定年退職後の人生が実り豊かな秋となれば、それは願ってもない恵みではないでしょうか。
長年会社に勤務されていたお方が、誠実さと勤勉を高く評価されて会社の守衛として迎えられ、第二の人生をお迎えになられました。ところが、勤務の都合で、夜勤明けは早朝帰宅となり、一日ゆっくりくつろぐことができるといった、結構時間に余裕のある生活ができるようになりました。
そんなある日のこと、小学生のころ得意であった絵画制作を始めるようになられ、得意の草花を題材に画筆を取る日々が続きました。油絵を趣味としているお方が所属している美術団体に、出品されたら、と勧められ、ためらいながらも百合の絵を出品されたところ、思いがけなく新人賞を受賞。やがてそのことが記事となって会社の社内通信にのせられると、翌朝、社員から「お早う、画伯」と挨拶されるようになりました。
機会というものはただ一度だけ扉を叩くものだ、という英語で諺ふうに言われておりますが、一度叩かれた扉がまた思わない方向から叩かれたのです。「あんなにすばらしい百合の絵を描かれるのでしたら、生け花もなさるのではありませんか」と聞かれ、「はい。実は私はお花の師匠の免状ももっております」とお答えになったことが切っ掛けで、教会の祭壇に花を生けるように勧められました。
ある日曜日、ミサが終わると、一人の信徒から話しかけられた言葉が深い感動を呼び起こさせたのです。「このたび祭壇に添えていただいたあの花は、私の妻が生前大好きであった花なのです。ミサに与りながら、あの花を見ておりますと、妻のことが思いだされましてね。」 語るも涙、聞くも涙。チャンスとは生かし、生かされるものではないでしょうか。
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