【シリーズ】新局面を迎えた知財立国 日・米・欧間の世界特許システムを構築 知的財産戦略推進事務局長・荒井寿光氏に聞く(2) [2005/06/13]
知的財産推進計画2005の策定を主導した内閣官房・知的財産戦略推進事務局長の荒井寿光氏が,同計画の概要と知財立国の実現へ向けた想いを語った。全6回に分けて掲載する。第2回は,日・米・欧間における特許相互認証へ向けた取り組みについてである。 (まとめは河井貴之=日経BP知財Awareness編集)
日・米・欧の特許庁間による特許の相互承認を実現 特許の出願に際して,日本国内だけではなく,同時に海外にも出願する企業が年々増加している。こうした複数国への出願は,米国や欧州の企業においても同様である。 国別に出願することは,出願者にとっては事務手続き,費用の両面で大きな負担である。加えて,各国の特許庁においては,出願件数の増加に伴う審査の遅延や事務作業の煩雑化などが深刻な問題になっている。この傾向は将来さらに強まる見込みであり,問題を解決するためには,各国における特許制度の共通基盤として世界規模の特許システムを構築することが不可欠になってきた。 世界特許システムによって,事務手続きの合理化と,各国における特許審査の相違を小さくする「標準化」が可能になるため,特許制度を利用する側と運営する側の双方に大きなメリットがある。 3段階の取り組みを2005年に開始 現在,日本・米国・欧州の3地域に対する特許出願件数は,年間約106万件である。この数字は,全世界における出願件数(約130万件)の約80%を占める。このうち約20万件を3地域の特許庁が重複的に審査している。今回構想している世界特許システムでは,こうした重複的に審査している出願について,日本,米国,欧州が相互に承認する仕組みを目指す。 世界特許システムの構築は,大きく区分して3段階で進めていく(図1)。 図1:世界特許実現に向けた段階的取り組みのイメージ 出所:知的財産戦略推進事務局の資料に基づき日経BP知財Awareness編集部が作成 米・欧の特許審査を日本特許庁における審査に活用 第1段階として,米国と欧州の特許審査を日本特許庁が活用する仕組みを2005年に開始する。米国,欧州と比較すると,日本の出願審査には滞貨があるため,滞貨分の解消から取り組まなくてはならない。 具体的には,日本と米国,欧州で共通に特許出願されているもののうち,米国特許商標庁(USPTO),欧州特許庁(EPO)がすでに審査したものに関しては,日本特許庁は審査に際して調査を重複的に実施せずに特許付与の諾否を決定できるようにする。そのために,次世代型の「ドシエ・アクセス・システム(各庁が保有する電子包袋への相互アクセスシステム)」を構築し,2005年度中に運用を開始する。 「基盤は整っている,後は踏み切るだけだ」 日・米・欧の特許審査は,すでに一定レベルで制度の調和が図られている。各特許庁による審査結果についても,大きな相違がないことが相互調査で分かっている。日・米・欧は技術開発の動向や民間企業の実務面でもほぼ同レベルにあり,世界特許システムを構築する上で必要な条件は十分に整っている。後は,構築への第1歩を「踏み切る」だけである。 こうした特許権の国際化については,法律的な「属地主義」の観点から問題視されることがある。例えば,「特許権の付与は各国に属する権利であり,世界特許システムなどの仕組みはこの属地主義に反するおそれがある」といった意見だ。しかし,世界における特許制度の基礎である「パリ条約」が締結されたのは1883年であり,その当時と比べると特許を取り巻く現代の環境は大きく異なっている。著作権(ベルヌ条約)や商標権(マドリード・プロトコル)において世界規模での相互承認の仕組みがすでに機能していることから分かるように,同様の仕組みである世界特許システムは法理論的にも実現可能だ。 付け加えて言えば,第1段階については,「他国による特許審査の結果を活用すること」が目的であり,特許権の付与自体は従来と同様に各国の特許庁が実施するため,属地主義には反しない。 「“国際公共財”としての特許システムを創り出す時代が来ている」 属地主義の問題に関わらず,今後,世界特許システムを具体化していく上では,例えば米国における「先発明主義」など法律,手続きの国による違いを調整しなくてはならない。しかし,それらは制度上の制約に過ぎないとも言える。既存の枠組みにこだわらずに,世界の人々の要請に応える「国際公共財」としての特許システムを創り出す時代が来ている。大切なことは,利用する人々のニーズや使い勝手を反映した制度を組み立てることだ。 世界特許システムは,日本だけではなく米国や欧州の人々にとっても大きなメリットをもたらすと確信する。さらに,将来,日・米・欧3地域による取り組みが軌道に乗れば他の国々がこのシステムに参加する可能性も高まり,本当の意味での「世界特許」への発展が大いに期待できる。(次回へ続く) |
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