日本郵政がオリックス不動産に「かんぽの宿」を一括譲渡する契約を結んだ問題で、波紋が広がっている。鳩山邦夫総務相は国会で「入札経過について日本郵政から詳細な説明がない」とし、日本郵政株式会社法に基づく立ち入り検査を検討する考えを表明した。野党も両社の間に不透明な動きがあるとして追及を強めていく構えだ。
昨年末、日本郵政が「かんぽの宿」七十施設を運営事業部門ごとオリックス不動産に譲渡すると発表し、年が明けてすぐ鳩山総務相がこれに強く反対する考えを示した。
総務相は、宮内義彦オリックス会長が政府の総合規制改革会議議長などを務め郵政民営化の検討にかかわった、売却額が安すぎる、それぞれの地元企業に売却した方がよい―などを反対理由に挙げた。日本郵政が当初明らかにしていなかった譲渡額は約百九億円だった。
総務相の反対は郵政民営化反対派へのアピール狙いといった見方もあったが、時がたつにつれて流れが変わってきた。一月下旬には七十施設の土地代と建設費が、総計で約二千四百億円に上ることが判明した。確かに譲渡額との差は大きい。
日本郵政側は「かんぽの宿」は総じて立地が悪く収益性が低いため譲渡額が安い、現状でも年間約四十億円の赤字事業、一括売却でなければ売れ残りが出て従業員の雇用を守れない―などと主張したものの、総務相は姿勢を変えなかった。西川善文社長は先週末、譲渡を一時凍結し、検討委員会を設けて譲渡方法などについてあらためて検討し直すと表明した。
首都圏の利便性の高い社宅が一括売却の対象になる一方で、落札額に影響しかねない都内の優良物件が外れている。旧日本郵政公社時代に鳥取県の施設を評価額一万円で購入した不動産会社が、六千万円で転売していたことなども分かってきた。
事の経緯を順にみていくだけで、不可解さが募ってくるといわざるを得ない。徹底調査を求める声が大きくなっているのは当然だ。日本郵政は早急に譲渡のいきさつなどを調べ直し、譲渡額の妥当性も含めて疑念に応える情報を示さなければならない。西川社長は検討委を外部の専門家で構成するとした。今後この組織が柱になるなら、公正さに留意する必要がある。
日本郵政の動きが鈍いようであれば法に基づく対応も致し方あるまい。「かんぽの宿」に限らず巨大な民営化事業には何より透明性が欠かせない。
ニッポン放送株のインサイダー取引事件で、証券取引法(現金融商品取引法)違反罪に問われた村上ファンドの元代表村上世彰被告の控訴審判決で、東京高裁は懲役二年など一審の実刑判決を破棄、懲役二年、執行猶予三年を言い渡した。罰金三百万円と追徴金約十一億四千九百万円は一審通り。一緒に起訴された投資顧問会社の罰金も三億円から二億円に減額した。
村上被告は無罪を主張。控訴審で最大の争点は二〇〇四年十一月時点で、ライブドア(LD)側がニッポン放送株の大量取得を決定し、その情報を村上被告に伝えたかどうかだった。
判決では、村上被告がLD側から伝達されたインサイダー情報に基づき、ニッポン放送株約百九十三万株を購入して、高値で不正に売り抜けたと認定。「取得額は巨額で株取引のプロによる犯罪。刑事責任を軽視できない」と非難した。
執行猶予としたのは「当初は、明確に違法と意識して行動していたとは思われず、実刑は重すぎる」ことや「現在は株取引の世界から身を引いている」ことなどを挙げている。
証券市場の公正さを害し投資家らの信頼を損なう不正なインサイダー取引に対して司法があらためて厳しい姿勢を見せたといえよう。
一九九九年に設立された村上ファンドは、資産価値や利益水準の割に価格の低い企業の株を取得し、配当の増額を求めるなど「物言う株主」として注目された存在だった。
実態の分かりにくい投資ファンドへの規制を求める声が高まり、証券取引法を強化した金融商品取引法が成立するきっかけとなった。インサイダー取引事件はそれでも後を絶たないのが実情だ。株式市場への監視を弱めてはなるまい。
(2009年2月4日掲載)