警察が遺体を扱っても、死因究明のための司法解剖や行政解剖が行われたのは、一割以下にとどまっている。昨年一年間の警察庁のまとめだ。大相撲時津風部屋の力士暴行死事件で死因究明制度の不備が指摘されたが、改善は進んでいない。
昨年、全国の警察が扱った遺体は十六万千八百三十八体で、前年比4・7%増だった。うち司法解剖や行政解剖されたのは9・7%で、前年に比べて0・2ポイントしか増えなかった。都道府県別の解剖率は広島の1・8%が最も低く、岡山9・0%、香川8・6%となっている。
力士暴行死事件の場合、検視官が検視をしないまま事件性のない病死と判断し、司法解剖をしなかったずさんな死因究明が問題となった。背景には、検視官や解剖を担当する専門医の不足がある。
低い解剖率では、犯罪の見落としにつながる恐れがあろう。日本法医学会は、昨年十二月に解剖医の増員など、国に対して死因究明制度の抜本的改革を求める提言をまとめた。提言は「警察が扱う遺体のうち約九割は遺体の表面検査や触診だけしかせず、死因究明のための解剖が必要な場合にも実施されていない」と現状を指摘したうえで、遺体解剖を専門に取り扱う「死因究明医療センター」を国の予算で都道府県に設置することを求めた。
さらに、「少なくとも百二十―百五十人の解剖医を増員する」「正確な死因究明のため、遺体に対するコンピューター断層撮影法(CT)を必ず行う」「解剖医確保のため、医学生の研修カリキュラム充実」なども必要としている。
死因が究明されなければ、死者の尊厳が守られないことにもなろう。制度充実へ真剣に取り組んでいくことが大切だ。