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世界同時不況を受けて、輸入関税の引き上げや自国産業への補助金のような保護主義的な動きが、各国に出ている。そこへ、よりによって戦後の自由貿易体制の中心となってきた米国で、公共事業から輸入製品を締め出すような法案が審議されている。
問題の「バイ・アメリカン(米国製品を買う)」条項は、8千億ドル(約72兆円)を超える景気対策法案に議員修正で盛り込まれた。公共事業で米国製の鉄鋼の使用を義務づける内容で、下院が先週可決した。賛成の中心となったのはオバマ大統領の与党、民主党だ。上院では義務づけの対象品目を工業製品全体へ広げた法案を審議中だ。
これには各国から批判の声が高まっている。欧州委員会は「可決されれば看過できない」と警告。日本も二階経済産業相が先週末の世界貿易機関(WTO)の非公式閣僚会合で「昨年11月の金融サミットで保護主義防止を誓った首脳宣言の趣旨とまったく違う」と指摘し、見直しを求めた。
オバマ大統領は今週、テレビのインタビューでこれについて「貿易が世界規模で落ち込んでいる時に、米国が世界貿易より国益ばかり考えているというメッセージを送るのは誤り」「貿易戦争を引き起こさないという保障が必要だ」と述べた。もっともである。
ただ今後、上下両院の調整を経て、もしこの条項が景気対策法案に含まれたまま議会を通れば、オバマ氏も難しい立場に置かれる。拒否権を行使すれば景気対策の財政出動や減税まで遅れるし、いきなり議会と対立するのは新政権として避けたいところだろう。
そこは、世界の期待を背負って登場したオバマ氏である。いまから議会を説得し、保護主義を寄せつけない姿を世界に見せてほしい。上院は考え直して条項を削除すべきだ。
米国は大恐慌下の1933年にもバイ・アメリカン法をつくり、世界経済の保護主義化に拍車をかけた。それが誤りだったことは、その後、世界不況が長期化し世界大戦へとつながった歴史がはっきりと示している。
今回のバイ・アメリカン条項には、米国の産業界の中にさえ反対論が強い。米国が外国製品を排除すれば、同じように他の国で米国製品が排除される恐れがあるからだ。そうなると米国の輸出企業も打撃を受ける。
報復が報復を呼べば、世界貿易はますます縮小し、どの国の経済も共倒れになってしまう。
4月に開かれる2回目の金融サミットでは、この保護主義が焦点の一つとなるだろう。そのときオバマ大統領が首脳たちへ「自由貿易の堅持」を訴えられるよう、自国の保護主義を排除しておく。経済危機の震源地となり不況を世界中へ及ぼした米国には、そのように行動する責任がある。
09年度当初予算案をめぐる衆院の予算委員会が幕を開け、与野党の論戦がいよいよ熱を帯びてきた。
秋までに必ずある総選挙を意識してのことだろう。野党各党はきのう、えりすぐりの論客を質問に立て、麻生首相や閣僚に論戦を挑んだ。
民主党は菅直人、前原誠司の両元代表、「消えた年金」の問題を発掘した長妻昭政調会長代理ら、共産党は志位委員長が自ら立った。野党側の質問、そして政府側の答弁に耳を傾けていると、なるほどとうなずいたり、逆に不見識に驚く場面が何度もあった。
耳を疑ったのは、道路特定財源の一般財源化についてただした前原氏に対する、首相の答弁である。
首相は一般財源化を実現したと胸を張る。ならばなぜ、09年度予算案に盛られた道路整備関係費が前年度とほとんど変わらないのか。これでは、やるやると言うだけで実はやらない「やるやる詐欺」ではないか。こう追及した前原氏に、首相は次のように答えた。
「歳入が一般財源化されたところで道路特定財源の一般財源化は終わっている」
首相はこう言いたいようだ。
ガソリン税などを道路にしか使えない特定財源とする制度はやめた。だから一般財源化は立派に実現したのだ。そのことと、その財源をどう使うかはまったく別の問題だ。道路が欲しいという地方の首長らの要望もある以上、その分を道路整備に支出することに何の不都合があろうか――。
これは詭弁(きべん)ではなかろうか。
昨春、一般財源化を決断した当時の福田首相は「地球温暖化対策、救急医療体制の整備、少子化対策などさまざまな政策にも使えるようにする」と表明した。麻生首相もこの約束を「閣議決定もされている。引き継ぐ」と国会で明言した。
国民はどれだけの道路予算が医療などに回るか注目していたはずだ。それが、結果は一般財源化前と同じでした、というのでは「だまされた」と思う人が少なくないのではないか。
志位氏は非正規労働者の大量失業を生んだ政治と企業の責任を問うた。その質問には、豊富な聞き取り調査を踏まえての迫力があった。
官僚の天下り、「わたり」をどのようになくしていくのか。不況対策と財政再建をどう両立させるか。消費増税は……。論ずべき課題は山ほどある。
この国会には、論戦を通じて総選挙での争点を有権者に明らかにする重要な役割がある。野党の側にも自分たちが政権をとればこうする、という具体的な政策や構想をぜひ示してほしい。
その意味で、相変わらず民主党の小沢代表の「顔」が見えないのは物足りない。党首討論を含め、できるだけ早く論戦の表舞台に立つべきだ。