伸びる日脚に春の足音を感じる。きょう立春の岡山の日の入りは午後五時三十六分だ。最も早かった昨年十二月上旬の四時五十三分に比べると四十三分も遅くなっている。
一方、きょうの日の出は午前七時ちょうどだ。最も遅いのは年も明けて一月上旬の七時十二分だったので十二分早くなったにすぎない。文字通り日脚は伸びるもので、朝より夕にこそ、日の長さを感じ取ることができる。
街を歩くと、扇を半開きしたような樹形のケヤキが目につく。公園の植栽や街路樹としてよく見られ、今は葉っぱがないので一本一本の枝ぶりが澄んだ空に映えて見事だ。
夏場は茂った濃い緑が木陰を提供するものの、冬にかけては大量の落ち葉で厄介者扱いされることもある。それでも葉を落とした枝の間から差し込む日の光は、この時期、温かい贈り物だ。
俳人・坪内稔典さんの「季語集」(岩波新書)に、「光の春」が新しい季語として入っている。「日脚がずいぶん伸びた二月半ばから三月にかけては、光が春を先取りしたかのようにきらめく。それが『光の春』」と説く。
落葉樹は、「光の春」を一足早く実感させてくれる。ことに空に向かって大きく枝を広げたケヤキの姿は、太陽に手を伸ばしているようにも見える。樹木も春本番が待ち遠しいようだ。