウー)を訪ねた。何はにこやかに、力強い調子で語った。「日本も新幹線によって高度成長を実現した。中国もいま、高速鉄道によって経済が大きく飛躍しようとしている。日中ともに『高鉄経済』ですよ」

鉄道省は、遠大な高速鉄道網の計画を「四縦四横」政策と名付けている。広い国土に時速300キロ以上の高速鉄道を縦4本、横4本造る、という意味だ。いわば「中国版・整備新幹線」構想である。
「縦」は北京から上海、広州、ハルビンなどと結ぶ3線。それに杭州から深センを結ぶ南方の路線。「横」は青島~太原、徐州~蘭州、上海~成都、上海~昆明の4線だ。主要大都市を結ぶ総延長1.6万キロの鉄道となる。

高速鉄道開業に合わせて新築された北京南駅。ロビーは国際空港のように広い=原真人撮影

この壮大な整備計画の最初の一歩が「京津線」だった。北京オリンピック開催の直前、昨年8月1日に開業した北京~天津の高速鉄道だ。真新しい始発駅の北京南駅は、まるで国際空港のようだ。天井の高さは50メートルもあろうか。巨大なロビーは、ビジネス客や観光客であふれていた。
列車名の「和諧(わかい)号」は胡錦濤の政治スローガン「和諧(調和)」からとっている。最短5分間隔で発着し1日70往復、約7万人が乗車する。普通席の乗車料金は片道58元(約750円)。

最高時速350キロで120キロ区間を30分で結ぶ。何は「350キロで走っても安全ベルトもいらないし、コップの水もこぼれない」とその技術水準に自信を見せる。
日本では騒音規制の制約もあって山陽新幹線の時速300キロが最高速度だ。和諧号に実際に乗ってみると、車内の速度計に表示された速度は時速333キロが最高だった。揺れはそう気にならない。ほぼ直線コースばかりとはいえ、乗り心地は日本の新幹線と変わりなかった。女性乗務員が満席の乗客一人ずつに高級ミネラルウオーターをふるまうサービスまである。

(文中敬称略)

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